「誰もがビジネスを楽しめる世界」を探索するコーポレートマガジン
顧客課題の解決に適切な道具を提案する「CSは『ドラえもん』であれ」

顧客課題の解決に適切な道具を提案する「CSは『ドラえもん』であれ」

ユーザベースでは2024年1月に顧客起点の組織体制に転換、7月には国内SaaSプロダクトの名称を「スピーダ」に統一しました。こうした中、顧客にスピーダの価値を適切に届けるため、スピーダ事業 経営企画・金融機関・コンサルティングファーム支援組織のカスタマーサクセスではチームを細分化し、きめ細やかなサポートを展開しています。各組織のミッションや今後目指す組織像について、チームリーダーの酒井駿と、 Update ユニットリーダーの高柳智行にじっくり話を聞きました。

酒井 駿

酒井 駿SHUN SAKAI スピーダ事業 Customer Success Team Manager

新卒でドン・キホーテに入社。現場を経験後、戦略系部署に異動しM&Aを複数件担当。その後オリエンタルランドに転職し、新規事業開発、CVC設立等を推進。スタートアップ投資...

MORE +
高柳 智行

高柳 智行TOMOYUKI TAKAYANAGI スピーダ事業 Customer Success Team Update Unit Leader

大学卒業後、食品メーカーにてセールス/マーケティング領域にて従事し、商品開発と並行して新規チャネル開拓を推進。2022年3月に株式会社ユーザベースのスピーダ経済情報リサーチの...

MORE +
目次

「新規事業開発に携わる人たちをハッピーに」カスタマーサクセスの道を選ぶ

はじめに、ユーザベースに入社するまでの経緯を聞かせてください。

酒井 駿(以下「酒井」):
前職のオリエンタルランドでは、新規事業開発を担当していました。その一環でCVC(※)を立ち上げたんですが、メンバーの誰もスタートアップ投資経験がなく、どうしようかと考え導入したのが旧INITIAL(現スピーダ スタートアップ情報リサーチ)でした。このときINITIALのカスタマーサクセス(CS)担当だったのが大沢遼平さん(現スピーダ事業 執行役員)だったんです。

コーポレート・ベンチャー・キャピタル(Corporate Venture Capital):事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場の新興企業に出資や支援を行う活動組織

3年ほど在籍後にCVCの部署を離れることになったんですが、僕の中では「スタートアップ界隈に関わり続けたい」という気持ちが強くなっていて。それでVCかコンサルに転職しようと動き出し、いくつか面接し内定もいただいたんですが、そのタイミングで遼平さんから「INITIALに来ないか」と声をかけられたんです。
 
僕は当時、「新規事業開発に携わる人たちがハッピーになる仕事がしたい」という軸で転職先を考えていたんですが、遼平さんとの話で「なるほど」と思ったことがあって。
 
VCは基本的に向き合っているスタートアップしかハッピーにできない。コンサルも基本的に向き合っているクライアントしかハッピーにできない。でも、CSであればプロダクトの力でハッピーにできる人の割合が増える、と。
 
もうひとつ、前職で誰よりもINITIALを使っていて、これは必須のプロダクトだと思ったし、UI/UXも素敵だし、もっと広めたいと思っていました。INITIALというプロダクトを愛していたんですね。それでユーザベースへの転職を決めました。

高柳さんはなぜユーザベースに入社したんですか?

高柳 智行(以下「高柳」):
僕はもともと食品メーカーでセールスやマーケティングをしていました。転職しようと考えたキッカケは2つあります。
 
当時、新しいチャネルを開拓して売上をつくる仕事をしていて、そこで一定の成果を出すことをモチベーションとして働いていました。その結果、自分が納得できる実績を残すことができたので、新しいチャレンジをしてみたくなったというのが1つ目の理由です。
 
2つ目として、自分自身のマーケットバリューを上げたいと考えました。前職の業界は割とレガシーな領域だったこともあり、外部環境の変化に対応するスピード感が相対的に遅いと感じるところがありました。そこで、外の世界で自分を試してみたいと思うようになったんです。

高柳智行
SaaS業界は未経験ながら、なぜユーザベースに入社しようと思ったんでしょうか。

高柳:
前職とは違う業界に挑戦したい気持ちがあったんです。その中でも、「成長性が高い」「いろいろな業界にインパクトが与えられる」「テクノロジーの力で世の中を変えようとしている」といった軸で転職活動をしていました。
 
スピーダは前職で別の部署が使っていたので、知ってはいて。どういう思想でプロダクトを提供しているのか調べたら、すごくいい会社だなと思いました。バリューを大切にしているところにも惹かれましたね。
 
僕はSaaS業界未経験だったので、転職エージェントからも「業界を変えたほうがいい」と言われていたんです。
 
そんなときユーザベースのThe 7 Valuesを見て、「迷ったら挑戦する道を選ぶ」という言葉がすごく今のシチュエーションと重なっているなと思ったんですよね。このタイミングで挑戦しないと後悔するなと思いました。

顧客のプロダクト利活用を支援し、価値を届ける

2人が所属するカスタマーサクセスの組織について教えてください。

酒井:
私たちのCS DivisionはCS2チームとAdvisoryチームの3つに分かれていて、それぞれ役割に応じたユニットが計6つ紐づいています。

高柳:
新規で契約して初めてスピーダに触れる1年目のお客様を対象に支援するのが、Onboardingユニットです。フィールドセールスが受注した案件をCSに引き継いで、そこからスピーダ利用定着に向けたオンボーディングを進めていきます。
  
Updateユニットは、もともとスピーダ 経済情報リサーチのみのプランを契約していたお客様が、エキスパートリサーチが含まれた新しいプランや、そこにスピーダスタートアップ情報リサーチも含んだプランへ移行いただいた際の活用支援をします。
 
酒井:
StartUpユニットは、スピーダスタートアップ情報リサーチのCSチームがそのままメンバーとして在籍しています。INITIALがスピーダに統合されてスピーダ スタートアップ情報リサーチに名称変更した後も、引き続きスタートアップ情報の有効活用を模索されているお客様がいるので、その方々に向けてCS業務を行っている形ですね。
 
加えて、スタートアップ情報リサーチを契約しているお客様に対して、スピーダ 経済情報リサーチやエキスパートリサーチを提案したり、OnbordingユニットやUpdateユニットでお客様に対してスタートアップ情報リサーチの説明をする際、サポート的に同席したりしています。
 
高柳:
プランを移行されたお客様に対しての支援を行うのがUpdateユニットという話をしましたが、お客様にとってあるべきプランの提案を推進しているのがBiz Engagementユニットです。もちろん通常のお客様の活用支援も行います。
 
Opsユニットは、1対1のハイタッチで活動するユニットが集中して顧客と向き合えるように、1対nのロータッチな活動や、Techタッチといって人が介在せずにお客様をサポートするなどして、環境整備や効率化を行います。
 
Expert Researchユニットは、StartUpユニットと似た組織ですね。StartUpユニットがスピーダ スタートアップ情報リサーチを契約しているお客様を支援するのに対し、Expert Researchユニットはスピーダ エキスパートリサーチを契約しているお客様を支援します。エキスパートリサーチのチケットを持っているお客様に対し能動的にアクションをとって、チケットの活用を促します。

Advisoryチームは何をしているんですか?

高柳:
スピーダ 経済情報リサーチ単体以外のプランには、すべてスピーダ エキスパートリサーチで利用可能なチケットが付いているんですが、これを有効期限内に満足いく形で使っていただけるようチケット利用を促進するチームですね。
 
たとえばエキスパートを活用した調査の要件定義や、有益なアウトプットを得るための質問設計を検討する場合は専門的なスキルが必要になります。それを支援するために、CSの他のユニットのメンバーと一緒に動きながら提案を行います。

総じてCSは価値を訴求する組織だと考えています。お客様1人ひとりに専任担当がついていて、能動的にアクションを起こし、利活用を支援しているんです。お客様がプロダクトを活用できていないということは、価値が届いていないのと同じですよね。「お客様にとって、こんな価値があるんですよ」とお伝えしていくことが我々の役割だと考えています。

組織の役割を明確に分け、仕組み化したことで初年度解約率が低下

2024年1月の顧客起点組織への転換後、CS活動には何か変化はありましたか?

高柳:
StartUpユニットが一番変わったかもしれませんね。スピーダ 経済情報リサーチとスピーダ スタートアップ情報リサーチが融合することになったとき、メンバー全員がそれぞれのプロダクトについてインプットするのは効率が悪いので、誰か1人がとにかくインプットして、それをチームの中に還元しようということになったんです。
 
その役割を僕がすることになって、酒井さんのチームにもいろいろと話を聞きながらスタートアップ情報リサーチについての理解を深めました。

対談風景
高柳さんはユニットの立ち上げ請負人だと聞きました。

 高柳:
今いるUpdateユニットは2024年に立ち上がった組織ですが、その前の2023年1月にはOnboardingユニットの立ち上げをしました。当時はMIMIRと融合した初年度で、組織としてもすごくカオスな状態でお客様に対する支援も何から着手すれば良いのか全く見えていない状態でした。

「契約初年度のお客様の解約を抑える」というミッションを与えられたので、契約して間もないお客様の導入目的・背景を整理した上で、利用定着に向けた支援を我々がしっかり行うことができれば、解約率をある程度抑えることができるという自信はありました。

契約初年度のお客様に特化したオンボーディングプログラムをつくり、当時のメンバーで試行錯誤を繰り返す中でプログラムを完了するお客様が増えていった結果、解約率の低減に対しインパクトを与えることができるようになりました。

そうした一連の流れがうまくいった要因はどこにあったと思いますか?

高柳:
役割を区切ったからだと思いますね。それまでは、顧客に対してオンボーディングもアップセルも、解約阻止に対するアクションも1人のCSが全てしないといけなかった。そこで初年度のみにフォーカスしたユニットを立ち上げて、振り切って活動できたことが成果につながったポイントだと思っています。
 
仕組み化することで、成果に対する再現性が高まるんですよ。Onboardingユニットを立ち上げる前は、オンボーディングプログラム自体も型化がされておらず属人的で、我々が支援した結果、どれくらいの時間軸でお客様にどんな状態になっていただきたいか等、定義がされていない状態でした。 

そこの定義がしっかりと固まった結果、現在のOnboardingユニットでは解約率を抑えるための先行指標を達成することが当たり前にできるようになり、継続的に成果を出すことができるようになりました。現在はUpdateユニットでもプログラムの仕組み化に向けて、いろいろと取り組みを進めているところです。

酒井さんはなぜ、CS未経験の高柳さんにUpdateユニットのリーダーを任せようと思ったんですか?

酒井:
2つ理由があって、一緒に働いてみてわかったんですが、高柳さんは型化の鬼なんですよね。Updateユニットを立ち上げる前にOnboardingユニットでリーダーをしてもらったわけですが、型化、仕組み化ができて、高柳さんがいなくても回るようになったと思えたことがひとつです。
 
もうひとつ、新プランはスピーダ 経済情報リサーチ、スピーダ スタートアップ情報リサーチ、スピーダ エキスパートリサーチが融合したプランなので、利便性は間違いなくあるんですが、実際の声は未知数なんですよね。
 
「これまでのプロダクトに新しい機能が加わった」と捉えるお客様と、「新たなプランとして契約する」というお客様では、恐らく思考プロセスが違うはず。両者を独立させて考えないとお客様に価値が伝わりきらないと考えたとき、それができる人材は高柳さんしかいないと思いました。

入社からハイスピードで昇進。「愚直に課題と向き合ってきた結果」

高柳さんは入社から2年半、かなりのハイスピードでタイトルアップ(昇進)されていますが、どの辺りが評価につながったんだと思いますか?

高柳:
実はこれまで、タイトルのことを考えて仕事したことがないんですよ。スピーダのCS組織は何かしらの課題を抱えていて、その課題を解決するミッションを与えられるじゃないですか。たとえば「初年度の顧客をオンボーディングで支援して解約率を下げる」とか。そうした大きなボールが飛んできて、それにひたすら向き合ってきました。

抽象度の高いボールを投げられたときに、周りのステークホルダーをうまく巻き込みながらその課題を解決し結果を残してきたんですね。

酒井:
タイトルは特にリーダーのレイヤーになると、どれだけ「自由度」と「遊び」をもたせて権限委譲できるかも重要な要素になると思っていて、たとえば高柳さんにもほぼ丸投げに近い形でUpdateユニットのリーダーをお願いしています。権限委譲されたときに、いかに自律自走で解決していけるのかという点も重要なポイントだと思います。
 
抽象度の高い課題が出てきたら積極的に取りにいって、それをできるだけ自分で意思決定して解決に持っていく。愚直にこれをやり続けることだと思っています。でもそのためには基礎を積み上げることが大切ですね。抽象度が高い課題は、臨機応変な対応では解決できないんです。

スピーダ CSチームリーダー 酒井駿
酒井さんは旧INITIALからスピーダに来てリーダーを務めていますが、INITIALとSPEEDAの融合はかなり難易度が高かったのではないですか?

酒井:
プロダクト起点で組織を融合する場合、「プロダクトの理解」「顧客の理解」「組織のお互いの『人』同士が受け入れ合うこと」の3つが重要だと思っています。
 
このうち「人同士の受け入れ」に関しては、スピーダはすでにMIMIRとの融合経験がありました。「プロダクトの理解」「顧客の理解」についても、実は前々職でM&Aを担当していたときにスピーダを使った経験があったので、プロダクトや顧客のニーズもある程度は想像はついていたんです。
 
何より、高柳さんをはじめとするメンバーが、どうしたら今回の融合がうまくいくかをみんなで考えて、「受け入れて」くれたので、「難しくなくしてもらった」という感覚でしたね。

スピーダ スタートアップ情報リサーチ出身のメンバーのキャッチアップは、スピーダ 経済情報リサーチのNewJoiner(中途入社メンバー)向けのオンボーディングプログラムがかなり体系化されていたのが大きかったです。学ぶ内容ははっきりしているので、最初からしっかりキャッチアップするのではなく、まずは交流から初めてプロダクトがどんな価値を持っているのか興味を持ってもらえるようにしました。

「10×10×10=1,000」の価値を提供するために、CS自身がプロダクトの融合価値を認識する

現状、CS組織ではどんな課題を抱えていますか?

高柳:
今年リリースした新プランは、先ほどから述べている通り3つのプロダクトを提供できる反面、お客様にとっては情報過多というか、少しtoo muchになってきている感覚があります。
  
この状態を解消するにはしっかりとお客様と向き合って、それぞれのプロダクトのメリットを訴求していく必要があるんですが、そのためにはお客様に何度もお時間を割いていただく必要があります。だからもっと短い期間の中で、現在の複雑なサービスを効率よく伝えられる仕組みをつくっていかなければと考えています。
 
これだけ多機能だと、「スピーダ 経済情報リサーチはこう使ってください」「スピーダ スタートアップ情報リサーチでこんな情報にアクセスできます」という感じで、我々の提案もプロダクト軸になってしまうんですが、本来はそうあるべきではありません。
 
お客様のやりたいことがあって、そこに我々のプロダクトをどう役立てていくかを伝えられるのがベストだと思っていますが、なかなか難易度が高いですね。

スピーダ CS 高柳智行
なるほど。顧客の課題起点で提案するために、どんな策を考えていますか?

高柳:
ひとつ考えているのは、お客様の調査テーマに対して、スピーダ 経済情報リサーチ、スピーダ スタートアップ情報リサーチ、スピーダ エキスパートリサーチを使えばどんなアウトプットが出せるか、僕らが実際にやってみて提示することですね。
 
複数のプロダクトを「オールインワンリサーチ」という形で、「アウトプットを出すとこうなる」といったモデルケースを提供していきたいと思っています。
 
酒井:
プロダクトの使い方はお客様から学ぶことも多いんですよね。これら3つのプロダクトをうまく使いこなすお客様が少しずつ増えてきているので、ユースケースをヒアリングさせてもらって、自信を持って伝えられる価値に変えていきたいですね。

これからそうした課題に向き合っていく中で、顧客起点組織のCSとしてどんな価値を発揮していきたいですか?

酒井:
たとえばスピーダ 経済情報リサーチが10、スピーダ スタートアップ情報リサーチが10、スピーダ エキスパートリサーチが10だとした場合、プロダクト融合で「10+10+10=30」になるのは違っていて。「10×10×10=1,000」の価値をお客様に提供していくことが大切だと思っています。
 
突飛な話ですが、僕はCSはドラえもんだと思っているんです。どういうことかと言うと、イケていないCSはのび太くんに的外れな道具を渡してしまう「焦っているドラえもん」。もしくは、四次元ポケットだけ渡して「あとはよろしくね、のび太くん」と言っちゃう。
 
そうでなく、困っているお客様に対して適切な道具を提案できるように、プロダクトが融合した価値をCS自体がしっかり認識したうえで、お客様に届けられる価値を増やしていく。その先に、お客様も増えていく。そんな世界を目指していきたいですね。

オフショット

編集後記

タイトルにも入れましたが、「CSはドラえもんだ」と酒井が言い出したときは驚きました(笑)。ただ、話を聞いてみると、たしかにそうだなと。SaaS事業において、CSはとても重要な役割を果たす部門(もちろん他の部門もですが)。さまざまな施策について語ってもらいましたが、まさにドラえもんがあらゆる道具を駆使して多くの人々を助けるように、スピーダCSもお客様の事業を前に進める助けになっているんだなと感じました。

執筆:宮原 智子 / 撮影・編集:筒井 智子
Uzabase Connect