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徹底的に顧客起点を貫いた「スピーダ」へのブランド統一プロセス

2024/07/01

徹底的に顧客起点を貫いた「スピーダ」へのブランド統一プロセス

経済情報プラットフォーム「SPEEDA」、スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」、営業DXソリューション「FORCAS」など、複数のSaaSプロダクトを展開してきたユーザベース。2024年7月1日、これらのプロダクトがひとつになり、「スピーダ」に名称統一されました。その意思決定と名称変更の裏側には何があったのか、今回のプロジェクトをリードした広報責任者の菅原弘暁と、アートディレクターの伊藤崇志が語ります。

菅原 弘暁

菅原 弘暁HIROAKI SUGAHARAHead of Public Relaitons

2011年から4年間、大手総合PR会社のオズマピーアール、内1年間は博報堂 PR戦略局に在籍。2015年よりPR Tableに共同創業者として参画。SaaSプロダクトの立ち上...

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伊藤 崇志

伊藤 崇志TAKASHI ITOSpeeda Company Design Domain Brand Design Division リーダー

大学卒業後、デザイン事務所、ブランディングデザイン会社にてグラフィックデザイナーとして従事。VI・ロゴデザイン、エディトリアルデザインを中心としながら、地域や企業のトータルブ...

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目次

「すべてを顧客起点へ」複数プロダクトをひとつのプラットフォームに

ユーザベースはBtoB SaaS事業において、これまでSPEEDA、FORCAS、INITIALを中心に、プロダクトごとにサービスを提供していました。
 
しかし大企業を中心に、複数のプロダクトを導入して部門横断的な取り組みに貢献する事例が増えてきたことから、顧客課題をひとつのプロダクトで解決するのではなく、複数のプロダクトを用いて包括的ソリューションとして価値提供したいと考えるようになりました。
 
その結果2023年から検討が始まったのが、プロダクト名称の統一です。これは2024年1月に実施した顧客起点組織への転換とも連動しています。プロダクトの名称だけでなく、お客様へのデリバリー体制も、ブランドも、すべてを顧客起点に変えていく必要があると考えたのです。

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はじめに着手したのは、名称の決め方のルール化。「認知記号+便益/行為」こそ勝ちパターン

今回の名称変更では、プロダクトを「スピーダ」に統一することになりました。まずはそのプロセスについて振り返ります。
 
名称変更のプロジェクトがスタートした際、最初に着手したのが「名称の決め方」をルール化することでした。
 
その過程では、マスター・ブランド戦略、サブ・ブランド戦略、マルチ・ブランド戦略などのフレームワークを使うことも検討しました。
 
たとえばマスターブランド戦略であれば、社名も「株式会社SPEEDA」に変更して、プロダクトもすべて「SPEEDA ○○」にする。「NewsPicks」なら「SPEEDA News」になるわけです。
 
しかし、「SPEEDA News」はないだろうというのが一致した見解でした。NewsPicksはすでにメディアとしての認知が確立しています。NewsPicksらしさを好んで登録してくださるユーザーが多いのは明らかであり、メディア名称が変わった場合、ユーザーが離れてしまう可能性がある。
 
こうした検討を繰り返し、決め方のルールを絞っていきました。

菅原 弘暁

名称の決め方をルール化するにあたって、「ユーザーの便益/行為」が重要だと考えていました。 
国内外の他社事例を調べていくなかで、特に印象的だったのはAdobeが展開している法人向けサービス群「Adobe Experience Cloud」でした。「Adobe Analytics」「Adobe Target」「Adobe Experience Manager」などAdobeの名を冠して、ユーザー便益/行為を明確にしているサービス群になっており、それらは一部を除いて同じロゴを使っていました。
 
ちなみに、「Adobe」の由来は川の名前なんですよ。そのことを知っている人は少ないですよね。つまり、名前の意味性にユーザーは関心がないということ。あくまでブランド認知のための記号なんです。
 
それで「名前をどうするか?」という思考をやめました。「認知記号+ユーザー便益/行為」という発想こそ勝ちパターンであると提案し、それを名称ルールにすることが決まりました。

名称変更のプロジェクトを開始した当初、「INITIAL」に統一する案もありました。なぜなら、INITIALはSPEEDAやFORCASと違って造語ではないため、間違えずに読むことができる。かつ、スタートアップ業界におけるINITIALの認知度が高いからです。
 
しかし、「スタートアップ業界での認知度の高さと戦略の話は別ではないか」「INITIALは造語ではないが、INITIALと言われて何のサービスかイメージできないのではないか」といった点が懸念点として残りました。
 
そこでSPEEDA、FORCAS、INITIALの検索ボリュームをそれぞれ調べてみたところ、一般用語としての「イニシャル」を除くと、SPEEDAの検索件数が一番多く、また導入社数も最も多い。認知度で選ぶのであれば、SPEEDAを認知記号にするのが合理的であるという結論に至りました。

菅原 弘暁

実は、SPEEDAのほかにもうひとつ候補に挙がっていた名称があります。「UB」です。社員はよく「ユーザベース」という社名を略して「UB」と呼んでいるんですね。それで、社名を「株式会社UB」にして、SaaSプロダクトを「UB〇〇」にする、(NewsPicksを除いた)マスター・ブランド戦略はどうかと。
 
この案の背景にあったのは、SPEEDA、FORCAS、INITIALをひとつに絞ることで、それぞれのブランドに愛着がある社員が離反することへの恐怖でした。自分たちにとって愛着のある「UB」を冠せば、プロダクト名称が変更になっても引き続き愛してもらえるのではないかと。しかし、振り返ればこれは安易な考えでした。
 
「SPEEDA」「UB」案それぞれについて、経営アドバイザーの方に壁打ちしてもらった際に、「顧客起点はどこに行ったんだ」と叱られました。確かに「UB」にはどんな意味があるか、社外から見たらわかりにくい。そこで顧客起点に立ち戻り、SPEEDAを採用することになりました。

なお、この名称変更のプロジェクトとは別に、ブランド統一後のミッションづくりのプロジェクトも同時に進め、顧客起点組織(スピーダ事業)のミッションとして新たに掲げることが決定しました。

スピーダ事業ミッション

スピーダ事業ミッション

「かっこよさ」より、顧客にとっての「わかりやすさ」を優先したロゴのカタカナ化

今回の名称変更では、名称がスピーダに統一されただけでなく、「SPEEDA」を「スピーダ」とカタカナ表記にする変更も行われました。
 
このカタカナ化の背景には、顧客から見た「わかりづらさ」がありました。
 
プロダクト名称をSPEEDAに統一するとして、SPEEDAの認知に伸びしろはあるのかも検討要素のひとつ。調査したところ、上場企業の経営企画部門のSPEEDA認知度は50%弱でした。

菅原 弘暁

15年間に渡って提供してきたプロダクトでこの数字は「決して高くない」「まだまだ伸びしろがある」と思いました。
 
また、このリブランディングが検討される前から、「スピーディア」「スペーダ」「スピード」など既存のお客様も含め読み間違えられることも多いという現場メンバーの声を聞いていました。「フリガナをつけた方がいいかも」と。
 
認知記号をSPEEDAに統一することに迷いはありませんでしたが、読めない人がいるということは、懸念に感じていました。そこで、「フリガナをふるくらいなら最初からカタカナにしよう」と提案しました。
 
その時点で、「かっこいい名称にしたい」というエゴや「社内メンバーが離反したらどうしよう」という不安は、すでになくなっていました。ユーザーにとって認知しやすい記号はなにか。国内展開に限れば、どう考えてもカタカナの方が認知が早いだろう、と。

プロダクトの統一とSPEEDAのカタカナ化は、取締役会の承諾を得たあと、2023年12月に開催されたUB DAY(※)で全社メンバーに伝えられました。ロゴ制作のため、アートディレクターの伊藤がプロジェクトに参画したのは、その直前でした。

UB DAY:四半期に一度、Co-CEOが全社に向けてユーザベースの現在・未来について語る場

伊藤 崇志

私がプロジェクトジョインしたときは、ロゴはアルファベットをメインに考えられていました。従来のような大文字のロゴとは印象が違う、シュッとしたロゴをつくりたいと思っていたところで、菅原さんから「カタカナのほうがわかりやすいよね」という話が出てきたんです。
 
それを聞いたとき率直に思ったのが「マジかよ」でした(笑)。この機会にさらにかっこいいロゴをつくりたいと思っていたのに、この人は何を余計なことを言い出すんだろうと。
 
でもいま振り返ると、カタカナでよかったと思っています。顧客起点で考えると、カタカナのほうが圧倒的にわかりやすい。見たまま検索すればいいので、マーケティング戦略としてもいいんだろうと思うようになりました。

2024年1月からカタカナロゴの制作を開始。1ヵ月に一度、佐久間とロゴ案のすり合わせを実施。Design Divisionからは、菅原曰く「わざわざダサいカタカナロゴ案が出てきて(笑)、何とかカタカナ化を諦めさせようという空気を感じた」とのこと。
 
そんな中、佐久間からデザイナーの気持ちを切り替えるひと言が飛び出したのです。

伊藤 崇志

3回目にロゴ案を提出したタイミングで、佐久間さんに「本当にカタカナ化が必要なんだ」と言われました。SaaS界隈でカタカナロゴをつくって成功すれば、みんながマネをしたがるはずだと。「ユーザベースが最初の成功者になって、みんながマネしたがる世界が私には見えている。第一人者になろう」。そう言われて、わくわくしたんですよ。
 
クールなデザインも捨てがたいけれども、いい意味でヤバいことができそうだと思いました。そこからカタカナ案に愛着が湧きましたね。

ここまでが、「認知記号」の話です。では「便益/行為」についてはどう決めたかというと、プロジェクトメンバーから具体案を発表し、事業メンバーからフラットな意見を募りました。サービス提供者の矜持ではなく、ユーザーにとってのわかりやすさを中心に考えることを共通の価値観にして、2ヵ月以上の時間をかけて、じっくりと協議・検討されました。

その結果、以下のプロダクト名称が確定しました。

2024年7月1日以降のプロダクト名称一覧

1秒でも早くお客様の役に立つために「ひと目でわかる、目立つものを」

今回名称を新しくした「スピーダ」で得たい認知は、「スピード」「顧客起点」「最先端」「テクノロジー」「経済情報の専門家」「信頼できるパートナー」「変革の触媒」の7つが挙げられました。
 
当初、2023年12月のUB DAYに向けてロゴのサンプル案をつくる際は、一旦7つすべてのキーワードを反映させようとチャレンジしましたが、本ロゴをつくる際には、これらのキーワードは意識から外したと伊藤。

伊藤 崇志

当初は7つの言葉を意識していたんですが、だんだんと「それじゃない」と思い始めたんです。ロゴに込めるべき感覚というか、印象のようなものがあるのではないか、と。
 
それをつかむために、これまでSPEEDA、FORCAS、INITIALがお客様にどう思われていたか、そこから活かすべき部分は何かを探っていきました。それを踏まえ、新しい「スピーダ」が、これからどう思われていくべきなのかを整理したんです。

ロゴに反映すべき印象を整理するにあたっては、顧客の感情などを知るために、お客様と接点のあるメンバーに話を聞きに行きました。そこで感じたことをデザイナーがまとめ、すり合わせを重ねました。

スピーダ事業のデザイン組織が何十ものロゴ案を壁に貼り出し、1つひとつ説明するのを聞いて、佐久間は「色じゃないかな」と言いました。そのとき、初めてロゴに対して「認知記号である『スピーダ』を覚えてもらうツール」としての機能が必要であることに気づいたと伊藤は語ります。
 
そもそも今回リネームするも公的は、認知記号をひとつにし、それを周知することでビジネス全体を伸ばしていくこと。であれば、記憶に残りやすいロゴであるべきだし、その文字がもっとも際立つほうがいい。
 
これを機にロゴの目的が言語化され、かつ、その目的こそ一番外してはいけないポイントだと考えるようになったと言います。

伊藤 崇志

今回のロゴで大切なことは何かと問われると、「明快さのある機能美」だと思います。とにかくわかりやすく、どれだけロゴとしての機能を果たせるか。確かに、得たい認知や印象、情緒的な部分も大事なんですが、それよりもまず機能面をクリアすること。そのうえで、ディテールで情緒性を担保していけばよいと思うようになりました。
 
そういう意味では、当初は「シンボルをつくる」ことに意識が向いていたと思います。たとえば「スピード」を表現するために宇宙一速い物質である光や、地球上で最も速い生物のハヤブサをモチーフにしてはどうかという議論もありましたね。そこから機能美を追求したロゴを考えるようになっていきました。

このプロジェクトを通して、ブランディングとは企業としての姿勢だと考えるようになったと語る菅原と伊藤。

菅原 弘暁

サービス提供者として顧客起点への転換を社内外に宣言している以上、顧客起点を貫くことがユーザベースにとっての最大のブランディングだと考えています。
 
1秒でも早くユーザーに認知され、1秒でも早くユーザーに貢献する。今回、名称を「スピーダ」に統一したのも、ロゴを変更したのも、すべてはそのためです。

「SPEEDA、FORCAS、INITIALとは何か」「その中で自分がほしいサービスは何か」をお客様に考えさせるのではなくて、「顧客企業分析」や「スタートアップ情報リサーチ」がひと目でわかる形にして、お客様が自分の求めているサービスをすぐ選べる状況にすることが大切なのです。

よいブランドは社員の行動を定義する

今回のリネームについて、先行して5月中旬に既存のお客様に通知を送っています。そこから得られた反応は、大半がポジティブなものでしたが、当然そうではない声もありました。

菅原 弘暁

一部、「ユーザベースらしくない」「洗練された印象が変わってしまうんですね」という反応もいただいていますが、これには堂々と「そうです。ユーザベースは、ユーザーのために変わるんです」と答えています。
 
なぜなら、ユーザベースの名に込められた「ユーザーの基盤であるサービスをつくり続ける」という根幹は不変であり、それを変えないためには、ビジネス環境に適応して、変わらなければならないと考えています。

伊藤 崇志

新ロゴに関して、既存ユーザーのデザイナーさんから「変えっぷりがすごい」「思い切りましたね」というポジティブな感想もいただいています。変わったと感じてもらうことがものすごく大事だと思っていたので、そう受け取ってもらえたのはよかったですね。
 
今回の変更にネガティブな気持ちを持っている人もいるとは思いますが、いろんなタッチポイントでスピーダに触れてもらうことで、ロゴのデザインや色にも少しずつ慣れてもらえると思っています。

菅原 弘暁

今後は、名称変更の効果を営業やCS(カスタマーサクセス)のメンバーに早く実感してほしいと考えています。そうなれば、自分たちのブランドにもっと自信を持つことができるはずですから。
  
いいブランドは、社内メンバーの行動を定義すると言われています。一例が、ディズニーランドやスターバックス。今回新しくつくったスピーダのブランドが、社内メンバーの行動を適切に定義できれば、みんなが顧客起点の行動を起こせるようになります。
 
プロダクトを通じても、CS活動やセールス活動を通じても、「この人たちは顧客起点の行動をしてくれている」とお客様に実感していただければ、ブランドはより強固になっていきます。

伊藤 崇志

ブランディングには社外向けと社内向けがあって、スピーダ事業のデザイン組織ではいま、社内に対して「スピーダアイデンティティ」をつくっています。
 
「スピーダらしさ」の指針となる言葉をつくって、スピーダらしい姿勢や振る舞いをメンバー個々が意識し、それがお客様に伝わることでスピーダのブランドが強くなればと思っています。
 
共通言語が生まれることで判断基準が明確になり、仕事がしやすくなります。今後こうした共通言語を社内に広げ、ブランドの物差しとして機能させていきます。

編集後記

ようやくお披露目できて嬉しいです! これまでの印象と大きく変わる今回のブランド統一プロジェクト。私もカタカナに変わると聞いて最初は驚きましたが、佐久間が「だんだん慣れます」と言っていた
通り、徐々に愛着が湧いてきました。新しい「スピーダ」、よろしくお願いします!

執筆:宮原 智子 / 編集:筒井 智子
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