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オープンコミュニケーションの構造を理解すれば、ビジネスに向き合いやすくなる──FORCAS事業執行役員 田口拓也

オープンコミュニケーションの構造を理解すれば、ビジネスに向き合いやすくなる──FORCAS事業執行役員 田口拓也

多様なメンバーがいるからこそ、それぞれの考えが異なることは当たり前。だからこそ、自分の考えや見えている景色を共有することが大切だと、ユーザベースは考えています。しかし、このオープンコミュニケーションのカルチャーに悩むメンバーは少なくありません。自身も「大いに悩んだ」というFORCAS事業執行役員の田口拓也は、どのようにオープンコミュニケーションの壁を乗り越えたのでしょうか。じっくりと話を聞きました。

田口 拓也

田口 拓也TAKUYA TAGUCHIFORCAS事業執行役員 カスタマーサクセス担当

1985年5月4日生まれ。東京都足立区北千住育ち。立教中学から立教大学まで進学し株式会社パソナに新卒で入社。約8年間は...

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目次

FORCAS CSチームの人柄と取り組みに惹かれてユーザベースへ

田口拓也のキャリアの変遷図
はじめに、ユーザベースに入社するまでのキャリアを教えてください。

2008年に新卒でパソナに入社し、人材派遣やBPOの法人営業をしていました。その後、2014年に営業責任者に就任し、2017年にはBtoBのデジタルマーケティング部門の立ち上げに携わることになりました。
 
デジタルマーケティング部門では、主にMAツール「Marketo」などを活用してメールマーケティングをしていて、その際データクレンジングをするために導入したのがFORCAS(現 スピーダ 顧客企業分析)だったんです。

FORCASとの出会いはユーザーとしてだったんですね。

そうですね。当時、FORCASのカスタマーサクセス(以下「CS」)は現SPEEDA Edge事業責任者の土屋翔さんと、瀬木(瀬木 桃子/FORCAS事業執行役員 CCO)のふたりでした。すごく熱意がある人たちで、困ったことがあればすぐ連絡をくれたりして。そういうところに惹かれていきましたね。
 
そうこうしているうちにパソナの社長が交代して、いろいろと方針転換がありました。基礎に戻って派遣事業をしっかり伸ばしていこうということで、僕が携わっていたマーケ領域を閉じることになったんです。「キャリアの分岐点が来たな」と思って、転職することを決めました。
 
パソナを退職してユーザベースに入社したのは2019年1月だったんですが、決め手はCSのメンバーの人柄と、当時のFORCASの取り組みに興味があったからですね。
 
一番思い出深いのが、「Chill Ebisu」というFORCAS1周年のイベントです。参加者が3チームに分かれて、恵比寿の街中でFORCASのTシャツを着てロゲイニング(Rogaining:ナビゲーションスポーツのひとつで、地図をもとに時間内にチェックポイントを回り、得点を集めるスポーツ)をしたんですよ。その会でFORCASのユーザーやCS以外のメンバーと知り合って、みんなで1周年を祝ったんですが、めちゃくちゃ感動した体験だったんです。
 
ほかにもツールベンダーはありますが、ユーザベースやFORCASだけは頭ひとつ飛び抜けていると感じて、「CSとしてこの会社に行きたいな」と思ったんです。それで、翔さんに転職を考えていることを相談し、リファラル採用で入社することになりました。

2019年に入社してからこれまで、ユーザベース内でどんなことをしてきたんですか?

入社してすぐはFORCASのCSでエンタープライズのお客様を担当していました。2020年になって、Strategic Partner Division(以下、SPD)へ異動。FORCASのCSに軸足を置きながら、SPDではSPEEDAやINITIALのメンバーと協働してCS業務にあたっていました。2021年にSPDを離れてからは、FORCASエンタープライズのフィールドセールスとインサイドセールス、CSのマネジメントを担当するようになりました。

経営サイドに移って、見える景色が180度変化

2021年には事業執行役員に就任して、CS全体を見ることになりました。領域が大きく広がったのではないかと思うんですが、見える景色は変わりましたか?

180度変化しました。これまでチームリーダーの経験はあったんですが、経営側で役員として見る景色は感覚がひっくり返ったような感覚です。
 
かつて自分自身がメンバーだったときには、「経営陣はなんでこうしてくれないんだろう」と思っていたようなことが、経営サイドに立つと、「課題は見えているけれども、いまは手が出せない」みたいな状況がたくさんあるんですよね
 
メンバーをもっと良い方向に導いてあげたいのに、意思決定がこんなにも難しいんだなと思い知ったし、自分の無力さを感じました。あらためて、諸先輩方は本当にすごいなと率直に思います。

ここまでずっと足元を見て進んできましたが、最近この1年を振り返ってみて、月並みですけど「経営は難しい」と思います。

FORCAS事業執行役員 カスタマーサクセス担当 田口拓也

オープンコミュニケーションに悩み、号泣し、整理してたどりついたもの

田口さんがこれまで仕事をしてきた中で、忘れられないエピソードを教えてください。

ユーザベースのカルチャーである「オープンコミュニケーション」が難しいと感じる人は多いんですが、僕も大いに悩みました。なぜオープンにしなければいけないのか、ストレートなコミュニケーションで相手を傷つけてしまわないだろうかと。

オープンコミュニケーションをする中で、「コト向き」「ヒト向き」「自己開示」「自立自走」といった要素があって、これらがいろんな角度から差し込まれることで混乱が起こるんですよ。
 
なので僕は、オープンコミュニケーションの構造を整理することにしました。その結果、僕はオープンコミュニケーションの構成要素として「自己認知・自己理解→言語化」「自己開示」「他者理解」の3つがあると考えています。

オープンコミュニケーションとは

田口がTHM(ユーザベースグループの全社会)で話した際のスライドより

まず自分はどういう人間であるか自己認知をして、どんな考え方を持っているか言語化し、それを周りにフラットに自己開示すること。

自己開示がなぜ必要かというと、ユーザベースは中途採用のメンバーが集まる会社で、いろんなバックグラウンドの人間がいるからです。タイプが異なるメンバーが集まる中で、自分がどんな人間かオープンにすることで不信感を取り除けると思うんです。
 
僕の場合、これまで自分のことを振り返る機会は少なく、自分がどんな人間なのか言語化できていませんでした。そこにフラストレーションが溜まることが多かった。なので、自分がどんな人間か、どんな強み・弱みがあるかを言語化してオープンにすることが最初のステップだと思っています。
 
自己開示をしたら、他者からのフィードバックに素直に耳を傾けること。「僕はこんな人間です」と自己開示しても、他者からのフィードバックを聞き入れなければ、コミュニケーション上の衝突が減らないと思うんです。健全なコンフリクトならいいんですけどね。
 
フィードバックを素直に受け取ること、そのフィードバックに不満があったり、相手と考え方が違うと感じたら、しっかりと周りにその景色を言語化して開示する。3つの構成要素があることを理解したうえで、仕事に対して当事者同士が向き合って話すことが最も大事だと思っています。

田口さんは実際に、どんなケースでオープンコミュニケーションに悩まれたんでしょうか。エピソードを聞かせてください。

FORCAS事業CEOの田口槙吾(以下「田口(槙)」)さんと、うまくコミュニケーションできなかったんです。田口(槙)さんが求めるものと僕の話が、心理的安全性のないまま交わされていて……。
 
それをスムーズにしてくれたのが、元FORCAS役員の今村さん(今村 和弘/現在は業務委託でSales Enablementを担当)でした。今村さんは「田口さんのやり方に任せるから、何かあったら言ってね」と言って、僕のやり方を尊重してくれて。そこで心理的安全性が担保され、コミュニケーションの土台ができたんです。
 
なぜ田口(槙)さんとのコミュニケーションがうまくいかなかったのかというと、僕の言語化の仕方や、田口(槙)さんからの自己開示など、お互いにいろいろな要素が足りていなかったんだと思うんです。
 
たとえば、田口(槙)さんの言うことに違和感があっても、なんとなく忖度してしまったり。一方で、田口(槙)さんからもらったフィードバックを素直に受け取れなかったり。それをうまく言語化できなくてイライラしていました。
 
オープンコミュニケーションの構成要素を整理・理解した後、田口(槙)さんと1年間、毎週必ず30分1on1をしました。それだけ話せば仲良くなるし、信頼するんですよ。時間をかけることで、それぞれが自己開示できるようになって距離が縮まるし、相手の捉え方も変わってくると思います。もちろん今は、田口(槙)さんとは背中を預け合って働ける仲です。

FORCAS事業執行役員 カスタマーサクセス担当 田口拓也
今村さんは、なぜ田口さんをそこまで信じて任せてくれたんだと思いますか?

能力が足りているかどうかは置いておいて、お客様のために一生懸命取り組む姿勢は買ってもらっていたんだと思います。あとは、たとえばslackの返信を丁寧に書くといった、今村さんと約束したアクションルールを徹底するなど、小さな積み重ねで信用貯金を積んでいったからじゃないかな。
 
当時今村さんはそこまで自己開示をしてくれていたわけではなかったんですが、僕の話を聞いて共感してくれるところに心理的安全性を感じていました。田口(槙)さんとうまくいかないなと思って3〜4ヶ月経った頃、今村さんに話を聞いてもらいながら、号泣したことがあったんですよ。
 
あのとき、なぜ誰にも話せなかったことを今村さんに話せたのか振り返ってみると、今村さんが何か示唆するわけでもなく、すべてを取っ払ったうえで話を聞いてくれたことが大きかったと思うんですよね。
 
「田口さんが困ってるの見えてるから、飲みに行こうよ」と誘われて、そこで「めちゃくちゃ予防線張ってしゃべってるよね」と言われて……。「ここだけの話だから」と何度も言われて、こちらの話を引き出してもらったことを覚えています。
 
その後、2020年にSPEEDAやINITIALのCSチームと一緒に仕事をしたことで、自信を取り戻せました。仕事をするうえで、自分の関係者ではない人とコミュニケーションを広げられたのがよかったのかなと思います。
 
宇佐美さん(宇佐美 信乃/元SPEEDA執行役員)や翔陽さん(西川 翔陽/SPEEDA事業執行役員 CCO)と一緒に同じお客様を支援をしたときに、「田口さん、めちゃくちゃ顧客志向ですね」と言われて、涙が出そうなくらい嬉しかったんですよ。体に入っていた力がふっと緩んだ感じがしました。事業部やチームをまたいだクロスの関係で話したことがきっかけで、重たいドアが開いたような感覚でした。

自己開示には勇気がいると思うんですが、どうしたらその勇気が出せるんでしょう。若手がオープンコミュニケーションに戸惑っていたら、どうアドバイスをしたらいいと思いますか?

どんな状態になったら勇気が発揮できるか、勇気の発動条件を揃えればいいと思います。
 
たとえば、何を話すか「オチ」まで完ぺきに準備することで勇気が出る人もいると思うし、お酒を飲んで柔らかくなったときに冗談めいて話したい人もいる。自分の仕事に自信を持てれば勇気につながる人もいるかもしれません。
 
そんなふうに、まず自己理解して言語化することが第1ステップだと思います。
 
あとは、自分にとって相手が合う・合わないではなくて、「相手のこの部分は合わないけど、この部分は合う」と捉えると勇気が出しやすいのではないかと思いますね。誰しも「コトに向かう」と「人に向かう」の両面を持っていて、その人の中でどっちの比重が思いか、どっちの性格が外に出やすいかというだけだと思うんです。
 
田口(槙)さんはコト向きが強い人と言われますが(笑)、ルールが決まっているんですよね。僕は相談するときに「共感してほしい」が90%なんですが、田口(槙)さんは「解決したい」の気持ちが90%なんです。
 
何の示し合わせもなしに2人が100回しゃべったら、そのうち90回はそれぞれ「共感してほしい」「解決したい」と思って話すので、交わらない。なので「相談」ではなく、たとえば「壁打ちがしたい」と依頼するなど、ルールを決めておくことが大事だなと思いますね。

FORCAS事業執行役員 カスタマーサクセス担当 田口拓也

「スピードで驚かす」と「ユーザーの理想から始める」で信頼貯金を積み重ねる

田口さんの一番好きなバリューは何ですか?

一番好きな、と言われてふたつ挙げるんですが(笑)、「スピードで驚かす」と「ユーザーの理想から始める」ですね。このふたつはセットだと思っています。
 
僕が転職したとき「FORCASに行きたいな」と思ったのはなぜだったのか掘り下げると、まさにこのふたつが理由になっているんですよね。スピーディーに反応が返ってくるだけで、自分のほうを向いてくれているんだなと思える。信頼貯金の積み重ねですね。
 
スピードで驚かすときに、同時にユーザーがどう思っているか、ユーザーの理想を追求する。こうしたカルチャーは大事にしたいと思っています。
 
現SPEEDA Enterprise Teamリーダーの光岡さん(光岡 亮介)も、Uzabase Journalのインタビューで「信頼貯金の積み重ね」という話をしていますが、「ユーザーの理想から始める」を本当に徹底していますね。負けていられないなと思います。

The 7 Values:スピードで驚かすThe 7 Values:ユーザーの理想から始める

スケールに必要な組織体制を築いて、メンバーに投資する

最後に田口さんの今後のビジョンや挑戦したいことを教えてください。

最近は僕の開示の仕方が悪いのか、言葉の選び方が悪いのか、前よりも自己を開示しているつもりが、うまく心理的安全性を築けていない感覚があるんですよ。
 
それはたぶん、組織が「メンバー」「リーダー」「僕」の3階層になっているからだと思うんです。メンバーと話すとき、僕の中でリーダーの立場や考え方を尊重したり、リーダーの景色をイメージしながら話をすると、メンバーに対して僕自身のことをストレートに開示していないことになる。
 
そうしたちょっとしたズレが、メンバーから見たら「ブレ」に見えているのかもしれません。階層を挟んだマネジメントやリーダーシップは難しいし、自分の伸びしろだと思いますね。

この「3階層の組織」でカスタマーサクセスをどうやるか、もう一度ちゃんと向き合いたいと思っています。
 
現在の体制だと、1社に対しひとりのメンバーが30〜40社を担当しながら、時にはオンボーディングを担当しています。この状態だと、今後顧客が増えたときに対応が難しくなります。メンバーがひとり抜けたときのリスクも大きいんですね。
 
今後スケールしていくうえで、必要な組織体制を敷いていくこと。これが今、最優先で取り組まなければいけないことだと思っています。
 
そのうえで僕自身の挑戦は、メンバーやリーダーを信頼して任せることですね。僕の中で、トラブルが起こったらトップが率先して動くことこそ「美学」という考えがあってやってきたんですが、キャパシティが限界に近づいていて。
 
自分が対応してしまうことが、誰かの成長機会を奪うことにもなりかねません。せっかく組織体制が整ったのに自分が現場の仕事を率先してやってしまったら、いまと何も変わらない。今村さんのように、メンバーに投資する気持ちを持ってフォローに回らなければと思っています。
 
メンバーに任せることで生まれた時間を未来に当てようと思う一方で、自分が現場に入ることにどこかワクワクする気持ちもあるんです。ただそれだとスケールのスピードは上がらない。そこはトレードオフだと思っているので、バランスを大切にしたいですね。
 
これまで馬力で解決してきた部分に向き合って、自分なりに整理して向き合っていきたいと思います。

FORCAS事業執行役員 カスタマーサクセス担当 田口拓也

編集後記

THM(Town Hall Meeting/ユーザベースの全社会)でPさん(田口のニックネーム ※)が、本文にあるオープンコミュニケーションについて発表してくれたとき、この話をぜひ社外の方にも知ってほしい! と思い、即インタビューのオファーをしました。社外だけでなく、社内の、特に入社したばかりでオープンコミュニケーションに悩んでいるメンバーにも読んでほしい。そんな想いで制作した今回のインタビューは、現事業CEOとぶつかった話など、かなり生々しいエピソードも盛り込んでいます。

ユーザベースでは360度フィードバックを採り入れているんですが、ときには周囲からのフィードバックに「うっ……」となることも。そんなとき、いつもPさんが話してくれた「他者からのフィードバックに素直に耳を傾ける」を思い出しています。

※FORCAS事業CEOの田口槙吾と名字が同じなので、前職パソナの頭文字を取って名付けられました(笑)

執筆:宮原 智子 / 撮影:落合 直哉 / デザイン:片山 亜弥 / 編集:筒井 智子
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