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沖縄×エンジニアが持つポテンシャルとは──Tech BASE Okinawa for Students対談

沖縄×エンジニアが持つポテンシャルとは──Tech BASE Okinawa for Students対談

2022年10月、ユーザベースなどが主催する沖縄最大級の学生向けテックイベント「Tech BASE Okinawa for Students」が開催されました。沖縄に住みながら、ワクワクする仕事がしたい。社会や地元経済に貢献したい。イベントでは「沖縄×エンジニア」という選択肢が持つ可能性をテーマに、さまざまなセッションが行われました。

当日、スピーカーとして登壇したユーザベースCo-CEO/CTOの稲垣裕介と、株式会社Link and Visible CEO豊里健一郎さん、沖縄国際大学の知念航太さんが、あらためて「沖縄×エンジニア」の可能性について語りあいます。

豊里 健一郎

豊里 健一郎KENICHIRO TOYOSATO株式会社リンクアンドビジブル 代表取締役 / コザスタートアップ商店街 代表 News Picks Re:gion Picker / ResorTech Okinawa構想策定検討委員 / 一般社団法人沖縄スタートアップ支援協会理事 / シェアリングエコノミー協会沖縄副支部長/ 沖縄スタートアップエコシステムメンバー

1988年生まれ。沖縄県出身。留学と海外勤務により15年間中国広州・深圳などで過ごした後、株式会社リンクアンドビジブル...

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知念 航太

知念 航太KOUTA CHINEN沖縄国際大学 産業情報学科 4年生/株式会社 Hugkun

学生エンジニアとして学業とエンジニアを両立。エンジニアとしては主にWebアプリの開発等に携わる。その他コミュニティ活動...

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稲垣 裕介

稲垣 裕介YUSUKE INAGAKIユーザベースCo-CEO/CTO

大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社に入社。プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案、金融機関の大規模デ...

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目次

「沖縄×エンジニア」の選択肢は増えている

知念さんは実際に沖縄でエンジニアとして働いていらっしゃいますが、沖縄でエンジニアが働く環境について、どう思われますか?

知念 航太(以下「知念」):
自分の親世代と比べてもかなり環境が変わってきているとは感じますが、肌感覚としてはやはり、東京や大阪などの大都市のほうが仕事は多いですね。ただ、Tech BASE Okinawaに来場した企業さんのように、沖縄にいながら東京水準で働ける会社は増えています

コロナ禍でリモートワークが広がったことで、東京や大阪、あるいは海外の企業に就職して、フルリモートで沖縄で仕事するといった働き方もできるようになりました。その分、さらに選択肢は増えていると思います。

ただ、環境は整いつつあるんですが、県外で就職する人が多いのが実情なんですよね……。新卒で東京や大阪の会社に就職して、何もわからないうちから沖縄でフルリモートで働くことへの不安があるんだと思います。まずは新卒で対面でコミュニケーションできる場所に行って、仕事に慣れたら沖縄に戻ってリモートワークをするパターンはあるのではないでしょうか。

知念さんが言うように、沖縄の環境は変わりつつあると思いますか?

豊里 健一郎(以下「豊里」):
だいぶ変わってきていると思います。これまで沖縄には働く場所がとにかくなくて、政府が補助金を投入して本土との格差是正を行ってきました。さまざまな誘致施策によって雇用を生み出すことで、4千億円の市場に成長したんですが、雇用を作るためのコストセンターを軸とした発展を遂げたため、生産性や所得向上に注力できずにいた。

私は17年間ほど中国で働いていたんですが、沖縄に戻ってきたのは沖縄が持つ地理的優位性があまり伝わっていない、まだまだポテンシャルがあると感じたからです。沖縄から上海まで約1時間、香港まで約2時間、シンガポールやマレーシアは3〜4時間でアクセスできます。

スタートアップも大企業も、アジアにアクセスするなら沖縄を挟んでリソースを調達するとか、アジアから日本に来るときにも沖縄を通る──沖縄がハブになるような可能性を見出したいなと思ったんです。

2022年は沖縄返還50周年の節目の年です。この先10年で沖縄が掲げる目標は、いかに付加価値を高めるか。沖縄には人も資本もまだまだ足りていません。今はまだ東京のほうが、成長できる可能性は圧倒的に高い。

沖縄にはこれから企業や人の流れを呼び寄せて、沖縄の人も成長できる環境をつくっていく必要があります。そのためにも、学生をはじめ人材に投資する企業を増やすことと、そういった企業に沖縄の可能性を知ってもらうことが重要だと思います。

豊里健一郎氏
稲垣さんは、首都圏に人材が集まる背景にはどんな構造があると思いますか?

稲垣 裕介(以下「稲垣」):
たとえば、プロダクトをつくるチームは地方にあって、営業チームは東京にいるケースがよくあります。地方でプロダクトをつくることはできても、地場のネットワークがなければ新しい製品を売ることができにくいため、営業は東京に出る。

私たちが地方に行ったときにも同じことが起きていて、いわゆる一見さんお断りなんですよ。地場のローカルネットワークにしっかりと入り込み、信頼を積み重ねなければ、製品を検討するという土台にすら乗れません。売上を上げようとしたときの労力が大きいんですね。そうなると、開発と営業を分けるのはひとつの答えなんです。

なので、沖縄で創業した会社で、その後東京に販売拠点を移したケースはあるでしょうし、逆に沖縄のほうが開発コストが安いから、ニアショアで地方に開発拠点を置くケースもあります。このあたりの変数によって、結果的に企業が東京に集まりやすいのではないでしょうか。

エンジニアリングの力で、課題をビジネスに変える

今後、どうしたら沖縄にエンジニアが増えると思いますか?

稲垣:
これは沖縄に限った話ではないんですが、日本において多くのエンジニアの仕事は「発注された仕事」なんです。つまり、「ビジネスとしてこんなことがしたい」とビジネス側に相談されて、そこに課題があって、この課題をエンジニアリングでどう解決するか考える。エンジニアが自ら仕事を生み出すことができない限り、ビジネス側の「エンジニアリングを使って何ができますか?」という問いがないと、エンジニアの仕事は発生しにくい構造にあります。

そういった課題を解決するには、エンジニアリングでプロダクトをつくる必要があるわけですが、先ほどもお話しした通りプロダクトが売れる場所はどうしても東京を筆頭に大都市圏に偏っています。基本的にはチームは一箇所に一緒にいたほうがコミュニケーションも取りやすいし、生産効率も高い。そうなると、エンジニアも含めてビジネスを創造している人たちが大都市圏に集まっていく構図になります。

大都市圏の開発拠点で手が足りなくなってくると、「この仕事をどこかが請けてくれないか」と発注がいきます。つまり受託開発ですね。この場合、プロダクトの成長によって新たな雇用など、会社や経済が発展していく中心は大都市圏にあって、地方ではあくまで発注された仕事を請けて開発する会社がある、という構図から脱却できません。

沖縄は、アセットとしてずば抜けた観光資源を持っているので、観光資源×ITなどで発展できる余地が大きいと考えています。その土地ならではの明確なアセットに対して、経営者が何かしらの創造をして技術を活用すれば、雇用が生まれる。これが本来のサイクルだと思います。いまの沖縄はこの部分が弱い点が課題のひとつなのかもしれませんね。

これは私たちのようなエンジニアにも問題があり、「エンジニアリングの活用によってこんなこんな発展の可能性があります」と伝えられないと、ビジネス側の人と一緒にプロダクトを創造することができません。もちろん、ビジネス側の人間にも問題があって、自分たちがエンジニアリングを使ってどんな製品が開発できるかという発想を持たなければいけない。この両者がお互いの領域を越境して一緒に新たな技術活用の可能性を創造していくことが、こういった課題を克服するために必要なことだと思っています。

たとえば、スタートアップが増えればエンジニアが増えることはあるのでしょうか。

稲垣:
スタートアップは要素のひとつだと思っています。スタートアップが台頭してくる環境があるのは、新たな経済発展の可能性を継続的に生み出せる価値だと思いますし、突破口になると思います。スタートアップはその機動力によってこれまでの既成概念を壊して突き進めることが良さですが、より早くその地域に波及できるような取り組みをするためには、多くの人たちを巻き込んでいく必要があります。スタートアップがきっかけとなり、大企業であったり、沖縄県のような行政だったりと、一緒に何か取り組めるところまでいけば、その地域にとって素晴らしい可能性を生み出せると思います。

スタートアップができて、エンジニアが増えることで技術による発展の可能性は間違いなく生み出されていきますが、それだけだと苦しい状況になることも多々あります。こういった多くの人たちを巻き込んで、スケールできるビジネスモデルの座組みをつくっていくことも大切です。スタートアップに対しても大企業からの投資や業務提携があったり、行政が目を向けて支援金なども含めて一緒に取り組みをしようとしたり。こういったことでいろいろな事例が生まれていくと、もっといい方向に変わっていくはずなんです。

ユーザベース稲垣裕介

豊里:
スタートアップの話で言うと、沖縄は賃金格差やシングルマザーの多さなどで課題先進県と言われていて、そこに目を向けるスタートアップが生まれています。

たとえば沖縄の人はお酒を飲むのが好きで、それが悪いほうに表れています。酒気帯び運転の検挙率が全国ナンバーワン、運転代行を利用しようとすると、代行業者の8割は闇営業など。こうした課題を解決するスタートアップが生まれています。

ほかにも、沖縄市が肝いりで作った沖縄アリーナという施設があるんですが、十分にアセットを活かせていません。私はこれをビジネスチャンスだと思っていて、アリーナから駐車場までのラストワンマイルを埋めるサービスがあってもいいのではと思っているんです。

施設の周辺地域の課題を、エンジニアリングでビジネスに変える。課題が多いことも沖縄にとってひとつのチャンスだと思うので、エンジニアの皆さんに興味を持ってもらえるようにしなければいけませんね。

売り手市場のエンジニア。その中でエンジニアの開拓余地が高いのは、沖縄か北海道

Tech BASE Okinawaは今回で2回目になります。ユーザベースが沖縄でテックイベントを開催する理由を教えてください。

稲垣:
理由のひとつに、国内に東京以外で初めて拠点を持ったのが沖縄だからです。沖縄の方々ともいろいろな議論をしていく中で、先ほど話したようなビジネスサイドの問題も含めた課題をどう変えていけるのか、沖縄からできることがあるのではないかと思いました。

自分たちがオフィスを構えているからこそ、自分たちが雇用を生み出すなど、発信できるメッセージがあるなと思いました。沖縄という自分たちもコミットしている土地であるからこそ、「ここでやってみよう」と思ったんです。

ただ、言うは易しで、今回のイベントは集客面でかなり苦戦しました。他の地域でのイベントと同じ感覚でやってしまったのですが、沖縄には誰に聞いても明確な学生コミュニティが見つけられず、集客したい層に簡単にはタッチできなかったためです。

最終的には告知ビラを大学に置いてもらうなど、リアルに取り組むしかなかったので、効率がかなり悪かったですね。初回というのもありましたが、この課題を認識するのが遅れてしまった。課題が認識できていれば、まず学生コミュニティがない理由をしっかり理解し、必要なら僕たちがコミュニティをつくりに行く、ということをやらなければならかったです。

知念:
学生にとっても情報を得にくいことは課題だと思っています。自分から能動的に動くタイプの方ならいいんですが、そうじゃないタイプの方には難しいだろうと思っていて。そういった方々でも自然に情報を得られる仕組みが必要だと思いました。

知念航太氏
今後沖縄でどんな取り組みをしていきたいですか?

稲垣:
いまの沖縄に課題がある事実は揺るがないと思っています。ただ、課題が特定でき、かつそれが間違ってさえいなければ、攻略法はある。明確な課題、つまりそこにその土地のペインがあれば、解決に取り組む価値があると思うんです。課題さえ間違っていなければ、あとはそこに対してどうアプローチをするかだと思っています。

豊里:
沖縄県内ではいま、エンジニアの卵が増えています。それを見るのもおもしろいし、ビジネスの可能性を感じるからこそ、私はエンジニアコミュニティをサポートしています。

沖縄にあるスタートアップでは資金調達額が増えていますし、大企業でもDX文脈でエンジニアリングを必要としている。その中で、QOLの高さといった沖縄独自の強みを持たせて、かつ首都圏と変わらない収入があれば、いいポジションが取れるのではないかと思っています。

沖縄の魅力をちゃんと伝えて、アクセスしたい企業を増やして、その事例を横展開する。私自身も東京をはじめ首都圏の企業に対して、沖縄の課題とビジネスチャンスの可能性を示していけたらと思います。

知念:
稲垣さんに伺いたいんですが、県外企業から見て、沖縄の人や環境にどんな魅力を感じていますか?

稲垣:
まず、これは沖縄だけでなく日本全体に言えることなんですが、世界的に見ても日本のエンジニアは優秀で、割安なんですよ。

システムは設計するまでが非常に難しくて「こんなことができたらいいね」をコンテキストに落とし込むのが大変です。でも日本のエンジニアはディテールまで細かく説明しなくても、ハイコンテキストに理解することができます。

日本国内ではエンジニアは売り手市場で、どの企業でも人が足りない状況です。その中でエンジニアの開拓余地が高いのは、個人的に沖縄と北海道だと思っています。住みやすさや観光資源などのアセットを考えたときに、沖縄はかなりポテンシャルの高い土地だと思いますね。

豊里:
沖縄は「安い」でしか勝負ができなかった島でした。その沖縄にユーザベースさんの拠点があるのが嬉しいですね。ユーザベースが呼び水となって大きな企業を誘致できる可能性があると思うんです。その結果、優秀なエンジニアがたくさん沖縄に来て、その背中を見て沖縄出身のエンジニアが育まれるといいなと思います。

稲垣:
豊里さんがおっしゃるように、その土地で価値を生み出せるロールモデルは何より重要な要素だと思いますし、どういう形であれば可能性を見出せるかをきちんと伝えていくことが大切です。

その上で、企業サイドはどんな仕事を沖縄に持ってこられるか、バリエーションを考慮する必要があります。ニアショアが前提ではなく、ゼロからプロダクトをつくる発想で、その土地でできることがあるかどうかを見極めなければと思います。

たとえば、ユーザベースとして新しい土地にエンジニアリング拠点をつくるのであれば、NewsPicksやINITIALの一部を切り出して持っていってもいい方向には向きません。それでは社内受発注にしかならないからです。拠点を設けるのであれば、機能単位・事業単位で持ってきて意思決定までできるようにすることが重要です。

その際の受け入れ側の課題としては、エンジニアにそれを請けられる能力があるかどうか。言われたことをやるだけでなく、製品をよりよくしようとする意思が持てるかどうかが重要です。自ら意思決定して執行できるエンジニアが沖縄全体に育っていくといいですね。

編集後記

Tech BASE Okinawa for Studentsの会場となったのはコザスタートアップ商店街! 初めて訪れましたが、イベント前日にはポスターが貼られ、イベント当日は商店街のメインストリートにテーブルと椅子を出してランチを食べるなど、商店街全体がイベントを応援してくれていると感じました。

イベント会場のすぐそばには、AlphaDriveの麻生要一が主宰する「KOZA ENTREPRENEUR ART GALLERY」というアートギャラリーもあります。豊里さんが挙げていらした「沖縄アリーナ」は残念ながら今回伺えなかったので、次回沖縄に行くときは訪れてみたいなと思いました(取材の企画を立てねばですね笑)。

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執筆:宮原 智子 / 撮影・編集:筒井 智子
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