1. はじめてリーダーを打診されたとき、どう思った?
最初にリーダーになったのは、前職の経営コンサル時代のときでした。その会社ではいわゆるプロジェクトマネージャーからがリーダー職で、配下のメンバーを評価・育成するポジション。早くなりたいと思っていたので、抵抗感は全くありませんでした。
当時は32歳くらいで、まだ人間として青かったので、リーダーになること=偉くなること・カッコいいことだと思っていて、「やってやろうじゃん」みたいな感じでした。なることに対してデメリットは特になく、良くも悪くも、働いてパフォーマンスを出していたらリーダーになるものだ、っていう固定観念もありましたね。リーダーの仕事をやりたかったというより、そのポジションを手に入れたかったんだと思います。
最初の1年は苦労しました。もちろんその後のキャリアでもいろいろな困難はあったし、大変なことも経験しましたが、マインドセットの転換が一番必要だったのが1年目でした。
具体的には、「自分が一番結果を出せば周りが勝手についてくるだろう」と思っていたのに、実はそうじゃないことに気づいたこと。やればやった先に目指すべきリーダー像があるのではなく、そもそもリーダーとメンバーでは非連続な違いがあって、自分にはリーダーとしての視点が欠けていることに気づかされました。
私自身のそれまでのオペレーショナル・エクセレンスでは、「メンバー1人ひとりに最大限結果を出してもらうこと」がリーダーシップだと思っていましたし、そうすれば足し算で結果が最大化するはずだと考えていました。
でも私が担当経験したあるプロジェクトに、明らかにフィットしていないメンバーがいたことがあって。そのメンバーのことは最大限サポートしたつもりだし、彼も頑張ってくれたけど、なかなかうまくいかなくて労働時間が長くなってしまった。結果的にはクライアントや会社からの評価は悪くなかったんですが、私の心には何かモヤモヤしたものが残ったんですね。
その後、自社のリーダー研修に出て、そのモヤモヤの正体に気づくことができました。研修中のケーススタディが、そのときの状況にすごく近かったんですよ。「あるプロジェクトで、新人メンバーがうまくいっておらず、プロジェクト全体に影響を及ぼしています。そんなときどうしますか?」というようなお題でした。研修に参加していた他のみんなも、新人メンバーを全力でサポートするとか、僕と同じような選択をしていました。
でも講師の答えは違いました。「それも1つの手だけど、他の選択肢がないのはリーダーじゃない。その新人メンバーを外して、別のメンバーをアサインする、って考えた人は? 」「結果を出すことがリーダーの仕事。1人のために現状のメンバーがサポートしているのか、それともゴールから逆算して、そのうまくいっていない1人以外のメンバーのためになっているのか? ゴールから逆算した結果の最大化は?」
これを言われてハッとしました。与えられたプロジェクトにコミットするのがリーダーの仕事なんだと。そのときから、私の中でのリーダー像は、結果に対して自分がコミットし、結果を出すからメンバーのハッピーにつながる、というものに変わりました。
実際に、一度プロジェクトメンバーを変えたこともあります。そのままにしておいたら、そのメンバーは「パフォーマンスが低い」というレッテルを貼られて、クビになっていたかもしれない。そんな「傷」がつく前に外すことで、それを防ぐことができる。プロジェクトを外されたという事実によって傷つくこともあるとは思いますが、心を鬼にして決断しなければいけないと思っています。
それを心無い打ち手として捉えるか、結果にコミットしているからこその判断と捉えるかの違いなんですよね。どちらの判断が正解、という話ではなく、「その選択肢を持っていること」が重要で、リーダーは結果を出すためにあらゆる手段を揃えておくことが大事なんだと。メンバーを外すという選択肢を選ぶかどうかは別にして、リーダーたる者、常にその覚悟を持つべきなんです。
メンバーを入れ替えたくなければ、ちゃんと結果を出さなきゃと思ったし、そのためにはちゃんと育成しなければと思うようにもなりました。僕が教育に興味を持つ理由はこれです。今思い返しても、あれはこれまで受けたものの中で一番いい研修だったと思います。
2. ユーザベースグループで実際にリーダーをやってみてどう?
リーダーシップとしては、前職よりもユーザベースのほうが面白いことが多いかな。理由は3つあって、1つはデジタルメディアという成長している市場で働くのが楽しいから。経営のリーダーシップをとるのも、成長市場のほうが前向きで楽しいんです。競争戦略で大事なポイントの1つは、成長している市場で戦うこと。そういう舞台でやれるのは、リーダー冥利につきますね。
2つ目はデジタルな考え方。経営の意思決定やいろいろなリーダーシップが、全て検証可能なんですよね。これはデジタルのビジネスをやっているからこそだと思います。たとえば大企業の場合はパワーで、コンサル会社の場合はロジックで意見を押し切ってしまうことがあるんですよ。
それがユーザベースの場合、僕が「こうしたい」って言ったら、メンバーが「じゃあA/Bテストやってみまーす」って言って、翌日「杉野さんの予測とは違いました」ってファクトを報告してくれる。パワーもロジックも、ファクトや結果には勝てない。リーダーが天狗になる余地がないんです。
3つ目はDiversity。これは難しさでもあり楽しさでもあるんですが、コンサル会社は比較的、同じようなバックグラウンドの人たちが集まります。育ちがよくて、いい大学を出て、職能も1つでコンサルタントのみ。その良さや面白さもあるのですが、一方で、Diversityがとことんない世界です。
それがユーザベースだと「チーム組みましょう」って言った瞬間に、編集者・記者・エンジニア・マーケ・デザイナー・新卒がいるのが普通。チームを回そうとしても、共通言語がない。そういうチームをマネジメントするのは、大変さもあるけど、違う知識を持ち合うので、何ができるんだろうっていうワクワクがありますね。
3. 何を大事にしているの? 仕事だけでなく、人生でも
人生においては「知識」ですね。とにかく知識を広げたい。僕が小さい頃って街がどんどん成長している感じがあったんですよ。
地元の相模原市の駅の周りにどんどん建物が建っていって、街が発展していく。みなとみらいという新しい街ができて、ポケベル・携帯ができて──といった具合に。知識があるからこそ、再現性のあるものが出てくるし、次の世代に発展したものを残せると思うんです。だからメディア企業として知識をしっかり届けていきたいですね。
仕事に絞って話すと、結果を出すことですね。結果を出さないと、どんなにチームがいい状態であろうと、最後はモラトリアムになってしまうというか、結局チームのみんなが不幸せになる気がします。結果はあくまでもユーザーに満足してもらうことであって、ユーザーに満足してもらえているからこそ、社員1人ひとりがハッピーになれるんです。結果が出ていない中でのハッピーは、何かが違うと思います。
4. ワークライフバランスについて、どう考え、実践している?
すごく大事だと思っています。特に、1人ひとりが「ありのまま」というか、素のまま自分らしく働けることが大事だと思います。職場として一番大事なのは、「時間と場所の自由度」。時間の長さやオフィスの立地ということではなく、その選択の自由度が大事だという意味です。
2005年にコンサル会社に入ってすぐ、社内にワークライフバランスのプロジェクトがあったんですよ。外部からのコンサルメンバーもいて、僕は社内側のカウンターパートとして参加しました。
僕は「みんなが気になっているのは長時間労働だろうな」と予想していたんだですが、いざアンケートをしてみると長時間労働は表面的な問題で、「業務時間帯をコントロールできず、合コンに行けない」とか「週末に家族とご飯食べにいけない」という声が多かったんですね。家族と食事した後に仕事していいなら問題ない、っていうメンバーもいて、「自分で選べないこと」がフラストレーションなんだと気づきました。
スケジュールのコントロールほど、ありのままでいるために重要なことはないと思っているので、ワークライフバランスを考える際は、とにかく時間の自由度を高めることを意識しています。実際、今は大学教授やA.T.カーニーのアドバイザー、文科省の委員も兼務していますが、スケジュールは全て自分で決めています。
ポイントは、1つはとにかく生産性を上げること。生産性が高くないと、時間の在庫がなくなって結果的に自由度も低くなります。時間の在庫、バッファをつくるためには、生産性を高めることが必須です。
2つ目は、自分の都合をはっきり伝えることです。僕は経営メンバーに「夜はミーティングを入れないで」とはっきり伝えてあります。こういうことを誰にでも言えるような関係性にしておくのも大事ですね。
5. うまくいかなかったとき、どうした?
すぐに反省します。反省を先延ばししても、いいことは何も起こりません。自分に言い訳したり、他人のせいにしたりしていたら何も学ばないし、進歩しない。反省して、何がダメだったのか、どういうパターンだったら失敗するのかを知識に変える。だからさっさと反省します。
慣れてくると「反省しちゃうと、気が楽」ってなりますよ。反省すると底を打つというか、あとは上に浮上するしかない、ってなりますから(笑)。
6. メンバーと話すときに意識していること
相手に興味をもつことと、相手から学ぼうとすることですね。先ほどの知識の話にも通じますけど、相手から学ぼうとすると、いいことがいくつかあります。たとえば相手のことを先入観なく、ファクトとしてフラットに見られるようになります。
どんなイヤな人と話すときでも、この人から学ぼうと思ったら、ファクトで見ることができるんです。さらに、そこで出てきたファクトについても、リスペクトがないと学べないので、イヤな人でもリスペクトできちゃいます。
3年くらい前に、僕と年代の近いメンバーがいて、その人に何度かフィードバックしていたんです。その人は「批判すること」をある種楽しんでいる部分がありました。もちろん批判も大事なんだけど、結局「自分だったらどうするの?」が必要。代案を考えるようになると、批判とアドバイスがセットになるよと。そういう話をしてから、その人がすごく変わっていったんですね。
その人は僕と年齢もあまり変わらないわけですから、年齢を言い訳にして「変われない」って決めつけてはいけないなって思いましたね。自分でフィードバックしておきながら、年齢を言い訳にして現状維持みたいな態度はよくないなって、自分にとっても学びになりました。
7. 1on1のときに気をつけていることは?
たとえば今日は今後のキャリアに悩んでいて、リーダーを目指すのかプロフェッショナル職を目指すのか迷ってモヤモヤしている、という方と1on1をしました。現状に不満があるわけじゃなく、キャリアを描けないことへの漠然とした不安ですね。2人目の子どもを考える際の生活の不安とか、言語化できないモヤモヤを抱えていて、「30代前半の杉野さんが、何を考えていたのかを知りたい」と言われたので話しました。
僕は30歳でA.T.カーニーに転職したんですが、振り返ってみると、20代の頃は常に他人と自分を比較していましたね。ドコモで「同期には絶対負けたくない」と思っていたけど、30歳でA.T.カーニーに入るとき、他人と比較するのではなく、自分の目標のために生きようと思うようになったんです。20代の頃に人と比べていたのは、目標がなかったからだと思います。
10年間は経営コンサルを続けることや、本を3冊書くこと、将来教職につくことなどを目標に30代を過ごすと決め、それぞれの目標を達成することに一所懸命だったので、結果的に他人と比べなくなった、みたいな話をしました。
8. メンバーと意見が対立したとき、どうしているか?
とことん話し合います。それ以外の選択肢はない気がします。ただ、「とことん」のレベルは人によって差がありますね。NewsPicksに来てから、より「とことん」話し合うようになった気がします。
入社して半年後くらいに、NewsPicksについて梅田さん(梅田優祐/ユーザベース共同創業者・現 非常勤取締役)と議論したことがあって、「こういうことはとことん話そう!」ってSlackで20往復くらいやり取りした記憶があります。梅田さんが「このやり取りを、みんなにも見てもらおう」と言い出し、公開チャネルの#np-allか何かで公開したこともあって。「とことん」ってココまでやるんだ! って学びになったし、NewsPicksに来てよかったと思えました。
ちなみに、このときのやり取りは1週間くらい続きました。週末を挟むとき、梅田さんが「週末に杉野さんの時間を使うのはアレなので、リプライは控えます」って言っていたくらい(笑)。
数ヶ月前にも、佐久間さん(佐久間 衡/Co-CEO)や坂本さん(坂本 大典/NewsPicks執行役員CRO)とミーティングしたときに違和感を覚え、直後にDMして、1時間後くらいに1on1をやって、それでも収まらず、稲垣さん(稲垣 裕介/Co-CEO)や他の経営メンバーも入ってきて、とことん話したことがありました。
梅田さんの場合、「とことんやる」って言ったとき、本当に細かいところの違いまで気にするんですよ。みんなが「よかったね」ってまとめに入るタイミングでも「待って、ここが気になる」と言って確認する。あの姿勢はすごいなって思いますね。
稲垣さんや佐久間さん、坂本さんとも、これくらい「とことん」話す機会が、もっとあってもいいのかなって思います。だからたまにシンボリックに、NP-ALL(NewsPicksの全体定例ミーティング)とかで経営メンバーの公開議論をやってもいいかもしれないですね。
9. ユーザベースのD&Iについてどう思う? 杉野さんにとってのD&Iは?
世間一般との比較で言えば、NewsPicksやユーザベースは多様性がある方だと思います。僕が特に大事にしたい多様性は、一義的には経営学ではファンクショナル・ダイバーシティと呼ばれていますが、経験やバックグラウンドに対する多様性です。
知識って、同じ知識を持つ5人が集まっても、出てくるアイデアや結論は同じなんです。たとえば日本の大企業のように、似たような知識の中でずっと育ってきた人たちは、仮に異なる組織出身であっても知識の多様性は低い。でも異なる知識を持つ5人が集まったら、いろいろな答えが出てきます。
こういう知識の多様性を得ようと思うと、あらゆる人に機会が開かれていることが必要になります。このため、知識の多様性を得る手段としては、デモグラフィックなDiversityが必要だと思います。性別・国籍・年代など、いろいろなバックグラウンドがあればあるほど、知識の多様性は広がりやすい。デモグラフィックな多様性を大事にできれば、採用面にもリテンション面にも良い効果があると思います。
10. D&Iに取り組むメリットは?
NewsPicksには、記者やマーケティング、プロダクトマネージャー、エンジニア、コーポレートなど、約200人しかいない組織にもかかわらず、実に多様な人たちがいます。こういった組織は、僕の知る限りそんなにありません。こういう組織でいろいろな話をして知識が出てくることで、クリエイティビティは上がると思います。
一方で、Diversityを高めれば高めるほど、マネジメントは難しくなるでしょうね。Diversityって、やればやるほど良くなるというものではなく、組織マネジメントをしっかりやらないと、相互不信になって崩壊するリスクも内包しています。
だから、みんなの共通項をちゃんと作るためにも、The 7 Values(ユーザベースグループが大切にしているバリュー)やカルチャーはすごく大事だと思います。D&Iをやればやるほど、バリューの大事さは上がっていくはずです。
「Diversityがある」とは、言い換えれば「自分と遠い人が増える」こと。自分と近い人のほうが親近感は湧きやすいんですよね。海外に行くと楽しいけど、近くで違う言語で話されていると、「悪口を言われているのでは?」と不安になることだってあるかもしれません。でもそれを乗り越えて初めて、海外は楽しいと思えるようになるんですよね。
Diversityって、みんなが共通して信じ合えるものがないとカオスになってしまいます。だからこそ、バリューの再定義と浸透はすごく大切です。逆にDiversityを目指さない会社は、バリューを気にしなくていいんです。なぜなら、みんな同じようなシェアードバリューが勝手にできていくから。同じ地域・同じ年齢の公立中学には、シェアードバリュー的なものがあったのと同じです。
<私にとってのD&I>
蛭子能収さんの『ひとりぼっちを笑うな』です。一人ひとり、全く違うんだってことと、だからこそ、他人と比べるなんて全く意味がないなって、蛭子能収さんを通じて理解することができた本。すごく好きな一冊です。