単なるマッチングに終わらず「協業事業開発」に伴走支援するビジネスモデルにシフト
土成 実穂(以下「土成」):
think beyondで準グランプリを獲ったのが2021年の夏で、会社を立ち上げたのは2022年1月でした。半年間は設立準備に充てていましたね。
土井 雄介(以下「土井」):
僕は当時メンターとして関わっていて、社名やビジョンをどうするか、ブランドDNAをどうつくるか、僕と土成さんと渡邉さん(渡邉 由佳/UNIDGE 執行役員・共同創業者)の3人で議論するのと並行して、営業活動もしていました。
土成:
あとはお客様とPoC(Proof of Concept:概念実証)をする期間でもありました。PoCの結果、お客様には一定満足していただけて、続けていきたいと言ってくださったんですが、私たちは何か足りないと思っていて。それで現在の原型となるマッチング+事業化支援のモデルをつくったんです。
土井:
PoCを通じて、サービス内容の解像度がものすごく上がりましたね。
立ち上げ当初はプロダクトをつくり、データベースを使っていろいろなことをしていこうという構想でした。でも、大企業のオープンイノベーションを加速する手段として協業を支援していくなかで、単にマッチングで終わらない協業事業開発に取り組む必要があると考えるようになったんです。
土井:
UNIDGEのやっていることは「マッチングサービス」ではなくて「協業事業開発」。オープンイノベーションを生み出すための仕組み構築からマッチング、その先の伴走支援までを含めた一気通貫の支援サービスです。
たとえば、大企業における協業事業開発をするための仕組みづくりでは、新規事業を生み出すための投資決定の判断基準や、新規事業開発のプロセス、事業案への投資を誰がどんな権限で下すのか、といった制度設計をするところから入り込んでいきます。
土井:
僕らはユーザベースとAlphaDriveがM&Aをした後の、PMIの最後の仕上げを担わないといけないチームだと思っています。ユーザベースが持っているデータベースとテクノロジーの力と、AlphaDriveの持っているクライアントの情報や人と仕組みの力。これらを掛け合わせたのがUNIDGEだと。
僕は、UNIDGEはAlphaDriveをアクセラレーションする存在だと思っています。
AlphaDriveが新規事業を生み出す手段として、社内インキュベーションだけでなく、オープンイノベーションや共同研究、CVC、M&Aなど全部持てることが理想。だからこそ、UNIDGEがオープンイノベーションを推進することで、その選択肢を広げられたらと考えているんです。
土成:
コーセーさんとの契約ですね。
土成:
think beyondでは、オープンイノベーション界隈がマッチングで終わってしまっていて、スタートアップ側が疲弊しているという課題を挙げました。つまり事業化にこぎ着けていない。だから、マッチング+事業化の支援をテーマにしたんです。
実際走り出してみたら、マッチング後の事業化支援の段階で、大企業側でもマッチングまでの事前準備が足りていない問題が浮上しました。
マッチング前の仮説づくりや体制づくりがあって、次にマッチングがあって、そこから事業づくりへの伴走をしていく。この3つのセットが必要だよねということで、初めてフルセットを適用したのがコーセーさんだったんです。
土井:
コーセーさんは渡邉さんが営業したんですが、先方の担当者は新規事業開発に10年携わってきて、かつVCで副業しているようなオープンイノベーションに詳しい方で、「コンサルは信用していない」と。これまでもたくさんの取り組みを推進してきたのですが、満足の行く成果を上げるにはあと一歩だったそうなんです。
それで僕がお話をしに行ったら、UNIDGEが目指す姿にすごく共感していただけました。「UNIDGEはまだ実績がないけれど、結婚と同じでやってみなきゃわからないから」と言っていただいて、契約に至った経緯があります。
土井:
立ち上げたばかりの頃は、デリバリー(顧客担当)をできるのが僕と土成さんしかいなくて、しばらく2人で頑張っていました。そうしたら、2022年12月に僕の友だちの若木さん(若木 豪人/UNIDGE所属)がAlphaDriveに入社してきたので、全力で「一緒にやろう」と口説きました(笑)。
若木さんは前職のNTT東日本でオープンイノベーションを担当していたので、UNIDGEと兼務しないかと。その半年後には、UNIDGEに100%コミットしてもらうことになりました。
その後、22年6月頃に近藤くん(近藤 駿人/UNIDGE プロジェクトマネージャー)が入社してくれて、2023年10月現在でプロパーが8名。2024年には倍の16名に増やそうと計画しています。
「自分の人生こそオープンイノベーション」それぞれの使命感を抱いた転換期
土成:
2022年の夏に私の妊娠がわかって、12月に一旦現場を離れなきゃいけなくなったんです。
すでにお客様がいるし、当初抱えていた課題感も解決したいし、そもそもUNIDGEがやっていることは絶対に世の中に必要とされていると思っていたので、事業自体はやめたくなかった。
麻生さん(麻生 要一/AlphaDrive CEO 兼 UNIDGE取締役)や古川さん(古川 央士/AlphaDrive取締役)にも相談して、かなり悩んで葛藤して、一旦はUNIDGEをAlphaDriveの一事業部にしようと決断しました。
ただ、残されたメンバーの気持ちもあったので、「私はこう決断したので、そこから先は皆さんに任せます」という形でボールを渡しました。そうしたら土井さんが、「俺がやる」と言ってくれたんです。
土井:
僕はこの瞬間から、トヨタ側で社内調整に動いていました。なぜなら、僕の人生こそ「オープンイノベーション」なので(笑)。ちょっと手前味噌ですが、トヨタから一度も転職したことがないのに、組織を超えてこれだけ価値を生み出している人って、日本でほかにいないと思うんですよ。これは自分がやらなければと思いました。
かつ、UNIDGEが向き合っているのは大企業なんですよね。
オープンイノベーションの文脈でいうと、多くの人がスタートアップ側を向いている。スタートアップエコシステムをつくっている人たちはスタートアップを盛り上げることがミッションなんです。
一方で、オープンイノベーションをする先の大企業の存在って、スタートアップの成長に欠かせないし、絶対に無視できません。ここに向き合えるのは僕だけだと。だからUNIDGEの代表に就任することは、自分のキャリア云々ではなくて、まさに僕の人生だと思ったんです。
だから当時は、「なんて素晴らしい球を投げてくれたんだろう」と思って(笑)。UNIDGEでの取り組みを実現させた瞬間、自分が本当に実現したかった「想いある挑戦者たちの成功確率を上げる」ことが叶うし、「大企業に向き合う」ことも叶う。僕のオープンイノベーションの集大成になると考えました。
同時に、当時土成さんの成長がすごくて。UNIDGE立ち上げからの半年間で責任感やコミットメントも含めて、別人のように視座が高くなったんです。だから、土成さんが今後どう成長するか見てみたかった。土成さんのビジネスパートナーとして、僕の時間を捧げようと思いました。
土成:
think beyondを通して悩みを抱えるお客様に出会ったことがキッカケですね。
AlphaDriveに入社して3ヶ月目に、麻生さんとの面談で「将来的にオープンイノベーションに関することがやりたい」と伝えたら、「think beyondでオープンイノベーションをテーマにしているチームがあるから、今やりなよ」と言われて、いきなり巻き込まれて(笑)。
当時私は「目の前にいるお客様を幸せにする」というスタンスでいたんですが、think beyondで悩みを抱えるお客様に触れるうちに、「AlphaDriveの事業をつくる力と、ユーザベースのデータベースが持つ力。これが使えるのは世の中に私しかいない!」と思ったんです。
その使命感を抱いた瞬間、「目の前のお客様を幸せにする」から「事業をつくる」に意識が変わった気がします。
「UNIDGEを諦めない」共同代表のそれぞれの葛藤
土井:
最初はthink beyondの延長でメンターとして参画していましたが、UNIDGEにコミットするターニングポイントになった出来事がいくつかあって、ひとつは古川さんとの会話でした。
立ち上げ準備期間中に古川さんと話したときに、「事業を立ち上げるなら立場と責任を持ってやらないと、どっちのためにもならないぞ」と言われたんです。それで土成さんと相談して、まずCOOという形で関わることになりました。2022年8月頃のことですね。
もうひとつは、土成さんの産休・育休がキッカケですね。それまではCOOと言いながら、メンターや伴走者のような立ち位置だったんです。でも土成さんが一時現場を離れるということで、自分がこの会社の責任を持たなければと意識が切り替わりました。
当時はUNIDGEにコミットするために、トヨタを辞めることも考えていました。
土井:
この件を課長、室長、部長に相談していたんですが、課長は「土井くんの人生を応援したい」と言って、いろんなところに掛け合ってくれていました。
ただ、意思決定するのは部長です。部長からは「俺の役割は土井くんの力をトヨタの中で活かすことだから、出向は反対だ」と。室長も同じ意見でした。
2022年9月頃に麻生さん含めトヨタ側と打ち合わせをする機会があって、そこであらためて出向についての是非を話し合うことになっていたんですが、部長は前日まで出向は反対だと言い続けていました。
それで迎えた打ち合わせ当日、やはりいつも通り課長は「出向には賛成です」、室長は「トヨタの中で価値発揮してもらいたいから反対だ」と。そうしたら最後に部長が、「(UNIDGEに)行かせようと思います」と言ったんです。
部長は前日まで反対していたので、一瞬何が起こったかわかりませんでしたね。
部長が言うには「土井くんをトヨタ内で活かすことが自分の仕事だと思っていたが、土井君を外に出す意思決定ができるのも自分しかいない。だから決めた。お任せします」と。感動して涙が出ました。その約1年後にCo-CEOに就任したという経緯ですね。
土成:
ひとつは、社内起業という、ある意味守られた環境の中でチャレンジできることが大きかったですね。私のように家庭を持ちたい、子どもを育てたいと考える女性にはありがたいキャリア形成の仕方だと思います。
たとえば立ち上げ時の経理や法務の業務も、ユーザベース内にあるそれぞれの専門部署の方に助けを求められる。かつ、麻生さんのような最強のメンターが手取り足取り経営の仕方を教えてくれる。給与の面でも守られています。
しかも、社内に蓄積しているナレッジやデータベースといったアセットを使って挑戦できる。こんな環境はなかなかないですよね。
私としてはUNIDGEを我が子のように思っているし、守り育てたいと決めた。でもお腹の中にも新しい命が宿っているとわかって、めちゃくちゃ悩みました。
土井:
見ていて本当にキツそうでしたね。会社は残したい。でもお腹の命も大切にしたい。僕が共同代表になるからと言っても、「私にはムリかもしれない、責任を持てない」と何度も揺れていましたよね。
2ヶ月ほど揺れに揺れていたんですが、土成さんの中には、UNIDGEという会社だって自分の子どもみたいなものだという想いがあった。「だったらそのキャリアを諦めなくてもいいように僕が何とかするから」という話しで、いまに至っています。
社会をより良くする事業を同時多発的に生み出すことがUNIDGEの意義
土井:
会社の成長ですね。UNIDGEにとって、今年はとても大きな年なんです。
立ち上げ期には、クライアントに対して僕や土成さんがデリバリーをするしかなかった。いま向き合っているのは、僕が現場に出て行かなくても同じ価値を提供できるようにすることです。型化することも含めて、メンバー全員がデリバリーまでできるようにしていく。
自分ひとりでやっていたことをみんなができるようになれば、もっとたくさんのお客様を支援できるようになります。それが広がっていけば、日本がもっとオープンイノベーションに向き合えるようになるはず。
僕以外のメンバーも大企業に向き合えるようになれば、会社としても大きく成長するし、スタートアップエコシステムの中で、大企業がもっと価値を発揮していけるようになる。その結果として日本がもっと元気に、社会はより豊かになると思っていて、それが何より楽しみですね。いまようやく、その手触り感が出てきたところです。
土成:
私、子どもを産んだことで「未来」がすごく気になるようになったんです。UNIDGEの仕事って、社会をより良くするための事業を同時多発的に生み出せる。それがおもしろさであり、存在意義だと思うんですね。だからこそ、「事業をつくる」ことにこだわっていきたい。
この先5年後、10年後にUNIDGEがしたことの成果が見えてくると思うんですが、NewsPicksや他社のメディアで取材された事業の裏にUNIDGEがいるような、そんな経験をたくさんしたいですね。
土井:
土成さんの話はまさしく僕らがUNIDGEとして向き合わなきゃいけないことだし、大きな経営アジェンダですね。すでにその兆しはあって、手がけている案件が事業化されたり、売上を上げ始めたりしています。
最近中期経営計画をつくっていて改めて思ったんですが、ユーザベースってすごい会社です。この規模で、これだけのテクノロジーと幅広いデータを持っている。ユーザベースとAlphaDriveが持つ濃い情報と、僕らの持つ濃い課題感がうまく接続できたら、まったく新しいサービスやプロダクトが生まれる可能性があると感じています。
編集後記
think beyondの頃から取材を続けてきたUNIDGE。いつの間にかめちゃくちゃ成長していて驚きました。このインタビュー、実は土成の正式復帰前に実施したんですが、スケジュールを調整する際に「UNIDGEのためなら、(育休復帰前でも)全然行きますよ!」と言ってくれて、この前のめりさがUNIDGEの爆速成長に寄与しているんだろうなと思いました!