「ゼロベース」で思考するため外部との壁打ちを提案
浅子 信太郎氏(以下「浅子」):
前提として、私が社外取締役としてユーザベースに携わる中で、経営面で掲げていたさまざまな目標と実績が少しずつ乖離し始めている現状がありました。
ですが、上場会社では掲げている目標を刷新することはとても難しい。少しずつ軌道修正したり、事業を行いながら継続性を持ったストーリーにしていかなければいけないんです。
ただ、少しずつ軌道修正するストーリーを構築しようとすると、どうしてもドラスティックに考えられない。だから、私が稲垣さん、佐久間さんと1on1をする中で、「ストーリーを持って伝えなければならないという命題は一旦忘れて、ゼロベースで新しく目標を掲げるとしたら、どうしたいですか?」といった話をしていました。
ゼロベースで物事を考えるうえでは、私のような社外取締役の人間と壁打ちするのもいいんですが、たとえばプライベートエクイティファンドに知り合いがいるのであれば、そういう方々と対話をしてみたらどうかと提案しました。
2022年の年明け頃に行った1on1でそんな話をして、佐久間さんから「カーライルさんとご一緒したいと思います」と話があったのはその数ヶ月後でしたね。
浅子:
発想転換のキッカケになるのではないかと思ったからです。
梅田さん(梅田 優祐/ユーザベース共同創業者)が2020年末に退任されることになり、稲垣さんと佐久間さんのCo-CEO体制になってから決算説明会や長期戦略説明会まで、ほとんど時間がなかった。その短い時間の中で今後の方針を決めて伝えはしたんですが、中には深く考え切れていないものもありました。
それで1年ほど走っていくうちに、決算説明会で発表したことと現状の時間軸がずれてきてしまったんです。
だんだんと業績も厳しくなり株価も落ちてしまって、社外取を含めた取締役メンバーのあいだにも厳しい状況が伝わってきた。そこで、発想を転換して新しい「あるべき姿」を描くために、ファンドの方と話してはどうかと提案をしたという経緯です。
小倉 淳平氏(以下「小倉」):
私のところへは、「ユーザベースってどんな会社に見えますか?」と太田さん(太田 智之/執行役員SaaS事業COO)からお電話があったのが最初ですね。ユーザベースの決算短信や直近のレポート、株価などを見て、太田さんにストレートな意見を申し上げました。その後、佐久間さんを含めて話をしたのが2022年3月頃でした。
ユーザベースからお話を受けた当初は、壁打ちだけだと思っていたんです。でも、株価の話もあれば事業戦略の話もありました。組織面でも、「人」が大切な事業をしている中で、株式インセンティブで優秀な人を惹きつけていくのは難しいシチュエーションでもあると感じたんです。
そうなると、経営や戦略、株価、組織をゼロベースで議論・実行できる仕組みとして、カーライルがお役に立てるのではないかと思いました。
多様なメンバーで新取締役会を構成、各専門家が経営をドライブ
小倉:
Board3.0については、まずBoard1.0が何を指すかから考えるとわかりやすいと思います。
Board1.0は同族会社のような状態で、ステークホルダーの幅もそこまで広くありません。たとえば取引先の銀行や、もともと関わっていた人が取締役でいるような、閉じた世界です。
そこにステークホルダーが増え客観的なガバナンスを担保する必要になった状態をBoard2.0と言います。
この場合、弁護士や会計士、大学教授など、利害関係のない人が社外取締役に就くことが多いですね。
その次のステージとして、経営陣のやりたいことや事業を成長させるための戦略を議論するために、株主はもちろん、類似の事業の経営経験を持った人、浅子さんのように事業会社でCFOをされていたような方など、多様性に富んだメンバーが参画する取締役会をBoard3.0といいます。
その中でカーライルのようなファンドは、そうした「経営のプロ」をボードメンバーに引き入れるためのコーディネート役を担っています。
ひと口に経営のプロといってもいろんなレイヤーのプロがいる。事業における課題やフェーズに適したプロをカーライルのネットワークからご紹介したり、そういう方に来てもらいやすい環境を構築、もしくは社内で育成しています。
浅子:
Board3.0における私たち社外取締役は、たとえば、どういった要素があればこの事業は勝てるのか、どのような経営陣や人材がいれば成功が勝ち取れるのか、この会社は適切な執行がなされているのかといった適性の見極めを行っています。
そうした要素は外部環境でも変わってくるので、変わったときに経営陣はそのままでよいのか。あとは、全員の向かっている方向が一致しているかどうか、取締役会ですり合わせをしています。
こうした社外取締役の会で受けたフィードバックを、議長として佐久間さんや稲垣さんに1on1でお伝えします。細かな指示を出すというより、Co-CEO自身が正しい方向に歩んで行くのを導いてあげること、うまくいかなければまた違う意思決定を支援するのが一番のガバナンスになるのではないかと思います。
あとは、私が議長になってから取締役会の実効性評価を強化しました。それぞれの取締役のパフォーマンスをどう思っているかも含めてアンケートを実施し、取締役全員で議論することにしたんです。
なぜなら、事業の内容が変わっていくと議論の中身も変わっていくわけですから、必要とされる専門性も変化します。その都度、取締役会をどんなメンバーで構成するか、どんな議論をするか。その軸がなければ、どんなにいい人を集めても取締役会は機能しません。
そうした意識を持って取締役会の実効性が担保できたからこそ、いろいろなオプションが生まれてきたのではないかと思っています。
小倉:
現状のフェーズとしては、ボードメンバーとしてのかかわり方が主ですね。そのほか、いくつかの役員会にオブザーバーとして出席して、どんなことが話し合われていて、どういう議論の末にボードに上がってくるのかを、いわばキャッチアップしている最中です。
あとは、稲垣さんや佐久間さんと1on1をしたり、アドホック的に太田さんや千葉さん(千葉 大輔/ユーザベース執行役員CFO)、松井さん(松井 しのぶ/ユーザベース執行役員CHRO)に状況の確認をしています。
今後もそうした動きがドラスティックに変わることはないでしょう。なぜなら中期経営計画の議論の中で、具体的なアクションについての調整が取れているからです。
それが達成できなくなったときに、外部環境の変化なのか、マネジメントがうまくいかなかったのか、当初の想定と何が違うのかをボードで議論していく。そうした透明性を大事にしています。
浅子:
唯一変わったところがあるとしたら、取締役会のメンバーではないでしょうか。前の取締役会には、多様なバックグラウンドを持った方がいたからこそ、すべての人が同じ方向を向いているわけではなかった。いろいろな意見が出る中で、意思決定のためのコンセンサスを取るためにそれなりに時間がかかっていたんです。
今は社外取締役の人数が減ったこともあり、私の意見とカーライルの意見、執行サイドの意見がズレていたとしても、アラインメントする時間は少なく済んでいます。
アメリカでは取締役会でボードメンバーの人数がある程度まで増えてくると、戦略やM&Aの案件、ガバナンスの案件、報酬などの案件を専門にする分科会をつくって、議論を進めていくスタイルを取ります。その分科会で議論した結果を取締役会に報告し、ボードメンバーの議論や意思決定を支えます。
ユーザベースでも同様のスタイルで、適性のある人たちがそれぞれの得意分野で専門性を発揮できる形にしています。
小倉:
ボードメンバーに多様性は必要だと思いますね。議論に時間がかかったとしても、しっかりとした多様性を担保しなければと。
一般的にカーライルの投資先でも、10年前はボードにダイバーシティはなかったんです。でもそれだと多様な視点を取り入れられないので、試行錯誤をして多様な取締役会に進化させてきました。今は、自分たちを牽制するものがないので、カーライル以外にもしっかりと社外取締役に入っていただくことを重要視しています。
浅子:
社外取締役になる人の最大のポイントとして、会社に対する愛があるかどうかがポイントですね。
たとえば、ある会社がよくない意思決定をしたときに社外取締役でいた人には、個人的によくないイメージがついてしまう。だから肩書きがあっても会社に愛がない人だと、自分を守る意思決定をしがちなんですよね。
ただ、ユーザベースは前取締役も含め、会社に対する愛がある人が多い。ユーザベースにとってのベストは? という基準で意思決定ができているので、参加していてすごく心地よくて楽しいんです。
再上場に向け、山の頂にある事業を磨き込む
浅子:
再上場に向けては、中期経営計画をつくって、これからまさに山を登っていくところです。
再上場まで時間がないためにコーポレートサイドが大変という見方もあるでしょうが、ユーザベースは一度上場していて、これまでちゃんと開示もしてきています。そういう意味では、いま描いている山の頂にある状況をイメージして、事業を磨き込んで、この時間軸でしっかりつくり込むことが大切だと思いますね。
小倉:
おっしゃる通りですね。プロセスは見えていて、登山計画もある。あとは登るスピードです。目標に到達するまではいろいろなことが起こると思うんですね。でも、事業が追いついていないのに再上場するのだとしたら、何のために非公開化したのかわからないですよね。中期経営計画から半年遅れたなら上場は半年遅らせる。逆に早められそうなら早める意思決定をすることが大切です。
プロダクトを通じ日本のグローバル化を推進することこそユーザベースのサステナブルな成長
浅子:
ユーザベースはNewsPicksというメディア事業を持っています。ですから、世の中に対して「サステナビリティの大切さ」を伝えることができるインパクトがある会社だと思います。そういった意味で、メディアを通して発信するだけではなく、他社のロールモデルにもなりうる会社なんじゃないかと思いますね。
小倉:
NewsPicksもそうですし、SaaSのプロダクト自体も「お客様が永続的に経営していくために必要な情報」を提供していますよね。
そういう誇りを持って日本社会のグローバル化を含めた「経営」を推し進めることが、ユーザベースのサステナブルな成長につながるのではないかと思います。
編集後記
本記事は、2023年8月1日に公開したユーザベースのサステナビリティレポートに掲載した社外取締役対談のインタビューを担当した際、文字数の関係で載せきれなかった内容をUzabase Journalに載せたい! とお願いして掲載させていただいたものです。小倉さん・浅子さん、お忙しいなか何度も原稿確認などご協力いただき、ありがとうございました。
グループ全体のサステナビリティレポートにも掲載するインタビューということで、今回の取材はめちゃくちゃ緊張しました。再上場に向けた進捗は社内に共有されているものの、社外取締役のおふたりから見たユーザベースってどうなんだろう? そんな疑問から、いろいろとお話を聞かせていただきました。
そんな私たちの「今」が詰まったサステナビリティレポート本編も、ぜひご覧ください!