オープンコミュニケーションの2つの定義
佐久間 衡(以下「佐久間」):
定義は「コトに向かってストレートに伝え合う」「自分の本質的な弱みを開示し合う」のふたつです。ふたつ目は、オープンコミュニケーションという言葉から想像しづらいかもしれませんが、私たちは弱みを開示することで心理的安全を保つことができる、と考えているんです。
佐久間:
ポイントは、弱みを開示してもその克服を強いられないこと。私も弱みや苦手なことはありますが、それを直せと言われてしまうと心理的安全は保てません。弱みを開示したうえで、それをチームや会社で補い合い、個人は強みにフォーカスする状態をつくることがベースにあるんです。
小田切 香澄(以下「小田切」):
週次の定例ミーティングで、ランダムに人を選んで15分間の自己紹介をしてもらっています。これは新しく加わったメンバーだけでなく、既存のメンバーもやります。さらに四半期ごとに合宿のようなオフサイトの場を設け、4人チームで半日以上自己紹介し合うこともあります。最近はどんどん人が増え、チームメンバーが変わったり増えたりすることも多いので、自己紹介は本当に何度もやっています。
佐久間:
私の自己開示度を10だとすると、FORCASにジョインする時点では3~5くらいのメンバーが多いと思います。みんなが楽しく仕事をしていくために、そこから日々のコミュニケーションを通じて自己開示度を引き上げていくイメージです。
コトに向かうタイプとヒトに向かうタイプ、お互いの良さをリスペクトする
佐久間:
私の弱みは「コトに向かう特性が強く、ヒトに向かって話せない」なんですが、以前、この「弱みを直す」ことにチャレンジしたことがあったんです。でも結局、全然うまくいかなかったんですよ。
最近でも、私のコミュニケーションがストレートすぎて、メンバーを傷つけたこともありました。ユーザー会を企画してメンバー全員が準備してくれたんですが、私から見ると大失敗だと思ったので、それをストレートにSlackで伝えたんです。私としては、「ダメだった部分をしっかり振り返って、次に良いものをつくっていこうぜ!」というつもりだったんですが、それで傷ついた人が多数いて(笑)。
小田切:
本当にストレートな言葉が使われていたのと、全員が最高のユーザー会にしたいという思いは同じだったので、「せっかくやったのに……」と傷つくメンバーがたくさんいましたよね。
佐久間:
それがキッカケで、改めて「オープンコミュニケーションとは何なのか?」を考えることになったんです。オープンコミュニケーションの「コトに向かってストレートに伝え合う」ことは大事だけど、それで人を傷つけていいわけではないよね、と。でも、それで「お互いに慮りましょう」となってしまうのはすごく嫌でした。
人には「コトに向かう」タイプと「ヒトに向かう」タイプがいると考えていて、僕は「コトに向かう」タイプ。だから「いや、もっとコトに向かってスピードを持って進めていこう」と思う。でも「ヒトに向かう」タイプの人からすると「何でそんなにストレートに傷つくことを言うの? もっとお互いに理解し合いながら進めようよ」と思う。
この構図は必ず起きます。重要なのは構図を理解した上で、それでもぶつかることなんです。「みんな歩み寄ろうぜ」と安易に終わらせるのではなく、その一段上に立って構図を理解したうえで「あるべき姿に向かってストレートに」主張していけるのがオープンコミュニケーションだと考えます。
小田切:
かなり理解していると思います。そのうえで、お互いの個性を認めてちゃんとリスペクトすることが大切なんじゃないかなと。
佐久間:
私が何か言うことで傷つく人は、今もいると思うんですよ。ただ、甘えかもしれないけど「佐久間さんがストレートに意思表現をしなくなったら、佐久間さんじゃないよね」とみんなに思ってほしくて。「みんな違って、みんな良い」で終わっちゃうと方針も何もないので。
たとえば私がコトに向かうタイプなのに対し、稲垣さん(稲垣 裕介/ユーザベース共同代表)はヒトに向かうタイプ。めちゃくちゃいろいろなメンバーと飲みに行っています。
私からすると「クリアなビジョンを描いて、わくわくする未来を伝えようぜ」となる。稲垣さんからすると「もっとみんなの意見をちゃんと聞いて、自律的な組織をボトムアップでつくろうぜ」となる。それでお互いぶつかると最悪じゃないですか。
でも私は稲垣さんの強みは「ヒトに向かう」ことだと分かっているし、稲垣さんも、私の強みは「コトに向かう」ことだと分かっているので、そんなことは言いません。弱みを指摘し合っても仕方ない、直らないですから。
「健全なコンフリクト」を起こしにいく
佐久間:
オープンコミュニケーションによって、自分の強みや弱みをオープンにすることで、自己認識と他者の自分に対する認識を揃えていく。これが最高の心理的安全だと考えています。その状態ができれば、目指すべきビジョンという「コト」に対して、みんな一丸となって向かえます。それって最高ですよね。
さらに自己認識と他己認識を揃えることができる人は、他者からたくさんフィードバックをもらえるのでガンガン成長できます。自己認識が高い人でパフォーマンスを出せない人はいないと思っているので、採用面接ではそこしか見ていません。
佐久間:
起きていいんですよ。むしろ構図を理解した上で、コンフリクトを「起こしにいく」のが重要だと思います。
たとえばインサイドセールスとフィールドセールスの場合、インサイドセールス側は「すごく良いアポなんだから、ちゃんと決めてよ」と思う。一方でフィールドセールスは「こんなイマイチなアポを設定しないでよ」と思うかもしれない。そもそも分業しているんだから、そういうことが発生しうることをメタ的に理解して、プロとしてコンフリクトを起こしにいかなければならないと思います。
小田切:
それを社内では、「健全なコンフリクト」と呼んでいます。構図を理解していれば、コンフリクトが嫌だとは思わないはずです。むしろコンフリクトが起こることによって、「もっとこうしておけば良かった」と自分の足りなかった部分に気づくこともできます。良い意味での気づきもたくさん得られるし、相手にも自分の考えをちゃんと伝えられるので、ヒトではなくコトに向いて、目指す景色を揃えた上で進められます。
オープンコミュニケーションで「最高の居場所」をつくる
小田切:
いえ、入社した頃はどちらかというとオープンではなかったほうだと思います。私はSPEEDA事業で採用されたのですが、変わったのはFORCASへの異動が決まったタイミングです。
佐久間さん、田口さん(田口 槙吾/FORCAS事業 執行役員)、土屋さん(土屋 翔/FORCAS事業所属)とミーティングしたときに、私がどういう人なのか30分くらい説明する機会をつくってもらったんです。佐久間さんは覚えていないかもしれないですが。
でも佐久間さんから「いや、自己認識が何か違うんじゃない?」と指摘・質問されまくって終わるっていう(笑)。でも、そのミーティング以降、変な気遣いや「こうあるべき」みたいな考えは本当になくなりました。
佐久間:
そのミーティングのとき、ギリちゃん(小田切のニックネーム)、すごく普通のことしか言わなくて。日頃のコミュニケーションを取る中で「ギリちゃんはこういう人だ」という像があるんですが、それとは全く違ったので「こうじゃないの?」って伝えたんです。
FORCASにジョインした後は、どんどんオープンになりましたね。特に変わったなと思ったのが、定例ミーティングで15分の自己紹介をしたときです。これが過去のトラウマの話とか壮絶な自己紹介で。
佐久間:
欠片も出てきませんでした。
小田切:
え、話したつもりだったんですけど、全然伝わっていなかったんですね(笑)。
佐久間:
今や「FORCASのカルチャーを最も体現している人は?」と言われて名前が挙がるのは、私よりギリちゃんのほうが多いくらいです。だからこそ、会社のカルチャーを作る上で最も大切な「採用」をギリちゃんにやってほしいと思ったんです。彼女もチャレンジしたいと言ってくれたので、セールスから人事に異動してもらいました。
小田切:
日々思っていますね。セールス担当だった頃、マーケティング、インサイドセールスやTechチームなど、他のチームとコミュニケーションを取ることは日常的にありました。ときにはぶつかることもありましたが、オープンコミュニケーションという前提があるから、嫌だと思ったことは本当に1度もありません。むしろ、ぶつかることでたくさん話せるし、よりお互いを理解するきっかけになるので、いいなって思うんです。
佐久間:
今後FORCASが大きくなっても、定例ミーティングでの15分の自己紹介と、オフサイトの場での相互理解はずっと続けていきたいですね。仕事は人生の中で大きな割合を占めます。だからこそ、自己認識と他者の自分に対する認識の揃った「最高の居場所」をつくりたい。そのためにも、オープンコミュニケーションの大切さは、これからもずっと伝え続けていきます。
FORCAS事業CEO 佐久間衡(インタビュー中に笑顔を見せるのは珍しい)