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再現性のある投資をするため、フェーズ毎にロゴもステートメントも変える──UB Venturesリブランディングの根底にある想い

再現性のある投資をするため、フェーズ毎にロゴもステートメントも変える──UB Venturesリブランディングの根底にある想い

2018年に設立されたUB Venturesは、サブスクリプションビジネスに特化したベンチャーキャピタルで、シードからアーリーステージのSaaSとメディア関連のスタートアップに特化した投資活動を行い、2020年7月末までに計14社に投資と成長支援をしています。

UB Venturesは2020年4月にブランドリニューアルを行いました。なぜリブランディングを実施したのか、その狙いや内容について、代表取締役社長の岩澤と、このリブランディングプロジェクトをリードしたデザインで株式会社の齊藤智法氏に話を聞きました。

岩澤 脩

岩澤 脩OSAMU IWASAWA UB Ventures 代表取締役

慶應義塾大学理工学研究科修了。リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務...

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齊藤 智法

齊藤 智法TOMONORI SAITO デザインで株式会社 クリエイティブディレクター/デザイナー

武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業後、株式会社電通にアートディレクターとして11年勤務。2020年4月に独立し創業。...

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目次

対話によって本質を引き出す

そもそも、なぜリブランディングをしようと思ったんですか?

岩澤 脩(以下「岩澤」):
最初のロゴとステートメントは、まだ1号ファンドができる前、支援する起業家にもファンドに出資してくれる投資家にも誰にも会っていない状況、言わば「これから起業家と船に乗って、出港するぞ」という段階で作りました。

そこから1年経ち、14社の投資家、14社の投資先の起業家と出会った──つまりすでに海原に出て、起業家が隣にいる状態です。子どもから青年になるような、ベンチャーキャピタル(以下「VC」)としてようやくスタート地点に立つことができたフェーズが今です。今回のリブランディングではそれを表現したかった。このタイミングで、もっと成長しなければという感覚が非常に強くなってきたんですね。

また、今回作るブランドアイデンティティ(以下「BI」)は、今後も永続的につながっていくものになると考えました。ベンチャーキャピタルとは、一度立ち上げたら10年間はコミットしてやっていくスパンの長いビジネス。なので、しっかりブレないようなものを作る必要があると考えました。

そこで、UB Venturesの投資先であり、かつ第一線で活躍しているPR Table取締役の菅原さんに相談し、すぐに「適任者がいる」と紹介されたのが、齊藤さんです。最初にお会いしたのは2019年8月、築地のカフェでしたね。

齊藤 智法氏(以下「齊藤」):
そうでしたね。その後あんなに築地のカフェに通うとは、当時は思わなかったですけど(笑)。2週間に1回、半年間にわたって通いましたね。毎回2時間以上ディスカッションして。

UB Ventures 岩澤脩
実際にどのように進めていったんですか?

岩澤:
毎回のミーティングでは、ずっと対話し続けました。最初にコンセプトをお伝えしたら、カッコいいプランが幾つか出てきて、ベースを決めて細かいところを詰めていくようなプロセスを想像していたんですが、全然違って。振り返ってみると、UB Venturesとしてどこに向かいたいのか、ベンチャーキャピタリストとして岩澤は何を目指していきたいのか、本質を突くような質問をひたすら投げかけていただきました。

僕やUB Venturesがまだ言語化できていない内面にある部分を上手く聞き出してくださったんですが、それが今まで体験したことのない感覚で。僕はかなり感覚的なタイプなので、思いを言葉にできないことも多いんですが、齊藤さんはそれを上手く汲み取ったうえで、的確な言葉にしてくれる。それはすごく印象に残っています。

あのプロセスを通して、言葉とデザインが固まっていくのと同時に、自分自身のミッションやUB Venturesが大事にしなければいけないバリューのようなものも一緒に出来上がっていったんです。

齊藤:
VCのBIを考えるのはジャンルとして初めてでしたが、スタートアップから大企業、BtoB、BtoCなど、これまでさまざまな企業のブランディングを手掛けた経験はあります。

ただ、最初から最後まで創業者とマンツーマンで走り抜けるようなプロセスは、UB Venturesのプロジェクトが初めてでした。最初にお会いしたときから最後までずっと、岩澤さんの中から思いを引き出し、言語化しながらデザインに落としていく──僕にとっても非常に学ぶことがたくさんありました。

リブランディングにあたって、何が一番難しかったですか?

齊藤:
リブランディングは大きく分けると2つあります。1つは現状のアイデンティティを一度忘れて刷新するパターン。もう1つは現状のアイデンティティを継承しながら磨き上げていくパターンです。ガラッと変えたり、パッと見てキャッチーな感じにしたりする前者のパターンは意外と難しくないんです。でも今回のようにもともとあるあるUB Venturesの手書きロゴを活かしつつ、それをアップデートしていくのは難しかったですね。目に見えているものは、そのロゴしかありませんでしたから。

見た目を洗練させるのは簡単ですが、見た目だけでなく、どの部分を大事に残し、どの部分をより研ぎ澄ましていきたいのか。その裏側にある思いやストーリーをしっかりと作り上げながら、リブランディングする必要があるんです。仮に岩澤さんが「あ、なんかカッコよくなりましたね、OKです」って言ってくれたとしても、後で「何でこうしたんだっけ?」みたいなことが絶対に起こってしまうんですよ。

だから今回のようなリブランディングやリニューアルのようなプロジェクトでは、僕は徹底的に依頼主――今回でいうと岩澤さんの考えを引き出し、合意を取りながら進めていくプロセスを大事にしなければならないと考えました。そこが一番難しい部分であり、自分として最も力を入れたところでもあります。

「UBV PRINCIPLES 6×6」に込めた投資家としての哲学

今回のリブランディングでは、具体的に何が変わったんですか?

岩澤:
今回変わった点は大きく3つあります。1つはロゴとシンボルマーク。2つ目がステートメントです。3つ目が非常に重要で、UB Venturesとしてのフィロソフィーです。これはユーザベースでいうミッションと同じ。VCの投資思想──「こういうスタートアップに投資するよ」という最も根幹になるポリシーにあたります。それに「UBV PRINCIPLES 6×6」という名前を付け、今回新たに作りました。6つのバリューと6つの投資テーマをの掛け合わせから成ります。

UBV PRINCIPLES 6×6

岩澤:
投資活動を始めて、僕はとにかく再現性の高い投資をしなければと思ったんですね。何か一貫性のある投資判断基準を持っていなければ、失敗なのか成功なのか検証できません。常に同じ基準でやり続け、どんどん修正していくことで結果を出せるようになるはず。そこで海外事例や、さまざまなVCの方へヒアリングを通じて、他のVCがどんな基準を持っているのか調べたんです。

その結果、投資は結局「事業と人」だと分かりました。さらに事業の見極めに関するケーススタディは、実は存在していないのではと思ったんです。例えばSaaSであればMRRや解約率など投資判断の指標はたくさんあるのですが、それはVCによってさまざまで、みんな最終的に「結局、人だよね」と言うんですよ。具体的にどんな人か尋ねても「何となくの感覚」みたいに言われて(笑)。

具体的にどうやって6×6に落とし込んでいったんですか?

齊藤:
投資の軸となる「サブスクリプションビジネス」とはどういうものか、UB Venturesとしての捉え方を聞いていくうちに、先ほどの「事業と人」の2つにきれいに分け切れないと思いました。そこで僕は分け切れないなりに、ちゃんと考えて設定されているもののように見せなければと考えたんです。左脳的に箇条書きで羅列するのではなく、右脳的に整理し、カスタムできるようにするにはどうすればいいか。今回のUBVリブランディングプロジェクトに僕と一緒にコミットしてくれた「301」というクリエイティブチームとその解決策を見出しました。

岩澤:
このプロセスを経て、自分たちがどういうところに投資するのか解像度が上がり、何よりメンバーみんなの共通意識をより持ちやすくなったと感じています。「6×6」ができる前は、投資テーマとして「メディアとB2B SaaS」くらいしかなかったので、どうしても感覚的な議論になってしまっていたんですね。でも「6×6」をベースに話せば、本当にUB Venturesでやるべきなのか、同じ土俵で議論できるんですよ。それは再現性を高めていくうえで、本当に根幹となる部分なのだと改めて感じています。

CIとステートメントのリブランディングについても教えてください。

齊藤:
初回でご提案したワーディングは「新しい羅針盤をつくる」「航海のリアリティを共に」など海や航海を表現したものでした。「最後まで船を降りない仲間でありたい」という岩澤さんの思いや原体験に寄り添って、それを言い換えた言葉です。

結果的に海や航海、羅針盤など「物」に例えるような表現ではなく、UB Venturesのマインドセットや視座のようなものを表現する「SAIL BEYOND」に決まりました。SAILは「航海する」という動詞にもなるし、「帆」の意味もあります。BEYONDは「超えていく」イメージですよね。

岩澤:
あとCIの色にもこだわりました。ユーザベースグループ全体のブランドカラーがモノトーンに決まっていた中で、どうしても赤を残したくて。ユーザベースは創業以来、さまざまなHard Thingsを経験しながら立ち上がってきました。その経験を活かしながらスタートアップを支援していくのが、UB Venturesのコンセプトなんですね。僕自身も経験してきたことなので、ユーザベース創業期の熱量を表すものを残したかった。UB Venturesはアーリーステージの起業家に向いて事業を展開します。だったら、ユーザベース創業期の熱さを表す赤を使いたいと強く思ったんです。

ステートメントはどのように決めたんですか?

岩澤:
自分自身やUB Venturesの「今の立ち位置」を表現したいと思って作りました。最初のステートメントを作った2018年の夏と、リブランディングプロジェクトを実施した2020年の春では、自分たちを取り巻く環境が圧倒的に変わっているので、それぞれのタイミングでの起業家との関係性などを齊藤さんにお伝えし、その違いを言語化するようなプロセスを踏みました。

さらに僕自身が持つ「譲れないキーワード」を共有しました。その1つが「原体験に寄り添う」こと。起業家自身の内面から発せられるパッションには、必ず起業家の原体験があります。本物の情熱は、自分がもともと持っている原体験からしか生まれてこないと思っているので、そこに寄り添いたいと考えているんです。

もう1つは「Hard Things」、苦境なときほど隣にいる存在でありたいということ。ステートメントでは「逆風や荒波」と表現していますが、僕らは事業をやってきたからこそ、有事の際に一緒に立ち上がって支援ができると思っているんです。そういう要素を入れてほしいと伝えました。

UB Ventures ステートメント

フィロソフィーをベースに、BIとCIは変えていく

このフィロソフィーとCI、ステートメントは今後どのように運用していくんですか?

岩澤:
CIとステートメントは変わっていくものです。今回のリブランディングもその前提で作っていますし、現時点ですでに第3、第4段階のCI案も作っています。スパンとしては、次の2号ファンドが立ち上がるタイミングで、また変えるつもりです。

僕はベンチャーキャピタルには3段階あると考えていて。最初は起業家と同様、ファンドを立ち上げる段階。1号ファンドはお金が集まるかどうかも本当に分からない、リスクの高いビジネスです。その船出が第1段階。第2段階が、我々が今いる航海に出ている──お金が集まり、1号ファンドが立ち上がった状態です。第3段階はベンチャーキャピタルとして産業を作り、社会に貢献する段階。ここにはIPOやEXITなど、社会的なインパクトを与えるようなスタートアップを支援して初めて到達できます。

齊藤氏:
最初にシンボルマークをご提案したとき、2〜3つ案をお持ちしたんですが、岩澤さんには「今回は、もともとあったシンボルマークをある程度継承したアップデートしたい。こちらの案は次のフェーズでもいいかもしれない」と言っていただきました。僕が複数案を出すのは、どれを選んでもいいという意味ではなく、現時点でどれがふさわしいかご自身で認識していくためでもあるし、意思を確認するためでもあります。もちろん、次のリブランディングをする際には何か変わっている可能性はありますが、それを理解いただけて嬉しかったですね。

岩澤さん自身は、もともとCIやステートメントを変えていく意思を持っていたんですか?

岩澤:
いや、全然考えていませんでした。VCは特殊性の高いビジネスで、ファンドを新しく作る都度、投資テーマやファンドサイズ、投資家も起業家もチームメンバーも全て変わるんですね。完全変体したとき、前のファンドで使っていたCIやブランドアイデンティティをそのまま使うことは、かえって自分たちの型を決めてしまうというか、窮屈にさせてしまうのではと感じました。

齊藤さんと対話する中で、CIもBIもフェーズと共に変わっていっていいんだと理解し、それを想定したうえで何を根幹にしていくのか、何を変えていくのかを考えていけばいいと思えるようになったんです。逆に言うと、CIやBIを変えることによって、自分たち自身の変化も促していくような要素もあるかなと。そのうえで、変わらない根幹になるのが「UBV PRINCIPLES 6×6」です。

齊藤さんには次のフェーズのデザインもぜひお願いしたいと思っていて、実はUB Venturesの仲間に加わっていただくことになりました。僕を含め4人のキャピタリストに加え、専門家としてサポートしていただくスペシャリストを設置し、齊藤さんにはそこに入っていただく予定です。

齊藤智法氏
プロジェクトが終わった後もスペシャリストとして関わることについて、どのようにお考えですか?

齊藤:
最初にお会いしたときは、当然ながら全く想像もしていませんでした。ただ、たまたま僕が今後のキャリアについて考え始めた時期に、このプロジェクトにお声がけいただいて。自分にとってキャリアの大きな転機に、このプロジェクトが重なっていたんですね。

そういう意味では、僕自身もある種の起業家なわけですが、僕の場合はどちらかというとデザインで社会に向き合う過程で成長していきたいと考えていました。事業をスケールさせることはもとより、起業家としての原体験や情熱をどのように自分の中で形作っていけばいいのか、このプロジェクトを通じて自分自身のことも考える時間をいただけたように思います。

岩澤さんと対話する中で、自分の心の準備もできたし、スペシャリストとして関わらせてもらう話を聞いたときは、このリブランディングのプロセス自体に岩澤さんが価値を感じてくださったことに他ならないと感じたので、すごく嬉しかったですね。VCとしてスタートアップをグロースさせていく際に、僕が強い味方になると思ってくれたことには手応えも感じました。UB Venturesでの仕事は、今後自分がやっていくことの一つの指針になっていくだろうなと感じています。

岩澤:
僕が齊藤さんとの対話を通して経験したことを、スタートアップのメンバーにも経験してもらいたいと思っているんですよね。BIやCIって、いきなりカッコいいものが出てくるわけではなく、対話の積み重ねによって自分の意志を確認していくプロセスだと思っていて。

そこで出てくるアウトプットは、そのプロセスを表現したものではないかと改めて思ったし、今回の対話を通して自分自身が進むべき方向性や一番大事にしているものが何かを言語化できたので、起業家のみなさんにもこのプロセスを踏んでもらえれば、彼ら自身が自らの意志を確認する際に役立つのではと思っています。齊藤さんには、コーチングとクリエイティブが融合するような新しい領域を立ち上げてもらいたいですね。

本記事はオンライン(zoom)にて取材しました

編集:筒井 智子
Uzabase Connect