原体験からのプロジェクト参画
川口 あい(以下「川口」):
NewsPicks for WEが生まれたそもそものキッカケは、私が入社した5年ほど前にさかのぼります。
当時のコミュニティチームリーダーと現NewsPicks編集長の佐藤留美さんが、社内の女性全員に「働きやすさ」をテーマにヒアリングをする取り組みをしていました。女性の働きやすさをテーマにしたコンテンツを増やしたいという動機などがあったようなんですが、入社して3日目の私はそれを見て「私もやりたいです!」と言って企画書を出したんです。
その頃のNewsPicksでは、留美さんが中心になっていろいろな人たちのキャリアの話を聞く「Colorful Career」という企画を組んでいたり、私も国際女性デーのイベントなどに携わらせてもらったりしていたんですが、プロジェクトメンバーがみんな社内副業的な関わり方だったこともあり、本業との兼ね合いで継続しづらくなってしまって。
そんななか、私と裕美さん(佐藤 裕美/現NewsPicks Biz Team)とで「継続的に何かやりたいよね」とずっと話していて。そのタイミングでIBMとのコラボの話が出てきたり、同時期に私はNewsPicks Studiosに異動したのですが、番組プロデューサートップの木嵜さん(木嵜 綾奈/NewsPicks Studios取締役)が女性活躍テーマのコンテンツをつくりたいという気持ちを後押ししてくれたりして、「いまだ!」と思ってNewsPicks for WEの取り組みを始めることにしました。
川口:
前職のハフポスト日本版がダイバーシティ領域に強みのある媒体だったこともあり、NewsPicksに入社するときにも、経済情報こそ多様性が欠かせないと思って、そうしたテーマでの発信がしたいと伝えていたんです。
あとは、自分自身の原体験も影響していますね。私は一度離婚をしているんですが、結婚していた当時は専業主婦だったんですよ。結婚前は出版社で編集の仕事をしていましたが、結婚を機に退職。離婚後、またゼロからキャリアを構築することになり、ある種人生をやり直した経験があって。
専業主婦で職がない状態から働き始めるのって、すごく大変なんです。それこそ家を借りるのも難しいんですよね。
自分が当事者になってみて、ライフステージの変化とキャリア構築の難しさを実感したり、自身に染み付いてしまっていたバイアスを痛感したり、女性が生きるうえでの世の不条理が目についたりと、価値観が大きく変わりました。
それらが発端となり、女性がもっと自分の選択肢を持って、自分らしく働いて生きていける社会をつくるにはどうすればいいんだろうと考え始めました。
当事者である女性にメッセージを発信することも大切なんですが、周辺にいる人たちや社会環境にもアプローチが必要で、その第一歩となるのが、マネジメントや経営層にいる人たちの意識を変えること。
NewsPicksの読者にはマネジメント層の男性が多い。だからこそ、本家本丸のNewsPicksで頑張ってみようと思ったんです。
村松 奈津実(以下「村松」):
活動に参加しようと思った背景には、私も川口さんと同じく原体験が影響しています。
前職は大企業に勤めていて、20代後半に差し掛かったときに結婚や出産といったライフイベントに進むべきか、職場での昇進を取るか、はたまたキャリアチェンジするかを考えた時期がありました。
いくつかの選択肢がある中で、もしも自分がライフイベントを選ぶと、キャリアアップによくない影響が出そうな感じがあって、キャリアチェンジも前後しばらくは難しそうで、すごく悩んで……。でも同期の男性社員たちは、キャリアアップやキャリアチェンジとライフイベントを、悩むことなく両方選べていたんです。
そのときに、「なぜ女性である自分は”どちらか”を選ばなければいけないんだろう? なんかおかしい!」と強く感じたんですよね。同じような悩みを持つ女性や、次の世代のために、この状況を少しでもなんとかしたいという思いがこの時生まれました。
その後、結婚と出産を優先することを選んで、産育休・復職を経てしばらく働いた後、やりたいことが見つかり、キャリアチェンジすることにしました。このときも、子どもがいる中でのNewsPicksへの転職というのが自分にとっては結構チャレンジングで、かなり思い切りましたね。でも、女性だって自分がやりたいことをやってもいい、自己実現を諦めなくていい。
出産前はバリバリ仕事をしていたのに、「ママになったら、子どもが熱を出したときにいつでもお迎えに行ける状況でいなければダメだ」みたいに個人としての自己実現を諦める知り合いも多かったんですが、母親としても個としても、自己実現していいよね、と証明していきたいという思いがありました。for WEはそんな思いに繋がる活動だと感じて、入社してすぐに上司に参加を申し出ました。
女性当事者と男性経営マネジメント層、ふたつのターゲットに向けてそれぞれ情報を発信
川口:
大きくは、ゼミとイベント、コンテンツ、Podcastですね。
WEの立ち上げのキッカケとなったIBMとのコラボレーションは、同社がこれまで社内向けに行ってきた女性リーダー育成プログラムをもとに、NewsPicksとの共催という形でゼミを行いました。このゼミをフックに女性コミュニティをつくろうということで、裕美さんとふたりで企画書を作って、2021年末にイベントを開催しました。
川口:
その後、2022年3月に国際女性デーのイベントをしたときにはIBMさんなどがスポンサーになってくださり、その後も自主開催でオンラインイベントをしたり、外部企業や京都大学とコラボをしたり、2022年の秋にはPodcastの配信をスタートしました。
2023年3月の国際女性デーでは、プルデンシャル生命保険や働きがいのある会社研究所、丸紅、デロイトといった大企業がスポンサーについてくださいりました。
それまではどうしても「有志の自主活動」みたいに見られていたんですが、スポンサーがつき始めたことで、事業としての可能性やテーマとしてのポテンシャルが認められたとも感じています。
Podcastを開始したのは、for WEとして定期的に発信する場所があったほうがいいと思ったことと、リソース的にも継続的に制作しやすいためです。
社内でも女性に関するニュースをテーマにしたPodcastは初めて。当初はジェンダーや女性に関するニュースってそんなにあるものなのかな? と思っていたんですが、世の中にはものすごくたくさんのニュースがありました。
NewsPicksの編成チームの田井さん(田井 明子/NewsPicks Curation Team)や川上さん(川上智子/NewsPicks Curation Team)が、「今週こんなニュースがあったよ」と情報をシェアしてくれて、私たちはNewsPicksのその記事に付いたピッカーのコメントとともに番組の中で紹介したりして。
NewsPicksのニュースをPodcastで紹介することで、それを聞いてNewsPicksを知った人がNewsPicksに課金をしてくれるような流れもできました。
川口:
for WEでは施策の方向性として、女性当事者と男性の経営・マネジメント層、ふたつのターゲットを置いています。興味がない人にも興味を持ってもらうために、それぞれ提供するコンテンツの方向性を変えているんです。
たとえば2022年の国際女性デーの当日は、女性当事者に向けたコンテンツを発信しましたが、その後7月に行ったイベントは経営・マネジメント層の男性向けに情報を発信しました。
後者に関しては、コーポレートガバナンスコードの改変で経営テーブルの多様性が重視されるようになったこと、欧州では2026年から女性役員が30%以下の企業と取引しないことが決まったことなど、グローバルで戦うためにはダイバーシティに目を向ける必要がある、という視点でコンテンツをつくりました。
こうしたイベントには実際にダイバーシティ経営に取り組む男性経営者をお呼びして、モデルケースとして話をしていただいています。
ダイバーシティを経済合理性の観点から説明。「性別を超えて景色交換できる機会に」
川口:
最近では男性側からも、女性活躍施策に取り組まなければいけないですね、というコメントが増えてきました。ダイバーシティ施策の一丁目一番地ともいえる女性活躍をないがしろにする企業は成長しない、女性リーダーが増えなければ組織もビジネスも持続可能ではない、という空気になってきています。
実際に、ダイバーシティに目を向けない会社では離職率が高くなっているなど、事実も一緒に伝えるようにしているからかもしれません。
村松:
そういう経済合理性で説明することは大切ですよね。企業活動の中で多くの人が納得して女性活躍やダイバーシティを続けていくためには、感情論でなく経済合理性で説明する必要性を感じています。
川口:
受け入れテーブルが多様でない企業はROIにそれが反映されてしまったり、同質性が高いグループは判断軸が鈍ったりといったデータが、世の中にはたくさんあります。
ビジネスに掛け合わせた言い方が必ずしも正しいとは思わないんですが、そういった切り口だからこそ理解を示してくれる方がいるのも事実なので、アプローチ方法は試行錯誤しています。
村松:
私がもうひとつ意識しているのは、「女性だけに閉じない」ことですね。女性活躍のイベントって、登壇者や参加者が全員女性になりがち。そうではなくて、男性経営者に登壇いただいたり、男性に参加いただいたりすることも重要だと思っていて。私たちも同質で固まっていてはいけないと思うんです。
お互いに意見がぶつかり合いそうな人とも対話をして、建設的に解決策を見つけていくような方向に持っていきたいですね。
村松:
「男性にももっと参加してほしい」という声は多いですね。みなさん女性だけで群れて話したいわけではなくて、解決に向けて男性と景色交換をしたいんだな、と思います。
川口:
参加者で多いのは、大企業で次のリーダーを目指す女性たちですね。
村松:
私は2期のゼミにメンバーとして参加させてもらったんですが、「リーダーになりたい気持ちはあるけれど、家庭や子育て、プライベートでの自己実現との両立に悩んでいる」という人が多かったです。
「リーダーなんて、やっていけるんだろうか」「みんなどうやって両立しているんだろう」といった不安を持っている方が多い印象でした。「レジェンドのようなすごい人よりも、もっと自分に近いロールモデルがほしい」という声もありました。
川口:
イベントには横のつながりを求めて参加している人も多いですよね。「社内でダイバーシティ活動をしたいけど、ひとりしかいなくて……」といった方が、同じような課題を持つ人とつながるのも目的のひとつのようです。
村松:
私たちとしては、そうした人たちでコミュニティやつながりを続けていきたいという思いがあるんですが、私を含め有志のメンバーも多く、どうしてもリソースが不足しています。なので、できることから始めようと思い、NewsPicks上でfor WEのトピックスを立てることにしました。
川口:
NewsPicks for WEのトピックスは2023年12月15日からスタートしました。最近はPodcastのリスナーさんも増えてきているので、いろいろなところにいるフォロワーをトピックスに集めようと思っています。
「女性のため」だけでなく「みんなのため」に、継続的な議論の場を提供したい
川口:
これは村松さんが情報をキャッチしてくれたからこそ、外部に向けて発表ができたと思っています。ふだんからマーケティングで、女性ユーザーにも伝わりやすい訴求でNewsPicksの価値を伝えてくれているんです。
for WEのコンテンツがあることで女性ユーザーがよりNewsPicksを使いたくなったり、女性ユーザーが増えるからfor WEがより多くのコンテンツを制作できるようになったりという好循環が生まれ始めた気がします。
川口:
今後はコミュニティ活動をしっかりやっていきたいですね。
村松:
コミュニケーションする場をつくりたいし、男性も含めた建設的な議論を続けていきたいです。
川口:
こうした議論は継続することが大事なんですが、それができるコミュニティって少ないんですよね。キャリアに意欲があって、リーダーになりたいWillもあって、働き続けながらも結婚・出産をしたいと考えている女性ビジネスパーソンは多いんですが、そうした人たちのコミュニティはあまり見かけません。
かつ、男性側のマネジメント層も興味・関心を持って関わってくれるようなポテンシャルあるコミュニティをつくりたいですね。
村松:
それはNewsPicksのように男性ユーザーが多いメディアだからこそ、できることだと思うんですよね。女性だけで議論するのでなく、男性や経営層、意思決定層などの方々も一緒に議論するから、実効的な解決策を見出し、社会にインパクトを与えられる可能性がある。
男性も性別役割から解放されてもっと自由に自分のやりたいことができるようになるから、for WEの取り組みは「女性のため」だけでなく、「みんなのため」になるんです。
川口:
男女問わず「みんなにとっての心地よさ」を追求したいですよね。それと同時に、私はfor WEの裏テーマはユーザベースの「インナー改革」でもあると思っています。いずれは社内の経営ボードの女性比率を増やすことも後押ししていきたいですね。
編集後記
ようやくNewsPicks for WEの記事が出せる! と嬉しい気持ちでいっぱいです。記事に登場してくれた川口あいちゃんとはユーザベースの同期入社で、for WEのこともだいぶ初期から聞いていました。いつかUzabase Journalで記事にしたい、と話していたんです。
今回インタビューして驚いたのが、活動の幅がすごく広がっていること、そして本文にもありますが、社内でも事業としての可能性やテーマとしてのポテンシャルが認められつつあることでした。この爆速の進化は、プロジェクトに関わるメンバーが、全員兼務ながら強い思いを持って進めてきたからだなと感じます。3月の国際女性デーの3DAYSイベントも楽しみです!