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解約率は、仕組みで下げる。カスタマーサクセス起点の組織変革【ナレッジシェア #02】

解約率は、仕組みで下げる。カスタマーサクセス起点の組織変革【ナレッジシェア #02】

ユーザベースの創業事業、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」。国内だけでなく、中国や東南アジア、北米などにも展開し、R&Dの分野にも事業の幅を広げています。また2020年からは、インタビュー等を通じて専門家の知見にアクセスする機能「SPEEDA EXPERT RESEARCH」を提供しています。

ナレッジシェアシリーズの第2弾は、SPEEDAのカスタマーサクセスについて。2020年第4四半期、SPEEDAの平均月次解約率は1.3%まで上昇しています。しかし、1年後の2021年第4四半期には1.0%、2022年第1四半期には0.9%を記録しました。この結果を牽引したCustomer Success Teamのリーダー・松井が、戦略や具体的な成果、顧客からの反応などについて振り返りました。

松井 亮介

松井 亮介RYOSUKE MATSUISPEEDA Customer Success Team / Manager

2016年、ユーザベースへ新卒入社。SPEEDAコンサルティングサービスチームにてコンサルティングファーム、金融機関な...

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目次

SPEEDAカスタマーサクセスの独自性

SPEEDAはユーザベースの祖業として2009年に事業を開始し、顧客社数は2022年3月時点で1,946社を数えます。

SPEEDA事業のカスタマーサクセス(以下「CS」)は、2018年に組織が誕生しました。当時のミッションは「解約率の低減」。各社ごとに異なるSPEEDA活用方法をヒアリングし、活用状況が思わしくないユーザーには新たな活用方法のご提案を差し上げます。顧客からのプロダクト改善要望を開発チームに届けたり、ユーザーIDの削減や解約のご相談を受けたりするのも、私たちの仕事となります。

ユーザーの事業領域は、プロファームから金融、商社、製造業までさまざまです。その多くは経営企画部などに所属し、経営戦略に携わる方々。多様な顧客課題と向き合いながら、経営的な視座や様々な業界の潮流を知ることができるのは、SPEEDAのCSが持つ大きな独自性のひとつです。

また詳細は後述しますが、2021年からはCS内に「CSIS(Customer Success Inside Sales) Unit」を設置。ユーザー企業への提案と、日頃のコミュニケーションの活動量を両立させる体制を構築しているのも大きな特徴です。

解約率上昇の背景

B2B SaaSプロダクトにおいて、解約増加に伴うMRR(Monthly Recurring Revenue:月次計上収益)の減少は致命的です。新規顧客の獲得による売上のリカバリー幅が増加し、事業成長の鈍化を招くからです。

※参考:解約率は成長の上限を決める|tr.sakuma(note)

年間130%成長を全社で掲げるユーザベースにおいて、収益の屋台骨とも言えるSPEEDA事業の平均月次解約率(以下「チャーンレート」)低減は、もとより大きな課題でした。

一方で、2020年に入ってからのCSは大きなピンチを迎えていました。SPEEDAの価格改定と同時期に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が重なった結果、ユーザーの離脱が相次いだのです。

当時はすでに顧客社数が1,500社を超えていたのですが、CSメンバーは10名前後。顧客接点を持つ工数が限られており、活用状況があまり芳しくないユーザーに連絡が取れない状況が続いていました。ようやく連絡が取れたと思ったら、当時の担当者が離職後だったこともしばしばだったのです。

プロダクトの理解と利用推進を図る担当者が離職や異動などでいなくなると、必然的にプロダクトが活用されにくくなります。そのためSaaSプロダクトにとって、CSを通じて継続的に顧客接点を持ち続けることが重要です。しかし接点不足が続いた結果、顧客社のロイヤルティが下がり、新型コロナや価格改定がきっかけとなってSPEEDAの解約につながる流れが生まれ始めていました。

SPEEDA事業全体に危機感が募っていた頃、最初にアクションを起こしたのは佐久間さん(佐久間 衡/ユーザベース Co-CEO)でした。IR開示資料の中でSPEEDAのチャーンレートを公表することを決定したのです。

SPEEDAのチャーンレートは当時1.3%で、更なる上昇傾向にあったことは否めません。数値の公開については事業部内では賛否両論がありましたが、結果的には公表に踏み切ることとなりました。

時を同じくして、SPEEDA事業のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)にチャーンレートが据えられることとなりました。目標は、当時1.3%だったチャーンレートを半年で1.0%以下まで落とすこと。たった0.3%の差分に見えますが、この0.3%を下げることは持続的な売上成長に大きなインパクトをもたらします。

社内外に最重要指標として掲げたこの時から、本格的にSPEEDA事業全体で「チャーンレート」が大きなテーマとなり、CSを中心とした数値低減への取り組みが始まりました。

具体的な戦略/戦術

2018年にCSが発足して以来、長期的な課題は「CSが顧客と誠実に向き合う環境を構築すること」でした。解約に至る要因は、プロダクトに問題がある場合もあれば、ユーザーサイドにある場合もあります。「CSのせいではない」といくらでも言い訳ができるポジションであることを自覚した上で、主体的に1件1件と向き合い、利用継続につながるアクションを取り続けることが重要です。

そのためにはCS内の体制を見直すことはもちろん、他部署との連携が必要不可欠です。そこで、顧客・事業部・チーム内、それぞれとのコミュニケーションを見直し、時には仕組みを導入することでチャーンレートの低減を図ることとなりました。

解約率低下を成功させる3つのポイント

取り組みを振り返ると、以下のポイントに集約できます。

ここからは、私たちが取り組んだ具体的な戦略についてご紹介します。

戦略①危機感を共有し、事業部全体の「自分ごと」に

今までNetのMRR成長を最重要KPIに設定してきたSPEEDA事業にとって、「チャーンレート」が事業全体の重要なテーマとなったのは初めてのことでした。そこで、事業部全体で行われる週次の定例ミーティングでは、CSから必ず最初のトピックで進捗を報告。重要な指標にも関わらず、いかに危機的な状況なのかを共有し続けました。

ミーティングには、セールス組織はもちろん、プロダクト開発やマーケティング、デザイナーに至るまで、SPEEDAに携わる全てのメンバーが一堂に会します。こうした場で周知し続けることで事業部全体の「自分ごと」化を進めた結果、業務の役割を超えてさまざまな部署が、チャーンレートの改善に意識を向けるようになりました。全員で追うべき指標として定着したことで、1件1件へのこだわりが強まっていったのです。

戦略②解約申請期限を短縮。通知メールを送付し、本来のCS業務に向き合える環境を構築

CSは解約申し出の一次受けを担当することもあり、後ろ向きな会話をしなければならない場面もあります。特に2018年ごろまで多かったのが、解約期限に関するお問合せです。

その当時、SPEEDAの規約では「解約申請は解約希望日の3ヶ月前まで」。気づいたら期限を過ぎていたお客様から「3ヶ月前と規約にはあるようですが、あまりにも早過ぎませんか?」と苦言を呈される場面が多々ありました。こうしたやりとりに多くの時間を割かれ、建設的な会話をする時間が限られていたのです。

そこで、ユーザーが分かりやすく・納得できる契約形態に変更することを目的に、2019年から解約の申請期限を「1ヶ月」に変更。併せて、申請期限の1ヶ月前を迎えたユーザー企業全てに通知メールを送ることにしました。

変更にあたり、事業部内は賛否両論。しかし「意思決定が解約直前であっても対応してほしい」「解約期限は事前に知っておきたい」というユーザーニーズに応えていくことで、結果的にお客様とSPEEDAの関係性は前向きなものになっていくという確信がありました。

CSが解約の数字に責任を持ち、情熱を持ってやり抜いた結果、解約申請期限をめぐる問い合せは激減。CSメンバーはお客様との建設的な対話に多くの時間を割けるようになったのです。

戦略③新ポジション「CSIS」の設置により、全顧客との接点創出を実現

2020年後半からは「全件タッチ」と称する、全ての顧客と接点を持つための取り組みを開始しました。当時のSPEEDAはサービス開始から10年が経過しており、しばらく連絡を取れていないお客様もかなりの数いらっしゃる状況。チャーンレートを低下させるためにも、まずは全てのユーザーと会話をしなければ何も始まらないと考えたのです。

一方、1,500社以上を10名前後で全件タッチすることで課題も見えてきました。

SPEEDAにおけるCSの業務は、電話やメールによる「コミュニケーション活動」と、顧客への「提案活動」の2つに分類することができます。前者の活動は、SPEEDAユーザーの活用状況を把握するための接点を定期的に持つことで、新規提案や勉強会の機会を獲得します。その後、SPEEDAの利用方法を提案したり、ときには企業に直接往訪して勉強会を開いたり、といった後者の活動につながっていきます。

この2つは根本的に業務のリズムが異なるため、メンバー1人ひとりが両立することに限界があることに気づきました。そこで、活動に応じて役割を切り分ける必要性を議論し始めたのです。

そうして顧客接点の創出およびリレーションの専門部署として2021年に誕生したのが、「CSIS(Customer Success Team Inside Sales)Unit」です。CSISは、電話やメールによるコミュニケーションに特化。主に顧客の契約状況に応じたコミュニケーションやサービス改定の連絡、アポイント獲得活動、CRM(Customer Relation Management)活動を行います。

CSISの設置により、CSにおけるコミュニケーション活動の可動域は圧倒的に広がりました。

1)個社ごとのきめ細やかな対応の実現
SPEEDAのようなプラットフォームの利用に慣れていないユーザー企業には手厚いフォローが必要ですが、すでに自走できている場合はサポートを求めていないことも多く、連絡はつながりにくい傾向にあります。CSISが窓口となってコミュニケーションを取ることで状況の変化を把握することが可能となり、適切な距離感を測れるようになりました。

2)解約懸念先への「半年前タッチ」
前述の全件タッチを経て、解約に至りやすい要因を持つユーザー企業の特徴が見えてきました。その結果、実現できた施策が「半年前タッチ」です。個社ごとに要因の有無を精査し、顧客管理システム上でフラグ付け。解約懸念フラグの立ったユーザー企業に対しては、契約更新の半年前からコミュニケーションを取るようにしたのです。今までは契約更新の1〜2ヶ月前に連絡を入れていたことを考えると、大幅な生産性改善につながりました。

3)顧客起点アプローチへのトライ
解約懸念先へのアプローチ体制が軌道に乗ったことで、アプローチが不要なユーザーが増加。安定的に活用しているユーザーへのフォローもできるようになりました。また、SPEEDAのニュース設定通知を利用してユーザー企業のニュースを受け取り、組織変更の情報をもとに接点を作る取り組みも開始。生産性を改善したことで、今まで接点作りの機会が「契約更新時期だけ」だったところに「顧客起点」も加えるトライをできるようになったのです。

戦略④フィールドセールスと共通のOKRを設定。「継続利用しやすい」顧客セグメントを見出す

解約にはさまざまな要因がありますが、中にはCSだけでは対処できないものもあります。

たとえば、トライアル時には価値を実感いただいても、実際に利用してみるとそもそも利用シーンが少なかったり、SPEEDAでは課題解決に寄与できなかったりするケースです。根本の原因は、セールス組織としてのターゲティングと「価値が届きやすい=継続利用の可能性が高い」顧客層が異なることにありました。そのため事業全体として目線を合わせる取り組みも行いました。

その一例が、フィールドセールスと共通で、「オンボーディング卒業率」をはじめとしたお客様の活用状況に関する指標を設定したことです。卒業率は、契約ID数に対するアクティベート済みユーザー・利用ユーザー・アクティブユーザーの各割合が一定基準をクリアしているかどうかを判断するための指標。「継続的に利用してもらう」という共通の目標を達成するための指標設定は、チャーンレート低下に大きな効果がありました。

顧客の反応・声

上記のような施策を1年以上積み重ねた結果、2022年第1四半期のチャーンレートは0.9%を記録。CSがお客様とより向き合える仕組みを構築したことで、コミュニケーションおよび提案の質が上がり、プロダクトの継続利用につながっている手応えを感じています。

感覚的なことを言えば、定期的に接点を持てるようになったことでお客様からの見え方も変わったように思います。半年前タッチを例に挙げると、契約期限の半年前から「活用でお困りのことはないですか?」と連絡することで、お客様が親切に受け止めてくれることが増えました。

また、今までは担当者の退職や異動が原因で関係がリセットしてしまうケースもありましたが、日頃から連絡を取ることで後任を紹介してもらうことが容易になり、リレーションの継続がスムーズになりました。

最後に

ここまでご紹介した内容は主に2021年に取り組んだ施策になりますが、ユーザーの状況も経営指標も刻一刻と変わるため、今後も常に施策の見直しをかけながらブラッシュアップしていく予定です。

とはいえ、根幹にある「顧客の成功体験をつくる」というチームの目標は今後も変わることはありません。1つの目安として引き続きチャーンレートの低下を目指しつつ、お客様の声を真摯に受け止めながら、チーム一丸となってサービスを磨き込み続けます。

編集後記

話を聞けば聞くほどたくさんの取り組みが出てきて、メンバー全員で取り組んだ血の滲むような努力が瞼の裏に浮かんだインタビューでした。目の前のお客さまを大事にするために、大掛かりな取り組みから小さな日々の積み上げまでをやりきったメンバーたちが「0.9%はただの《分かりやすい》指標であり、通過点」と語る姿……ただただ尊敬です(身内びいきでごめんなさい)。
私にとって初めてのUzabase Journal記事となりましたが、少しでも参考になる、そしてリアリティのある記事に仕上がっていたら嬉しいです。筆力不足で全て盛り込みきれなかったことは悔しいですが、それはいつか別の機会にリベンジします。

執筆:髙田 綾佳 / 編集・写真:筒井 智子 / デザイン:犬丸 イレナ
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