「顧客価値にこだわりたい」保険業界からユーザベースへ
私のファーストキャリアは、新卒で入社した愛知県岡崎市にある保険代理店です。東海地方の中小・中堅企業や税理士事務所、商工会議所向けに営業をしていました。
大学時代の就活の軸として、難易度の高い環境で営業として挑戦したいという想いがありました。人材や保険、ベンチャーを中心に検討する中で一番マッチしたのがこの保険代理店だったんです。当時15人しか従業員がいない会社でしたが、そのうちの2名が日本の保険業界を代表するようなセールスパーソンでした。
ただ、入ってみたらめちゃくちゃ忙しくて。始発から終電まで働き、土日も資格の勉強をずっとしている生活が続き、「これは無理だ」と。それで今思えば早すぎますが、1年目の11月に転職サイトに登録してキャリア面談を受けてみたんです。そこで転職エージェントの方に「でも仕事楽しそうじゃん」「3年頑張ったほうが、今後のキャリアにプラスだよ」と言われて、確かに、と思いとどまりました。
もともとは厳しい環境で営業をしたいという想いと、とはいえ19時や20時には仕事を終えてプライベートとのバランスを取りたいという考えの両方があったんです。私が幼いころ、父がかなりハードに働いていて家族との時間も少なく、同じような働き方はできないなと漠然と思っていました。でもエージェントの方に言われて仕事を続けるうちに、むしろ私も仕事が好きだし、もっと頑張れるなと思うようになりました。その後成果もありがたいほど出て、保険業界のいろいろな表彰にも呼ばれるようになりました。
仕事に打ち込める自分に気づけたことや、保険業界におけるプロフェッショナリズムに触れられたこと、今でも懇意にしていただけるお客様と出会えたことは心から、前職に感謝しています。
「もっと顧客価値にこだわりたい」と思ったんです。前職は私が入社した当時は15人ほどだった従業員が、採用やM&Aを経て3年後には50人ほどに増えていました。自社ビルもふたつに増え固定費が高くなり、売上を立て続けるプレッシャーが加速度的に増していました。
そうすると、だんだん社内でも顧客価値をないがしろにするような発言が増えてきて、「これは違うな」と。自分を信じてくれた、成長させてくれた顧客の価値にこだわれないなら、違う環境でもいいんじゃないかと思うようになりました。今振り返ると、顧客価値と売上を両立する方法はいくらでもあったので、会社にも顧客にも迷惑を掛けてしまったなという思いもあります。
ただ、大半の方が特定の保険会社の専属で販売するがゆえに、個人の成績と顧客価値のバランスが成り立ちにくい業界の特性や、顧客に誠実に向き合っている人が、一定期間新規契約を獲得できないとクビになる環境に限界を感じていたのもあります。当時は自分で保険業界で独立をするのか、保険業界を変えられるようなサービスをつくるのか、ということばかり考えていました。
偶然ですね。転職活動をする中でとある大手企業から内定をいただいて、東京に内定通知書を出しに行かなければならないタイミングでエージェントの方から電話があって。「光岡さんにはユーザベースという会社が絶対合うから、一度話を聞いてみてほしい」と言われたのがきっかけでした。
それで東京に行ったタイミングで、ユーザベースのオフィスに寄って宇佐美さん(宇佐美 信乃/元SPEEDA執行役員)と話をしたら、顧客価値的な視点でめちゃくちゃ意気投合したんですね。
ふたりとも金融業界出身で、業界における情報の非対称性や誠実性が評価されにくいところに疑問を持っていて、SPEEDAのようなサービスが金融業界を変えられるひとつの方法じゃないかと盛り上がって。
自分で起業して保険業界を変えようかという想いもあったんですが、それよりもユーザベースのほうがもっと規模が大きくて面白いことができるんじゃないか、と思えたことが惹かれたポイントです。
宇佐美さんと話したその日のうちに2次面接、後日最終面接をして、トントン拍子に決まりました。
「One Uzabase」でサービスを提供をし、顧客価値を高める
私は第2新卒として入社して、SPEEDAのサポートデスクに配属になったんですが、当時サポートデスクの担当者の退職が続いた時期で、入社後3〜4ヶ月目でいきなりリーダーのような立場になりました。
その後、2019年2月頃からカスタマーサクセスのチームを立ち上げることになって、同時に当時課題になっていた解約対応のチームを専任でつくろうということで、私に白羽の矢が立ちました。とにかく人がいない中で、宇佐美さんから「光岡、いけるんじゃない?」と言われて(苦笑)。そこから1年ほど、ひとり組織で解約対応をしていました。
2020年1月には、ユーザベースの全事業を集めてEnterprise(大企業)向け組織をつくろうということで、私もその立ち上げメンバーだったですが、同じタイミングでSPEEDAの解約率が大幅に上がってしまいもう一度SPEEDAの解約率にコミットすることになりました。全事業を集めたEnteprise組織の構想も時期尚早だったこともあり、とん挫してしまって。
同年6月からSPEEDAのカスタマーサクセスチーム全体をマネジメントし、2021年1月から改めてSPEEDA事業内でEnterprise Teamの立ち上げを始め、現在に至ります。
大きく3つあります。
ひとつ目が、SPEEDAのエンタープライズ領域の数字に責任を持つこと。
ふたつ目として、エンタープライズ企業を含め、より非連続にSPEEDAを使っていただける方を増やすための「SPEEDA Teams」という新しいプロダクトの開発に携わっています。
3つ目は、2023年1月にホールディングスのマーケティング部門に新設されたEnterprise Marketingチームのリーダーの兼務です。SaaS事業全体で連携してエンタープライズ企業に向き合っていくために新設した組織なんですが、ユーザベース入社後からずっとやりたいことだったのでワクワクしていますね。
SPEEDA Enterprise Teamのマネジメントに関しては、事業計画をつくる部分や組織の大方針は引き続き私が担当し、メンバーのマネジメントやチーム目標の推進は、ユニットリーダーであるロンちゃん(路 星/SPEEDA Enterprise Team Inside Sales Unitリーダー)や木部さん(木部 心紀/同Account Executive Unitリーダー)に移管しました。
いままでユーザベースは各事業を単体で強くする方針で、事業を明確に分離してそれぞれがPL(profit & loss:損益)責任を持っていました。これはいいこともたくさんあるんですが、各事業が強くなり向き合う顧客層が広がっていく中で、弊害もありました。
たとえば、各事業のセールスが同じ企業の同じ部門に、お互いのアプローチ状況を知らずにコンタクトしてしまったり。これは顧客体験もよくないですし、最悪の場合は社内で顧客の予算の取り合いにもなってしまう。あるべき姿とは言えません。
少なくともエンタープライズの領域においては、複数のサービスでより高い価値を届けることを前提に、顧客と中長期的な信頼関係を築いていくこと、結果として各事業のトップラインを非連続に伸ばすことや、そこに伴う企画をいろいろとやりたいと思っていて。
これまではそれをリードできる組織がなかったので、Enterprise Marketingの組織をつくった経緯があります。いまはまだ状況の整理とユーザベースとして、どうエンタープライズ領域を伸ばしていくか初期段階の検討をしているところで、今後はよりダイナミックな動きが出てくると思っています。
個人的にはSaaS事業に限らず、NewsPicksやAlphaDriveといった事業とも連携することで、顧客により高い価値を届けられると思っているので、ぜひ一緒にやりたい。ユーザベースグループ全体──One Uzabaseでチャレンジしていきたいですね。
課題はもうひとつあって、いま複数の事業についてつながりを持って話せる人材が限られているんです。複数事業での価値提供を前提に話ができる人を増やすにはどうしたらいいか、エンタープライズ担当として顧客に向き合える人をどう採用するか。ユーザベースとしてエンタープライズ領域を非連続に伸ばすことに軸足を置いて、提案の型化や人材育成、上流の施策を考えていきたいと思っています。
目標達成のためのステップを「みんなで」つくりあげられるリーダーでありたい
2020年6月から、SPEEDAの解約率をとにかく抑えなければというフェーズでマネジメントを担当し、緊急対応として導入後のオンボーディング、安定利用いただいている顧客の更新対応、定量的な利用ログから解約リスクが高いと想定される先への対応、とチームを3つくらいに分けたんですよ。それはいま振り返っても対策方法として正しかったと思っていて、実際半年ほどで改善の兆しも見えたんです。
ただ、そのときの360度フィードバックで、「緊急対応は見事だったけど、中長期的な顧客のサクセスに根ざして何がしたいか、光岡さんから方針が一切出てこない」「チームを細分化したことでメンバー間のつながりが失われモチベーションが沸きにくい」と言われてしまって……。
そこが自分でもリーダーとしての伸びしろだと思ったので、ビジョンを伝えることを意識するようになりました。そこからEnterprise Teamを立ち上げて2年ほど経ちますが、今度は「光岡さんの中に理想があるのはわかるけど、理解しきれない」と……。景色を正しく共有することの難しさを感じますね。
目指す理想像とその背景や意義を共有しながら、達成のための具体的なステップを「みんなで」つくり上げることができるリーダーでありたいと思っています。
2020年後半に限らずユーザベースの中でいろいろなチームのマネジメントに挑戦し、失敗もしてきました。強くて理想を描けるリーダーや、ものすごく頭の切れるリーダーを目指したこともありましたが、自分とは違うリーダー像であることを感じ、いまは自分にあったスタイルを探しています。リーダーは正解がなくて多様だなと。
Enterprise Team立ち上げ当初からいたメンバーは何も言わずともわかってくれるだろうという甘えもありますが、この2年でチームが大きくなって、メンバーが5人から12人に増えました。新しく入ったメンバーからすると、コンテキストの共有や前提知識がない状態だと、何を言っているかわからないだろうなと思うんですよ。
だから、メンバーとの1on1の中で方向性を提示して、「●●さんの景色からはどう見える?」「こういうことがしたいんだけど、どうすればできるかな?」といった感じで確認するようにしています。「リーダーたるもの明確なビジョンを持たねば」という強迫観念のようなものがあったんですが、メンバーから見るとそうじゃないほうが嬉しい場合もあるようなので、バランスが大事だなと思っています。
ユーザーの理想から始めて信頼し合う
「ユーザーの理想から始める」ですね。
前職でも現職でも、顧客起点に圧倒的なこだわりがあるんです。インターンとかキラキラした話ではないんですが、大学時代にオープンしたての個人経営のラーメン屋でバイトしていて、その当時から目の前のお客さんに喜んでもらえることが楽しいなと思っていました。ダイレクトフィードバックとか目の前の人が喜んでいる顔がめちゃくちゃ好きだったんです。
逆に顧客起点ではないことは基本的に嫌いですね。2019年にSPEEDAの解約対応をしていたとき、SPEEDAは契約終了日の3ヶ月前までに更新停止の連絡をしないと、自動更新される仕組みでした。事情があって利用を停止したいという連絡をいただいたとき、月に数件はこの期日を過ぎている顧客がいたんです。仕方ない部分もあると感じつつ、でもどうにかできないかな? と思っていました。
そこで、全契約先を対象に契約更新の4ヶ月前に確認連絡を入れたい、さらに更新停止の申出期限自体を、契約終了日の1ヶ月までに変更したいと提案したんです。
「全契約先に更新停止期限の連絡をしたら解約が増えるのではないか?」「1ヶ月前まで更新の可否がわからないと、事業計画が立てにくくなるのではないか?」といった不安の声も多くあったんですが、それは顧客志向ではないんじゃないかと言い続け、段階的に実験もしてみて、無事に変更できました。いまでは更新確定前に複数回の確認の連絡をすることや、活用の懸念がある場合には早い段階からサポートをすることが当たり前になっています。
保険業界にいたときに、地場の経営者に育ててもらったという気持ちが強くあって。「担当してくれてよかった」と言ってもらったり、辞めるときに送別会を開いてくれたり、いまだに連絡をくれて飲みに行く人もいます。
誠実に向き合ったことで信頼してもらって、それが続いている。そういう「信頼貯金」の原点に、「ユーザーの理想から始める」があるような気がしているんです。
こうした中長期的な信頼関係は社内外問わずに大切にしていて。社内には私よりも仕事のできる人や、エンタープライズに関する知見が深い人はたくさんいます。ただエンタープライズ企業に向き合って、複数の事業で連携するという複雑なことや、答えのない取組みをしようとしたときに、各事業の責任者が「光岡が言うならやるか」と動いてくれるのは「信頼貯金」が積み上がっているからなのかなと思っていますし、そういう意味では私が価値を発揮しやすいポジションにいるのかなと感じます。
私は自分のことを「自己認識としてあまり特別なことがない普通の人」と公言しているんですが、意識していることはふたつあります。
ひとつは発信すること。発信することで挑戦の機会とフィードバックを最大化して、より早く成長していけると思っています。ユーザベースに入社した当初は、何かを「発信すること」がアピールしているみたいで嫌いだったんです。誰かに認められなくても、自分のこだわりだからやっているんだ、という感覚があった。
でも、ユーザベースのカルチャーをより深く理解したり、自由な環境で働く責任について考えたり、より広い範囲で物事を進めていく機会が増える中で、いろいろな場で自分の考えを伝えることがものすごく大事だなと思うようになりました。リーダーという立場になって、ビジョンや目標を掲げ、それに対してたくさんフィードバックをもらうようになったことで、自分の成長スピードが上がったことを感じています。いまではもっと早く発信することを意識すればよかったと思っています。
ふたつ目は、当たり前のことを馬鹿にせずに本当に強度高くやるということ。誠実でいようとか、約束したことをやるとか、できる限り早く連絡を返すとか、誰しも「やったほうが良いよね」と思うことはたくさんあると思います。当たり前のことなんですが、ちょっと油断するとすぐにできなくなる。でもそれを「やりきる」覚悟は大事だと思っていて。自己認識が普通の人だからこそ、こういった細かい積み上げや細部へのこだわりは強く持っています。
ただこれは「約束したからには、何があっても徹夜してでも間に合わせろ」みたいなことでは全くないです。たとえば、「いま事情があってすぐには対応できなくなってしまったので、3日後には必ずお返しします」とか、自分の状況と約束をしっかりと伝えるコミュニケーションや誠実性は、「自由と責任の両立」として高いレベルでやっていこうと思っています。
信頼を積み重ねてより高い価値を届けたい
まずは、ユーザベースの中でエンタープライズ領域を徹底的につくり込んでいきたいと思っています。提案の型化やスキルの明確化をして、トッププレイヤーを育てられる環境を整え、中長期でエンタープライズ領域を伸ばしていきたいですね。
個人的なミッションとしては、自己認識が普通の人でも誠実に頑張って信頼を積み上げていくことがきちんと評価され、金銭的にも報われていく世界をつくりたいと思っています。
たとえば保険業界を例にすると、A社に誠実で素晴らしいセールスパーソンがいるとします。ただ保険業界のセールスパーソンは母数が巨大なので、顧客がその人に会えるかは運ですし、誠実な人は往々にして新規の営業が苦手な方が多く、業界からいなくなってしまうこともよくあります。
そこを、「特定の領域に詳しい」「誠実に対応してくれる」といった個人の属性を含め、物理的な距離なども加味して、個人単位でセールスパーソンを探せるサービスができたら面白いんじゃないかと。とにかく真面目に頑張っている人に仕事の機会が増えたり、顧客も誠実なセールスパーソンに出会って中長期的な関係を築けるようになったりすると良いなと思っています。特定のエリアで営業をしたい会社が、個人単位で親和性の高いセールスパーソンを探せるようなこともできると良いなと考えています。
いまは保険代理店時代に培った愛知県の地場の企業や会計事務所とのリレーションと、東京のスタートアップ界隈で過ごす中で、愛知県で事業を拡大したいSaaS企業とのリレーションの両方があるので、私自身がプロトタイプとして小さく実証実験ができるのではないかと考えています。
この実証実験がうまくいったら、愛知県で登録者を増やし、各ロケーションで同じサービスを立ち上げて、誠実に顧客に向き合っているセールスパーソンが、地方にいながらより活躍したり、金銭的にも報われたり、キャリアが拓けるような世界を実現したいですね。
ただ、信頼貯金をバネにして、より高い価値を届けるのは、まさにユーザベースでチャレンジできることだと思っているので、今はユーザベースでの仕事に集中しています。SPEEDAやMIMIR、FORCAS、INITIAL、NewsPicksといった各事業で築いてきた信頼をバネに、One Uzabaseで顧客に向き合い、より高い価値を届けること、1人ひとりがより豊かなキャリアをつくっていくことを両立し、個人的なミッションと紐づけてチャレンジしたいと思っています。
編集後記
Uzabase Journalでインタビューしたいメンバーはまだまだたくさんいるんですが、光岡さんはその1人。彼は普段は名古屋に住んでいるので、東京出張のタイミングでインタビューの時間を何とか確保してもらいました(ちなみに、しょっちゅう東京にいるので、最近まで名古屋在住と知りませんでした笑)。
エンタープライズ領域に並々ならぬ想いを持っている光岡さん。マーケティング領域のチームリーダーも兼務して大変そうだけど、きっと持ち前の誠実さで、ユーザーの理想から始める施策を打ち出してくれるんだろうなと期待しています!