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再上場に向けて描く3カ年のステップと、ユーザベースの未来──代表取締役Co-CEO佐久間衡インタビュー

再上場に向けて描く3カ年のステップと、ユーザベースの未来──代表取締役Co-CEO佐久間衡インタビュー

2023年2月、ユーザベースはカーライル・グループによるTOBに伴い、株式の非公開化を発表しました。その後、取締役会を新体制へ移行、「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスの実現に向け、3〜5年以内の再上場を目指した事業改革を推進しています。2023年4月に創業15周年を迎えたユーザベースは、再上場に向けてどんなストーリーを描くのか、Co-CEOの佐久間衡に話を聞きました。

佐久間 衡

佐久間 衡TAIRA SAKUMA代表取締役 Co-CEO

2013年にユーザベースに参画し、SPEEDA日本事業担当、FORCASとINITIALのCEO、SaaS事業担当取締役を経て現職。ユーザベース参画前は、UBS証券投資銀行本...

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目次

非上場化を決めたのは「収益性を高め、成長を続けるための循環をつくりたかったから」

あらためて、2022年のTOBによりユーザベースがなぜ非上場化を決めたのか、聞かせてください。

理由はふたつあります。ひとつは、組織構造、プロダクト構造を転換し、収益性を高めてスケールする土台をつくるため。収益性を高めて海外事業や新規事業に大きく投資し、成長を続ける循環をつくりたかったんです。

それは上場しながらでもできなくはないんですが、株主や債権者などさまざまなステークホルダーに対し、説明責任を果たしながら構造転換していくのは大変で、相当時間がかかる。そこで、構造転換の方向性に完全に賛同してくれたカーライルをメインの株主として非上場化し、スピーディな構造転換を実現することを決めました。
 
理由のふたつ目は、メンバー全員がユーザベースのオーナーになることを実現したかったからです。 アカデミックでは、CEOや役員がしっかりと株式を持っている会社のほうが成長するという研究結果があります。なぜなら、株主と経営者の方向性が一致するからです。

ユーザベースの成長をリードするような人材には大きな株式を持ってもらい、成長を実現したあかつきには大きなリターンが得られるようにする。そういう状態をつくって、ユーザベースをリードするトップタレントを採用、育成していきたいと考えました。
 
これも上場しながらやれなくはないんですが、構造転換の話と同じく時間がかかります。

ユーザベースCo-CEO 佐久間 衡

ユーザベースでは非上場化する1年前に役員株式報酬制度を導入し、年間の希薄化率1%をターゲットにして株式報酬を出していくことを発表しています。このとき、多くの機関投資家、個人投資家の方に賛同いただいたんですが、実は反対のコメントも少なくありませんでした。
 
日本では現状、1%を超えて2〜3%の希薄化を許容して大きな株式報酬を出すことは難しい。一方、たとえばアメリカではトップタレントを採用しようと思うと、大きな株式報酬は不可欠で、AlphabetやAmazonといったビッグテックを中心に、2〜3%水準の株式報酬を出すことが常態化しています。
 
そこまでパーセンテージを引き上げられれば新規採用に効くのはもちろん、社内で事業を伸ばしてイグジットするほうが大きな株式報酬を得られるので、起業家精神を持つ人を惹きつけられる。それが会社の成長につながっていきます。これを日本でも実現したい。
 
現在ユーザベースは非上場企業なので、カーライルの理解が得られれば年率3%程度の希薄化率を出すことができます。ストックオプション含む希薄化率は、上場するタイミングで20%くらいまでなら許容されるので、仮に、スタートアップが起業から7年間で上場すると3%×7年で21%になる。なので、上場前のスタートアップならば、希薄化率3%は出せるんです。
 
それが上場した途端にそうした選択肢がなくなり、3%が出せなくなってしまったら、非上場と上場が地続きとは言えないですよね。なので、ユーザベースは今の非上場のタイミングのみ大きな株式報酬を出すのではなく、上場しても同じような希薄化率で大きな株式報酬が出せるようにしたいと思っています。
 
そのために、まず自分たちがしっかりと構造転換を果たし、圧倒的なユーザー価値をつくったうえで、大きな利益を出して再上場すること。自分たちの未来だけでなく、日本の資本市場の未来にもつながる形で再上場を果たしたいですね。

3カ年計画「PLAY2025」に従い最速のタイミングで再上場を目指す

2023年9月に行われたUB DAY(※)で、上場までの3カ年計画「PLAY2025」を掲げました。あらためて、再上場までのストーリーをどう描いているか、教えてください。

UB DAY:四半期に一度、Co-CEOが全社に向けてユーザベースの現在・未来について語る場。

我々は2024年初頭から会計基準を国際会計基準(IFRS)に変え、上場までの財務諸表をしっかりつくり、3〜5年以内に再上場しようとしています。これは理論的に最速のタイミングですね。
 
なぜ最速のタイミングを目指すかというと、再上場の不確実性をなくしたいからです。もちろん利益体質をつくって上場することを目指してはいるものの、株式市場の影響からは逃れられません。上場しようというタイミングで市況が非常に悪ければ、上場は難しい。
 
市況が悪く、一旦再上場を断念するとしても、たとえば1年経って市況が回復していれば、再上場できる可能性は十分にあります。
 
もちろん最速のタイミングである3〜5年以内の再上場を目指すとなると、2025年には大きな結果を出す必要があります。そのためにはスケールするための土台を2023年につくる必要があった。だから今年は採用を抑制し、採用よりは育成、そしてオペレーションの型化に集中してきたんです。

2024年には今年できた土台を活かすためにも、スケールするための大きな投資をしていきます。採用投資はもちろん、永続的に成長するためのシステム投資も対象です。2025年以降にいっきにその結果を出して、財務諸表的にも大きな数値をつくり、上場していくプランです。

ユーザベースCo-CEO佐久間 衡

再上場までに利益体質にしたいのにはもうひとつ理由があって、株式市況の影響を受けにくくするためですね。
 
以前ユーザベースが上場していたときは、株価がかなり激しく乱高下しました。株価が乱高下すると、株式を使って増資をしたり、株式交換で買収したりといったことがやりにくくなる。なので、再上場するときには株価を一定コントロールできる形にしたい。
 
そのためには、ARR(年間経常収益)に対して株価や時価総額がつくのではなく、たとえば利益の数十倍で企業価値が形成され、その企業価値からネットデット(純有利子負債)や少数株主持分を引いて時価総額が算出されるようにする必要があります。
 
そうすれば、我々が利益をコントロールすれば株価もコントロールできるし、株式をうまく使いながら経営をする土台をつくることができる。
 
大きな利益を出し、かつ成長している会社で株価が低いことは理論上あり得ません。その点は、投資家への説明やIRどうこうよりも、まず結果を残すことだと思っています。そのうえで、より高く評価していただくためには、魅力的なエクイティストーリーやシンプルなコミュニケーションが重要になってきます。

ボトムアップ的思考と統合的思考でイシューリストをアップデート

そのエクイティストーリーが「具体的に何を変えていくのか」であり、イシューリストに当たると思うんですが、そもそもなぜイシューリストをつくったんでしょうか。

ユーザベースの組織フェーズが変わってきたことが大きいですね。
 
これまでいろいろな会社を見てきた中で、中期経営計画に縛られすぎている事案をたくさん目の当たりにしました。計画を立ててから3〜5年が経過するうちに、中身が陳腐化しているにもかかわらず執着してしまう「ダメな経営」を見て、アンチ中期経営計画派になっていったんです。
 
一方で、ユーザベースの組織が大きくなり、大きなユーザー価値を届けられるようになっていくなかで、長期的かつ持続的な取り組みの重要性が増してきました。それにつれて、3カ月や1年といった短期で経営方針を決めていくやり方がマッチしなくなってきたんです。
 
そんななか、小倉さん(小倉 淳平氏/ユーザベース社外取締役・監査等委員、カーライル マネージングディレクター)とのディスカッションで「佐久間さん、やるべきことを並列的に抱えすぎじゃないですか?」と言われて。それだとすべて中途半端になってしまうリスクが高い。それよりは、ユーザベースを横断した優先順位をしっかり握り、優先度の高いものから成し遂げていく経営スタイルに転換したほうがいいと指摘されました。
 
確かに、プライベートエクイティの経営スタイルはそういうものです。
 
そこで、ユーザベース全体で横断的に「解決すべき課題」「探索すべきテーマ」を洗い出し、それを3年という長い時間軸で設定して、優先順位をつけて1つひとつ確実に達成する取り組みをしてみようということになりました。これがイシューリストができた最初ですね。
 
この取り組みはやってみなければわかりません。メリットも感じる一方で、もうすでにやる意味がなくなってしまったイシューも出てきています。そうしたイシューはアップデートしていかなければならないんですが、まだその仕組みがない。2023年末にかけて、その仕組みをつくりきるつもりです。

ユーザベース 佐久間 衡

イシューリストは、中期経営計画をつくったらそれで終わりではありません。ボトムアップ的思考と統合的思考を意識してアップデートしていく必要があります
 
たとえば「SPEEDA事業において何が一番重要な課題なのか」について、組織階層のボトムとなる人たちは、顧客に関する細かな情報を現場で掴むことができます。こうした細かな情報は、階層の上になればなるほど少なくなってしまう。つまり、トップダウンって「細かな情報を持たない人」の目線なんですよ。
 
トップダウンの究極は株主ですね。言い方は悪いんですが、投資家にとってユーザベースの細かな部分は考慮の範囲外なんです。そこよりも、ユーザベースがほかのSaaS企業やメディア企業と比べてどうかという目線を持っているわけです。
 
つまりトップダウンで一番重要なのは、株主の目線にあるエクイティストーリー。だから中期経営計画をつくるとき、「現場目線で特定の事業を伸ばすために何が重要な課題なのか」というボトムアップの視点と、統合的な「エクイティストーリー」の両方の視点を意識しました。

SaaSの顧客起点組織への転換を果たし、「アジャイル経営」を実現したい

イシューの中でいま最も優先順位が高いのが、「SaaSの顧客起点組織の転換」と言われていますが、そもそも何を目指して組織の転換を図ろうと思ったんですか?

私の中で「アジャイル経営」という概念をつくったことが大きいですね。
 
3年ほど前、ユーザベースの経営アドバイザーを務める西口さん(西口 一希氏/Strategy Partners代表取締役)から、「佐久間さん、SPEEDAを経営企画の人に届けて、経営を変えるためのサービスにしたいんですよね。であれば、どういう経営が理想なのか言語化しない限り、説得力ないですよ」と言われたんです。
 
その通りですよね。そこで、我々が実現したい経営の姿を「アジャイル経営」という言葉で言語化しました。
 
アジャイル開発はトヨタなどに代表される日本の昔の生産方式が発展して、ソフトウェア開発のスタンダードになっていった。そのやり方を経営にも応用して、顧客起点で変化にスピーディーに適応していく経営を「アジャイル経営」と呼びます。
 
それは同時に社会課題の解決や、従業員の働きがいの実現にもストレートに作用する経営のあり方。このアジャイル経営に関しての論考も出しました。その論考をもとに、いろいろな経営者と話すなかで、理想と現実のギャップを感じるようになったんです。

我々は企業を変え、働き方を変えるようなアジャイル経営を謳っていて、それを支えるための経済情報プラットフォームをつくり、広めていきたいと思っている。たとえば、SPEEDAは「経営を変える」と言っている。でもユーザーは、特定の企業の情報や取引先の情報をスピーディーにリサーチするためのひとつのツールとして使ってくださっている。
 
それはもちろんユーザー価値ではあるものの、そこから「経営を変える」に行き着くまでには大きなジャンプが必要です。このジャンプに対して、我々は見て見ぬフリをしているのではないかと。そのギャップを埋めるための具体的な行動は、これまであまりしてこなかったんじゃないかと思うんですよね。
 
「経済情報の力で誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスを定め、そのためにSaaSのプロダクト群全体でアジャイル経営を広めていくプロセスを置いているのに、それがまったく進展しない。
 
2021年12月の長期経営戦略発表会でも「経営コンサルティングを民主化する」「クラウド化する」と打ち出しているのに、その領域に到達していない。
 
そもそも我々のパーパスや理想は、ユーザベースのすべてのプロダクトの価値を結集しなけば実現できないし、お客様の戦略を事細かに理解し、お客様のグループ会社を含めた組織のあり方も理解しなければならない。かつ、経済情報分野で他社が提供するサービスについても深く理解し、場合によってはユーザベースのサービスと組み合わせて提案していく必要があります。
 
それをするには組織を変えなければいけない。現状のような、ある意味各プロダクトに閉じた状態では、そこに到達できるイメージが湧きません。

ユーザベースCo-CEO 佐久間 衡(左)、同 稲垣 裕介(右)

そのための構想として、ドリームチームの結成があります。ユーザベースの全プロダクトを理解し、顧客を理解し、経済情報プロダクト群を理解している。複雑なプロジェクトを遂行できる力や、高いコミュニケーション能力も持ち合わせたメンバーを結集する。
 
まずは組織転換をして、スーパーエンタープライズと呼んでいる大規模な企業グループに対し、「面」で向き合って、特定のプロダクトだけにとらわれず、顧客起点で価値提案できる体制を整える必要があります。
 
ドリームチームを結成するにあたっては、かなりの採用、育成コストがかかると思っています。ですが、手段は選んでいられません。深い顧客理解を持ち、経済情報感度が高く、複雑なプロジェクトを遂行できる人材は、当たり前ですが非常に稀です。育成は困難を極めそうですが、チャレンジするのみですね。
 
ちなみに、この構想は二重構造になっています。まずSaaSを横断するドリームチームを結成することと、もうひとつ、それ以外のレベニュー組織の中にも、スーパーエンタープライズに準じた規模のお客様に「面」で向き合えるアカウントチームをつくります。
 
プロダクト横断で「経営を変える」価値をつくるには、セールスやカスタマーサクセスだけではできません。プロダクトそのものを変えていかなければいけないし、我々が提供するコンテンツの形すらも変えていかなければいけない。
 
顧客フロントのチームだけでなく、プロダクト開発をはじめすべてのチームが変わる必要があると思っています。

ユーザベースのツールをインフラ化し、経営コンサルティングの「内製化」を目指す

前回のUB DAYでは、ユーザベースが提供するツールをインフラ化していきたいという話もありました。

2021年の長期経営戦略説明会では、経営コンサルティングの民主化、クラウド化を謳っていました。当時私のイメージにあったのは、「速く・安く」提供することだったんです。
 
汎用的なリサーチをするのであれば、コンサルタントを雇うよりSPEEDAを活用したほうが安いから、民主化が実現できる。しかも、クラウド化でどこからでもクイックに情報にアクセスできます。
 
ただ、そこから2年経って、民主化・クラウド化よりも「内製化」こそ重要だと考えが変わりました。大企業の経営者の方と話すと、内製化し、自律的な人材を生み出したい、という要望がとても多いんです。
 
最近では純粋な戦略コンサルティング領域が少なくなり、オペレーション構築のようなコンサルティングが広がる中で、プロダクトを用いてオペレーションを構築し、一定の人材育成をセットにして提供するケースが増えています。
 
たとえばSPEEDAであれば、競争環境のリサーチを習慣化して内製化する。FORCASであれば、現在どんな顧客に価値を提供しているかを可視化し、それを改善するサイクルを内製化する。
 
「速い・安い」だけでなく、そこに人の育成、内製化の要素が加わり、「速い・安い・うまい」になる。外部に頼らず内製化して、社内に高度なオペレーションを構築し、持続して発展していくことを目指すイメージです。
 
ただ、これは経営コンサルティングを否定しているわけではありません。実際お客様に内製化を提案すると、「いまお願いしている経営コンサルの担当者と一緒に取り組みたい」という話も多いんです。
 
内製化を進めるためにも経営コンサルタントの力は必要で、経営コンサルタントの方々とも共創しながら、プロダクトを通じて内製化された状態をつくっていきたいと考えています。
 
この視点に気づけたのは大きい。これまでも我々はカスタマーサクセス活動を通じて、内製化に向けた人材育成を自然と行ってきたんだなと気づけました。
 
カスタマーサクセスがモチベーションの高い担当者を見つけて全力でサポートし、できる限り他社のノウハウなどもインストールとして、その担当者を育成する。その企業の内部で我々のサービスがしっかり活用されて、成果につながる状態をつくる。
 
そうした視点で、カスタマーサクセスの重要な役割のひとつとして「ユーザーの育成」があると明確に言語化できたのは大きいですね。
 
今後はより一層、経済情報のエキスパートとして企業経営に伴走し、「ともに変革を実現する経営パートナー」と言われることを目指していきます。

ユーザベース 佐久間衡

編集後記

佐久間さんとの久しぶりの1対1でのインタビュー、最初はちょっぴり緊張しました。インタビューの最初に緊張している旨を伝えると「何で?」と一蹴されましたけど(笑)。

本文にも出てくるUB DAYで、何度もイシューリストやエクイティ・ストーリーなどの言葉は聞いていましたが、今回のインタビューで改めて自分の中で整理できました。久しぶりに長期経営戦略説明会の採録レポートを読みましたが、もう2年前なんですね(当時レポート制作を担当していました)。

15周年シリーズは今回でラスト。稲垣のインタビューから始まったこのシリーズでは、稲垣さんがこれまでの振り返りと感謝を、佐久間さんにはTOBから再上場に向けた未来の話をしてもらおうと、シリーズ企画当初から決めていました。何とか年内に公開できてホッとしています。

再上場に向け、来年以降もエクイティ・ストーリーに沿った企画など、ユーザベースの「今」を切り取った記事を公開していきます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします!

執筆:宮原 智子 / 撮影: 木村 文平 / 編集:筒井 智子
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