佐々木紀彦さん(NewsPicks NewSchool校長/NewsPicks初代編集長)から誘われたのがキッカケです。佐々木さんとは、彼が東洋経済オンラインの編集長を務めていた頃に連載を持たせてもらっていたし、紙の雑誌だった頃からの付き合い。
2014年6月くらいに「ユーザベースに転職してメディアを立ち上げるんだけど、一緒に来ませんか?」って誘ってもらったんですよ。当時私は40歳。30代はずっとフリーランスの編集・ライターをやってきて、そろそろ新しいことをしてみようかな? と思っていたタイミングでした。
NewsPicksが何かよく分かっていなかったけど、佐々木さんが仕掛けたいなら良いものなんだろうなと思って、稲垣さんと梅田さん(稲垣 裕介・梅田優祐/いずれもユーザベース共同創業者)に会いました。
梅田さんは「何がやりたいのか?」をすごく大事にするタイプ。私はまだNewsPicksのことをあまり知らない状態だったけど、「NewsPicksは女性読者が少ない。私が得意で、かつ女性が興味を持つキャリアや働き方の記事を増やしたい」と伝えたら、OKをもらえて。
稲垣さんは人柄を見るタイプで、面接というより雑談した感じでした。「何をしているときに熱中する?」とか1.5時間くらい。スタートアップってイケイケな経営者がいるイメージだったけど、すごく実直で素直というか、良い意味で普通な人たちでホッとしたのを覚えています。良かった、信頼できそう、話が通じそうだ、って(笑)。
入社したのは2014年7月22日。編集部を立ち上げるべく、猛烈に働きました。続々と仲間も増えて、副編集長になったのが2015年10月くらい。初代副編集長として採用もやりつつ、プロピッカー制度をつくったり、特集記事をつくったり。
当時は特集記事をつくれる編集者が私と佐々木さんしかいなかったので、2週間毎の交代でつくっていたんですよ。企業・産業を担当するチームもない頃で、リクルートやライザップの特集記事もつくっていました。
編集者や記者が増えて、私の強みであるキャリアや仕事の特集ができるようになったのは2017年くらいから。読者もちゃんと付いてくれて、ド直球な経済分野じゃないけど良いね、って言ってもらえるようにもなりました。もちろん他にも連載や特集もつくっていたので、多忙なのは入社当時とあまり変わらないんですけどね(笑)。
2020年からは、同年10月にリリースしたJobPicksの立ち上げをやっています。JobPicksを始めたのは、明確な意志があったから。
日本の雇用やキャリアに関する取材をしていると、日本で働く人たちの所属会社に対するエンゲージメントの低さに否応なしに気づきます。自分にフィットしない職種、会社にいて、でも転職市場があまり成熟していないから「自分にはこれしかない」と思い込んで、うまく活躍できなくなっていく──最初は目を輝かせていた人が、どんどん非活性化していってしまうのを見て、何でこんな風になってしまうんだろうと問題意識を持っていたんです。日本の最も重要な資産は人なのに、って。
将来的には全世代の人たちの役に立ちたいけど、まずは若い人から始めようと思って立ち上げたのがJobPicksです。自分でキャリアをつくるのって楽しいことなんだよって伝えたい。究極のおせっかいかもしれないけど、それがやりたくて。
これはNewsPicksのためにもなると思ったんですよ。メディアは本来、読者と一緒に年を取っていく宿命があります。NewsPicksも例外ではなく、だからこそ新規の読者をどんどん増やさなければなりません。だから若い人たちに向けたJobPicksは、NewsPicksにとっても意味があるはずだと考えたんです。
JobPicksをやりたいって経営会議に乗り込んで、泣きながらプレゼンしました。比喩ではなく本当に泣きながら「やらせてくれ!」って。2回ほどダメになって、そのたびにプレゼンし直して、ようやくGOサインが出たのが2019年の夏くらい。
でも念願かなってリリースしたJobPicksなのに、最初にNewsPicksみたいな記事──ちょっと意識高い系っぽいやつを出してしまったんですよ……。でもインターンから「NewsPicksイズムが漏れていますよ」って指摘されて、ハッとしました。
そこから今までやってきたことを一旦全部捨てて、アンラーンしました。JobPicksは20代のライターさんや学生インターンと一緒につくっています。NewsPicksとは全く違うことをやろう、NewsPicksを踏襲しないと決めて舵を切り直してからは、彼らの言うことを傾聴しきることを意識しています。
4月23日に発売するJobPicks本(『JobPicks 未来が描ける仕事図鑑』)も東大新聞さんと一緒につくりました。彼らの意見がベースにあって、それをどう実装するか──誰に取材すればいいのか、どうやってアポイントを取ればいいのか、彼らの経験がまだ浅い部分は私がチューニングする。彼らが主役で、私は彼らのやりたいことを実装する、ただの歯車でいいんだと思考を切り替えたんです。
JobPicksをつくる中で、私の中に刷り込まれていたバイアスにも気づきました。ずっと仕事やキャリアの取材をしてきて、人を主体にした記事をつくるときは「何かを達成した人」しか出しちゃいけないと思っていて。でも、そんな人に若手や学生は共感しないんです。
何か達成しようと奮闘し、もがいている人が見たい。むしろ達成していないほうがいいんだと、一緒にJobPicksをつくっているライターさんや学生インターンと話している中で気づいて、目からウロコでした。
リリースから約半年経って、数万PVを稼ぐ記事も出てきました。まだまだこれからだけど、少しずつ形になってきています。JobPicks本も、岡元さん(岡元 小夜/NewsPicksパブリッシング 営業マネージャー)の力もあって、書店さんからも順調にご注文いただいています。Amazonでも瞬間的ではありますが、総合40位台になりました。
世の中に「職業のリアル」を知りたい欲求は確実にある、その手応えはあります。その欲求にいかに応えられるか、トライ&エラーを繰り返しながら磨き込んでいきたい。そのプロセス自体に、今はめちゃくちゃワクワクしています。
1個には絞れないですね。NewsPicksで今までやってきたこと、全部楽しかったので。あと振り返っている余裕がないのもあります(笑)。
常にそこそこハードワークだけど、NewsPicksを辞めようと思ったことは1回もないんですよ。JobPicksを立ち上げるのも大変だったけど、「やりたい」って言ったらやらせてくれました。杉野さん(杉野 幹人/NewsPicks取締役副社長 CSO)と一緒にやりたいと言ったら叶ったし、エンジニアもアサインしてくれる。
NewsPicks編集部で「やりたい」と言って通らなかった企画は1本もありません。「だってやりたいんでしょ」って言ってくれる。パッションを大事にすれば、中身も良くなるはずだと信じてくれる。やりたい意思があれば何でもできるし、やらされ感は全くない。それはユーザベースグループ全体でも同じです。
他の組織でこんなことはできないと思っているんですよ。だから辞めようとは1mmも思いません。それに自分自身もこの社風を一緒につくってきた自負もあります。インターンたちの思いをどうやったら具現化できるかを考えているのも、今まで会社が私にしてきてくれたことを返している感覚。こういうのを社風って言うんだろうな、今後会社が大きくなっても保ち続けられるといいなと思っています。
「自由主義で行こう」とセットで好きなのが「渦中の友を助ける」。「自由主義で行こう」がベースにある上で、ユーザベースグループには「渦中の友」を救っている人が多すぎるんですよ。もちろん良い意味で。
JobPicks本をつくるときも、HRのメンバーが「周囲に広めますね」って言ってくれたり、手が足りないときにライターを探してくれたり、とにかく周りのみんなが助けてくれました。
2014年に入社したときにすでにその社風があって、「この会社、良い人が多すぎない?」って思ったのを覚えていて、それが未だに続いているのは素直にすごいと思います。何か頼んだときに、無下にされることは絶対にないと言い切れる。自社ながら「どういう採用基準なんだろう?」って思ってしまうくらいです。ちょっと手前味噌ですけど。
人って自分で選んだことなら、悔いが残らないと思っていて。「自分でこの会社を選んだ」って心から思えていたら、失敗しても悔いが残らないと思うんです。その考えをユーザベースだけでなく、みんなが持ってほしい。自己決定は幸福度につながるという研究結果もあります。その価値観を広めるためなら、編集や書くことにこだわりません。
とにかく日本で働く人を活性化することがやりたい。それってユーザベースの「経済情報で、世界を変える」というミッションとも合っていると思っていて。働く × 人口がGDPですから。自分の夢と会社のミッションが一致しているんです。
でも新規ユーザーを増やすことや、NewsPicksとしての質の担保、メンバーのより高い成長の実現など、まだまだやり切れていないこともたくさんあります。初期からいるメンバーではあるけれど、富士山に例えると、やっと登山口に立てたくらい。「まだまだこんなもんじゃ終わらせないぞ」って常に思っています。永遠に落ち着く日はなさそうだけど(笑)、その覚悟は決めているつもりです。
だからユーザベースグループのみんなにも、そういう当事者意識を持って働いてほしい。NewsPicksをイケてる会社だと思って入るのは大間違い。イケてる会社にするのはみんなだし、その道のりはまだまだこれからです。UBグループは個人のWill=やりたいことを何より大事にする会社。これからもみんなの「やりたい」を実現し続ける会社でありたいですね。