ユーザベース初の海外拠点として始動した上海オフィスの10年間
ユーザベース初の海外拠点として、ユーザベース上海オフィスが設立されたのが2013年です。当時からユーザベースの中国事業としての登記簿登録がされていて、2015年にはアナリストの拠点として本格的に始動しました。
金融業界や、プロファームだけでなく事業会社にも可能性があるのではないか、日系企業のほうが営業しやすいのではないかということで、2019年には戦略的に香港から上海に拠点を移転し、2020年1月に東アジアのヘッドクォーター「SPEEDA China」として展開し始めました。
現在の上海オフィスの管轄は、中国、台湾、韓国と、アメリカの一部。それ以外をSPEEDA SEA(South East Asia)が担当しています。
アメリカは本来SPEEDA Edgeの管轄ですが、たとえば、ヘッドクォーターがニューヨークにあって、契約はUSでしているものの、実際に使用するユーザーは香港ブランチ(支社)にいる、というケースがあります。USを一部管轄しているのはそういう事情です。
「事業にスピード感を」SPEEDA China立ち上げ
私は2017年にSPEEDA Asiaの担当として入社して、ユーザベース香港オフィスにいました。SPEEDA Asiaのもうひとつの拠点であるシンガポールの拠点に現SPEEDA SEAの内藤さん(内藤 靖統/SPEEDA事業執行役員 SPEEDA South East Asia CEO)がいて、そこからプロダクトを含めたマネジメントをしていたんですが、シンガポールと香港とでは距離があるために意思決定が遅れがちで、実態が合わなくなってきていたんです。
「現地のことは現地の人が腰を据えてやったほうがいいんじゃないか?」と思って、SPEEDA Chinaの立ち上げを提案し、いまに至るという経緯ですね。
立ち上がったばかりのSPEEDA Chinaはコワーキングスペースのようなところを借りていて、メンバーも10名と少なかったんです。それがいまは38名までに増えました。
内訳としては、約半数の12名くらいがアナリストですね。残りがコンサルタント、ビジネスサイド担当、カスタマーサクセス(以下「CS」)、マーケティング&インサイドセールス、フィールドセールスのメンバーです。
2023年7月からはフィールドセールスチームが、日本法人の中国支社を担当するジャパンアカウントチームと、それ以外──中国の現地法人を担当するセールスチームに分かれます。そこに新たにグローバルアカウントチームが加わる予定です。グローバルのクライアントを獲得するための体制を整えているところですね。
ターゲットユーザーを絞り、ローカルファーストに転換
日本企業の中国支社といった日系のクライアントが90%くらいですね。立ち上げ当時は欧米系の企業も多かったんですが、2020年に僕がCEOに就任したタイミングで、戦略的に日系企業にシフトする意思決定をしたんです。
それまでは「取れる契約は全部取りましょう」という感じで、日系も非日系もすべてターゲットにしていました。プロダクトも「すべてのユーザーに合わせてユニバーサルなものにしましょう」だったんです。
でもそうすると、マネジメントもセールスもコストがかかる。すべてのユーザーのためのプロダクトにしようとするとリソース配分が難しく、キャッシュも入りません。既存機能をメンテナンスをするにも3言語すべてに対応しなきゃいけないんです。
そこで日系企業に注力することを決めて、プロダクトをローカライズして「思必达(スピーダ)」という中国名であらためてリリースしました。
そもそも何をカバレッジとしてカウントするかにもよるんですが、第一段階として僕らのターゲットの60%以上がいまSPEEDAを使っていて、認知もされています。第二段階として、必要なID数が入っているか。SPEEDAを導入している60%の企業の中でも、ID数に関してはまだまだ目標を達成できていないと感じています。
当初の1〜2年は、日本人や日本語ができる中国人をターゲットユーザーとして考えていました。現在のターゲットはローカル人材、つまり中国人です。日系企業に勤めるローカル人材に「思必达(SPEEDA)を使いたい」と思っていただき、いま契約いただいているIDの数を増やしたいんです。
なので、現状は「面積は取れているけど体積として取れていない」という状況ですね。使っていただく部署を広げなければと思っています。
日本では、たとえばパナソニックならパナソニック・ジャパン1社なんですが、中国の場合はパナソニック・北京、パナソニック・上海がある。香港ブランチもまた別です。そうしたグループ単位で取りにいきたいという感じですね。
初ユーザー会でプレゼンする安齋
そうですね。あと営業も中国語ができないといけないんですよね。「思必达」は中国語画面をつくったんですが、それもローカル人材を優先したUI/UXにしようと思ったからです。ローカルファーストですね。CSに限らず、日系企業に営業する際はローカル人材に受け入れてもらうことが必要ですし、そこがいまのチャレンジですね。
日中英の3言語でプロダクト、CSを展開。成長分野を網羅し、ローカルに受け入れられる
「思必达」の良さは、一つの端末でインサイドチャイナとアウトサイドチャイナが両方見られるところだと思います。相互を比較しながら立体的にわかるのがうちのプロダクトの強みですね。
たとえば自動車市場でいうとBYDという中国系企業がありますが、自動車市場のような大きなマーケットでは必ず外資企業と戦うことになります。BYDもグローバル展開していますが、国内だけでなくテスラなどアメリカ企業や、トヨタをはじめとする日系企業の企業情報は必須になるわけです。
日系企業に勤めている方だったら、なおさら海外企業の分析の必要性は大きいですよね。現地で働くローカル人材が知らない情報はむしろアウトサイドチャイナにある。それをまず中国語で入手できるのがいいところだし、その情報と中国の情報(インサイドチャイナ)をまとめて知ることができるのも大きいですよね。
思必达は中国語・英語・日本語の3言語で展開
もうひとつ、3言語で展開している点も日系企業にめちゃくちゃ評価されています。たとえばローカルメンバーである中国人が資料をつくった場合、日本人の上長にレポートしないといけないので日本語が必要なんですよ。
日本人も中国の情報を本社に送るとき、日本語で送ります。だから、ユーザーインターフェースは中国語だけど日本語もあれば助かる、という人は多い。なので、カスタマーサポートもプロダクトも3言語で展開しています。
「思必达」はカスタマーサポートも充実しています。質問を投げれば30分以内に答えが返ってくる。それも3原語対応です。
日本のSPEEDAと比べても、カスタマーサポートはかなり手厚いと思います。契約時にコンサルティングリサーチといって、日本でいうMIMIRのようなサービスを提供しているんですよ。
サポート体制としては、コンサルティングチームが6名くらい、カスタマーサポートチームとあわせて10名で対応しています。クライアントから「こんなレポートをつくってほしい」と相談があったら、コンサルチームとカスタマーサポートチームが一緒に動いてレポーティングしています。
いくつかポイントがあります。
ひとつ目は、マクロの環境としてそもそも日系企業があまり元気がないこと。
ふたつ目は、「思必达」がジェネラルな情報に特化しているのに対して、現地が欲しがっているのはピンポイントでニッチな情報である点。「思必达」のような情報を欲しがるのは、どちらかというと日本の国際事業部や中国事業部なんです。
3つ目は、そもそも中国は労働力が余っているので、あまりリサーチはせず人海戦術で動いている点ですね。日本は労働力が少ないから、働き方改革の一環でSaaSを導入してリサーチをしているんですが、中国ではまだSalesforceですら入りきっていない現状があります。
とはいえ、ある意味わかりやすさもあって。中国では政府がこれから注力する分野を宣言するんです。僕らはこの政府が宣言した分野を「タブ」にして、細分化してレポート化してるんですよ。
日本のSPEEDAは業界分類を560に細分化していますが、僕らは中国政府が宣言した7分野を大項目にして、その上位概念に付随する分野を細かく分けています。たとえば、大項目がカーボンニュートラルだったら、そこに風力とか電力などが付随するイメージですね。
中国はこんなふうに政府が注力分野を決めるので、その動きをキャッチアップすることが大事なんです。楽天やアリババがどう動くかといった個社戦略よりも、中国全体がインターネットコマースをどうしたいか? という大きな動きを知ることが大事ですね。
今後はEVやDX、メディカルといった中国が宣言した「伸びる」分野をより細かく分析できるような機能を追加していく予定です。
メンバーの士気を高めてマーケットの横展開を実現したい
大きくふたつあります。ひとつ目は、欧米企業のお客様を増やすこと。「ローカルの人は当然中国のことをよくわかっている」という前提に立ったとき、日系企業と同じ悩みを抱えているのは欧米企業だと思うんですよね。だから今後は欧米企業のシェアを取りにいこうと決めています。
ふたつ目は、日系企業のローカルアカウントを増やしていくこと。アップセル、クロスセルを考えて、ローカルの日系企業のアカウントを増やしていきたいですね。
今後の戦略を描く中では、中国市場を6つのセグメントに分けています。ターゲットとしてはそのうちのジャパン・プロファームとジャパン・ビズ(事業会社)、ノンジャパンであるEU・US、事業会社です。
四半期キックオフの様子
もうひとつ戦略として考えているのは、プロダクトの価格を上げていくことです。これまで2回値上げをしてきましたが、それでもある程度売れているということは、プロダクトをアップデートしていくことを受け入れていただいているということだと思うんです。いまは利益率と売上の両方を改善している最中ですね。
これらを達成するために、日系事業を託せる人を創出することが必要です。日系企業以外の非日系の部分をいかに伸ばせるかは、日系企業を安定的に深掘りし、いかにマーケットを横に広げられるかにかかっています。
日系企業については解像度も高いし、目標を達成できそうなんですが、問題は非日系企業。いかにリスクを取って投資しPDCAを回せるかが、今後の中国事業の大事なポイントになります。勝ち筋を見つけるためにも、私が非日系企業に注力できる体制を整えたいですね。
そうですね。ただ、「伸びしろしかない」というのは、裏を返せば高い目標を掲げているということでもあります。
メンバー全員でその目標の達成に向けて全力で走るためにも、心理的安全性をつくるのは僕の務めだと思っています。必死に情報を集めて過敏に動き、あらゆる人脈をつくる。正確な情報を誰よりも早くみんなにシェアするようにしています。
もうひとつ、SPEEDA Chinaは2年前に一度、給料を15%上げています。日本に負けないようにもっと給料を上げていこうとみんなで宣言していますし、事業役員をつくって、みんなが幸福になる土台をつくれたらと思っています。
中国事業は上海オフィス以外にもたくさんの人に支えられて成り立っています。さらに支援してくださる、応援し続けてくださるお客様のおかげで今がある。すべてのステークホルダーへの感謝を忘れず、でもこれまでの歴史に臆することなく、今と未来だけを見て突っ走っていきたいと考えているんです。
中国事業は僕にとって、高校時代・新卒時代に続く3度目の青春なんですよ。カオスだし、喜怒哀楽の感情が動きまくるし、目の前のことを1つひとつ乗り越えるのに精一杯。でも、後で振り返ったとき、きっと二度と味わえない貴重な時間を過ごしているんだと日々感じています。
シェアオフィスの共同スペースで達成会!
編集後記
安齋さんへのインタビューは、実は今回が2回目。1回目は2019年、私が上海出張に行った際にインタビューしたんですが、諸事情がありお蔵入りに……。今回ようやくリベンジを果たせて嬉しいです!
SPEEDA CHINAについては何度か記事化していますが、記事にするたびにどんどん進化しており、これからの展開もめちゃくちゃ楽しみです!(そしてまた出張に行きたいです笑)