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「エモさ」を超えて、使わない理由がないプロダクトをつくる(PR Table大堀兄弟×UBV岩澤)

「エモさ」を超えて、使わない理由がないプロダクトをつくる(PR Table大堀兄弟×UBV岩澤)

2018年11月、「わが社」を伝える、新しいPRソリューションを開発・運営する株式会社PR Tableが総額4億円超の資金調達を行いました。ユーザベースグループのUB Venturesからも出資し、代表の岩澤がアドバイザーにも就任。昨年はPR3.0カンファレンスを成功させるなど、展開を加速しているPR Tableの大堀航・海兄弟に今年の戦略についてインタビューしました。

大堀 航

大堀 航KOH OHORIPR Table 代表取締役

1984年7月生まれ。中央大学法学部卒業、大手総合PR会社・オズマピーアールを経て、2013年オンライン英会話サービスを運営するレアジョブに入社。PRチームを立ち上げ、14年...

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大堀 海

大堀 海KAI OHORI PR Table 代表取締役

1987年10月生まれ。中央大学法学部卒業。都内有名カフェを運営するベンチャー企業で営業・広報を経験し、2012年にPR支援事業で独立。5期運営した後、事業譲渡し、兄と創業し...

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岩澤 脩

岩澤 脩OSAMU IWASAWAUB Ventures 代表取締役 / PR Table アドバイザー

慶應義塾大学理工学研究科修了。リーマン・ブラザーズ証券、バークレイ・キャピタル証券株式調査部にて企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザ...

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目次

PR Tableの「チーム経営」

大堀 航氏(以下「航」):
インタビューの前にちょっといいですか? 僕ら3人で創業したんですが、周りから見えてる役割分担と実際の役割分担が違うので、その前提の話をしたいなと。

ど、どうぞ。
PR Table 大堀航氏

航:
まず僕ら、ユーザベースの共同創業者の皆さんが昔から好きで、チーム経営に憧れを持っていたんです。でも僕ら3人じゃ無理だったっていうのが、創業してから4年の気づきです。僕と弟が2人で市場の動向を見ていて、取締役の菅原(菅原 弘暁氏)がチームを見ている。ユーザベースさんに比べると、全然足りてないぞという実感があります。

岩澤 脩:
外部から見るとうまく役割分担ができている経営チームに見えていたので、それは意外でしたね。

ユーザベースの共同創業者で言うと、梅田(優祐)がどの山に登るか決めて、新野(良介)が「何で登らなきゃいけないか」をみんなに説いて、稲垣(裕介)がチームを見て一緒に登るみたいな関係性です。PR Tableの皆さんのなかでは、ピースがまだ足りていないっていうことですよね。

航:
そうですね。今のうちの状況でいうと、菅原が「何で登らないといけないか」「手をつなぎあって登ろう!」を語って社員みんなの背中を押す役割を担ってもらっていて、僕と海はひたすら突っ走る! みたいな分担です。

僕ら組織づくりとかは苦手なんですよ。前を向いていると、抜け落ちちゃうというか、逆に引っ掻き回しちゃう感じですね(笑)。その点菅原は、人と向き合うことが地でできる金八先生タイプ。人の成長もちゃんと見てくれているので、安心して任せられています。

「PR3.0って何だ?」を生み出したカンファレンス

それで言うと2018年に開催した「PR3.0 Conference」は、PR Tableにとっても大きな山のひとつだったと思います。そもそも3人の誰がやろうと言い出したんですか?

大堀 海(以下「海」):
誰でもない、というのが答えですね。

シリーズAで1.5億調達したときに、めっちゃ地道な戦略をVC側のパートナーさんに持っていったんですよ。そうしたら、「せっかく1本調達してやるんだから、何か形に残そうよ」と言われたんです。「微妙に事業は伸びているけど、中で何が起こっているんだろう?」みたいな世界にはしたくない、っていうのを言っていただいて、確かにそうだなと。そこから出てきたアイデアがカンファレンスでした。

PR Table 大堀海

航:
僕らはもともとパブリック・リレーションズという考え方を本来の意味に戻し、スケールさせるというのが原体験なので、やらない理由はないだろうと。むしろやっていいんですか?という気持ちだったので、パートナーさんからの本質的な提案は嬉しかったですね。

その後「じゃあ誰がやる?」ってなって、メインが菅原で、僕も事業と一緒にサポートしつつ、海が営業とプロダクトを見る、みたいな体制にしました。

結果としてはいかがでしたか?

航:
蓋を開けてみたら1,300人以上の方に参加いただいて、当日もすごい熱量で。やってよかったなと思いました。

イベント前のプロセスでもPR・HR業界の皆さんとワイワイつくっていたので、営業や採用面でもけっこう良い影響があったんですよ。登壇者の方々とのリレーションを構築できたのも大きいです。

岩澤:
登壇者も参加者も、「PR3.0って何だ?」「じゃあ1.0、2.0って?」と会場で議論していたのが印象的でしたね。主題として1本通っていた。誰も答えを持っていない議論のきっかけをPR Tableがつくったんだなと感じました。

「企業にはエモさが必要」の原体験

「PR3.0」に対するPR Tableの皆さんからの回答のひとつが、「エモさ」なのかなと思います。おふたりの中での原体験は何なのでしょうか?

海:
PR業界にいる人たちって、きっと近しいことを考えていたんじゃないかと思うんです。PRというとメディアに情報を提供して、露出、パブリシティを獲得していくような仕事なんですが、それって本当に企業さんを幸せにしているのかと感じるシーンもある。

もっとメディアに頼らない、企業が自らがんばるような形のPR活動ができないかっていう課題感は創業前からずっと考えていました。

航:
個人的な感覚で言うと、僕、ダサいものがイヤなんですね。最近でこそ「アー写」だって言われるようになりましたけど、創業したときから写真はこだわってましたし、オフィスの内装だって、決して高いものじゃないですけどこだわってる。小さいベンチャーだからって無思考になりたくないというか、ちゃんと良いものを選ぶ意識をなくしちゃいけないっていうのがありました。

企業PRにエモーショナルさが必要だと実感したのは、PR代理店からレアジョブに転職したときです。ニュースバリューがあるものって、やっぱりそんなに出てこないんですよね。「○億調達」とか「ユーザー○万人突破」とか。そんなに頻繁にあるものでもないので。

それで社内のちょっといい話とか、ステークホルダーからのコメントとかをコンテンツ(ストーリー)にして発信していったんです。そうしたら社内からの反応はあるし、採用には効くし、パブリック・リレーションズって本来こうあるべきだよなというのが僕の原体験です。

対談風景

エモさは事業に役立つのか

よく聞かれる質問かもしれませんが、エモさがあることで、事業にどのようなメリットがあるのでしょうか? 利用企業が増えていく中で、結果を求められるシーンも増えてくるかと思います。

海:
すごく難しい質問です。エモさがある企業活動と、エモさがない企業活動。やっぱりエモいほうが成長カーブが下がりにくいと感覚的には思っているんですけど、それを明確に説明できないのが僕の歯がゆさです。

企業がエモくなることによる経営上の変化を、僕らが事業を通して証明していかないといけない。結果で証明するしかないんだと、今は腹をくくっています。

航:
それがちょうど、僕らが今回資金調達し、チャレンジしていくことの1つです。

経営レイヤーでどう測定するかというと、「人」、HRでしかない。インターナルであればエンゲージメントスコアにどれだけ影響しているのか。採用であればどういうコンテンツがリードを取れて、選考の歩留まり改善に効いたとか、内定率がどうだったかなど、取り方はいくらでもあると思います。

これだけ「エモい」って言われてきたので、プロダクトは逆にエモくない方向に開発していく予定です。ぱっと見た目はエモいんですが、提供している価値はゴリゴリにロジカルで、エモさ抜きで使える、効果出る、っていうものをつくり上げます。

企業PRにおけるAdobeのような存在に

岩澤:
PR Tableへの出資を決めた理由の1つは、経営チーム3人のチームワークの良さ。2つ目は先ほどの「エモさ」が求められてきているという時代の変化。ユーザベース自身もそうだったのですが、企業にも社格というか、ストーリーが重要になって来るという実感があります。そして3つ目がプロダクトですね。

プロダクトを見てすごいなと思ったのは、PR Tableがこれまで培ってきたエモいコンテンツが体系的に整理されていて、新任者でも誰でも、フォーマットに沿えばストーリーを書き始めることができるようになっている。あれを実現できているプロダクトは世界を見てもなかなかないなと思いました。

UB Ventures 岩澤

航:
僕らがこれまで1,000本以上実際に書いてきたものをベースに、全体で40個くらいテーマを用意しています。ニッチなところだと、「社長が交代した後すぐつくるためのフォーマット」とか、「子会社設立のフォーマット」みたいなのもあります(※特許出願中 特願2018-219503)。

岩澤:
投資判断するときにも、「世界観はわかった。でも本当にそんなのできるのか」みたいな論点が、投資メンバーからも上がりました。でも、先ほどのフォーマット一覧を見た瞬間に、みんな納得しました。

なので今の大堀兄弟が感じている価値を本当にプロダクトに落とし込めたら、企業が自分たちでコンテンツを作成して、その効果検証も含めて事業を回していけるようになるはず。

企業がステークホルダーにコンテンツを配信したいときのCMSって、世界でもまだベストプラクティスがありません。PR Tableがそのプラットフォームになれれば、日本だけじゃなく世界でもチャレンジできる余地があると思います。

航:
別に、企業の中の人が書けなくても全然いいんですよね。PR Tableはコミュニティもやっているんですが、ライターさんだけじゃなくて動画クリエイターとか、インフォグラフィックとか、企業のストーリーづくりに関わるクリエイターが集まる場所にしていけたらなと思っているんです。

プラットフォームとしてPR Tableを使っていただき、コンテンツを中の人で回すのが難しければ、PR Table Communityにいるクリエイターに発注してもらう。そんな企業PRにおけるツールもコミュニティも持っている、AdobeやSalesforceみたいな存在に将来的にはなっていきたいですね

執筆:筒井 智子 / 編集:山田 聖裕
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