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顧客起点でCS活動を行うために。データドリブンでカスタマーサクセスを実現するCS Ops

顧客起点でCS活動を行うために。データドリブンでカスタマーサクセスを実現するCS Ops

2024年1月に行われたSaaS組織の変革により誕生した、経営企画・金融機関・コンサルティングファーム支援 Domainでは、各事業部のカスタマーサクセス(CS)が統合しプロダクトの垣根を越えたCS活動を行っています。そのなかで新しく設置されたのが、1対n向けのコミュニケーションを実施するCS Opsチームです。CS Opsの目的や背景、何を実現しようとしているか、スピーダ事業執行役員の大沢遼平と、CS Ops Unitリーダーの河野衣里に話を聞きました。

大沢 遼平

大沢 遼平RYOHEI OSAWAスピーダ事業 経営企画・金融機関・コンサルティングファーム支援担当 執行役員

新卒で丸紅株式会社電力本部にて、豪州、米国のIPP事業(投資事業)を担当。 株式会社ユーザベースに転職し、SPEEDA(スピーダ経済情報リサーチ)のセールス、マーケティングを...

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河野 衣里

河野 衣里ERI KONO経営企画・金融機関・コンサルティングファーム支援 Domain CS Division Customer Success Team2 CS Ops Unitリーダー

大学卒業後、ヒルトン系列のホテルの宿泊部門で勤務の後、外資系イベント会社にてBtoBのビジネスマッチング事業でスポンサー企業に対しテレセールスを行う。双子の出産を経て、動画学...

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目次

CSが顧客と向き合うことに集中できる環境をつくる「CS Ops」

はじめに、CS Opsが何をする組織なのか教えてください。

河野 衣里(以下「河野」):
一般的にCSは、1対1で顧客に伴走して活用支援を行います。

それに対してCS Opsは、CSが行うOne to Oneコミュニケーション以外の、メールや電話、セミナーなど1対nのコミュニケーションを担当しています。1対1というハイタッチで活動するCSチームがしっかり顧客に向き合えるよう、環境整備や効率化を行うイメージですね。

1対nのロータッチな活動や、Techタッチを使って顧客支援をしています。Techタッチとは、たとえばスピーダを新たに登録したユーザーが、初ログインから基本機能を理解できるようにユーザーガイドを表示させたり、新機能をポップアップで通知したりするなど、人が介在しないCS活動の方法を指します。

どんな目的でCS Opsが組織されることになったんですか?

河野:
CS Opsができる前は、もともと「CS IS」という組織がありました。当時SPEEDA(現 スピーダ 経済情報リサーチ)の契約数は1,300件以上。それをCS10名ほどで担当する必要がありました。当然人数が足りず、お客様からアポイントをいただくのと、1社ごとにしっかりと入り込んでプロダクトの活用提案する活動がうまく両立できませんでした。

そこで、CSがお客様対応に集中できる状況をつくるために、契約更新の半年前にはCS ISからお客様とのアポ調整を行い、CSがお客様に活用促進をする期間が充分に設けられる状態を目指しました。当初は電話して初めて、ご担当者様が退職されていたことに気づくこともよくあり、まずは担当者情報を最新化するところから確認が必要でした。

このCS ISがCS Opsという組織に変わったのが、2023年7月のことです。この頃には定期的に顧客接点がつくれる状態になり、CSの組織も拡大し、契約更新半年前からCSが既に接点をつくれているお客様が増えてきていました。まだこちら都合のタイミングでの接点は多かったものの、先方の状況変化に気づくためのアラートも活用しており、コンタクトした際のご要望や特徴を記録して次に活かせるようにするなど、顧客起点の接点を意識した工夫もしていました。

ただ、これだけ接点を重ねてきた中で見えた課題が、顧客データの可視化でした。顧客接点の記録を残す習慣はある程度できていましたが、データ活用や分析を想定した記録の仕方ではなかったので、1顧客についてメモを見て状況把握はできても、全体または特定の属性の傾向や、1顧客あたりの平均接点数など統計に基づく分析ができない状況でした。

CS Opsとして役割を拡大させることで、ハイタッチな接点供給というIS機能だけでなく、より顧客起点な接点創出や顧客データ活用の仕組みを通して、組織やユーザーに貢献できればという思いから組織転換しました。

CS Ops 河野

データに基づき、適切なタイミングで顧客に最適なソリューションを提案

2024年1月から、CS OpsはCSから切り出されてCommunity Division内のチームになりました。その背景にはどんな意図があったんですか?

大沢 遼平(以下「大沢」):
CS Opsはハイタッチじゃない業務をすべて任されがちですが、それは機会損失だと思っていて。CS OpsはCS Opsで顧客分析をきちんとする必要がありますし、カスタマージャーニーに沿ってアクションを起こすことが求められます。お客様が増えれば増えるほど、この組織の存在意義は加速度的に増大します。

なので、あえてCSでハイタッチな活動に取り組んでいるチームからは独立させ、CS OpsだけでPDCAを高速で回しましょうということで、僕がリーダーを務めるCommunity Divisionに移しました。

ただ、Community Divisionにはコミュニティチームというのがあって、ここも同じように顧客分析をしていたんですね。どんなセミナーに参加したか、オフラインイベントに来てくれているか、メールを開封しているかといったデータを取っていて、CS Opsとだいたい同じ働きをしているので、だったら分析部分については一緒にやりましょうと。

その結果、コミュニティチームと協働しCS Opsは分析だけではなくて、セミナーを企画・運営できるようになりました。アクションまでできるようになったのは大きいですね。

そもそもCommunity Divisionという考え方自体が新しい試みなんですが、これは顧客軸の組織に転換したからこそだと思っています。

僕はINITIAL(現 スピーダ スタートアップ情報リサーチ)でCSをしていたんですが、SPEEDA(現 スピーダ経済情報リサーチ)にはSPEEDAのCSがあった。顧客軸の組織に転換するならCSを2つに分ける必要性がないんじゃないかということで、統合したという経緯です。

執行役員 大沢
CS Opsはデータドリブンのカスタマーサクセスを実現する組織だと思うんですが、具体的にどんなことをするのでしょうか。

河野:
まずはデータを集約するところから始めました。アカウント情報や利用状況、自社セミナーの参加状況といった顧客データが、いろいろな場所に散らばって追い切れない状況になっていたので、1ヵ所に集めてスコアリングの仕組みをつくったんです。

それに対してCSメンバーからフィードバックをもらいながら、どうしたらもっと使えるデータになるか指標を追加したり修正したりするだけで、顧客対応と両立しながら半年ほどかかりましたね。

ダッシュボード画面

ダッシュボード画面

河野:
他にも、CSの接点履歴や解約理由の記録など、CS全体としてこれまで徹底できていなかったけど、今後の顧客分析やCS活動に活かせるデータの蓄積に取り組んだり、CSに工数をかけずに記録が残せるよう模索したりしています。

データ活用に関しては、足下でできる取り組みとして解約分析や顧客モニタリングのサイクル構築を行っています。

解約分析では、解約理由を分析するだけでなく、リスク検知やリテンション活動においてCSやOpsとして今後改善できそうな点を話し合う場を設けています。これまでは、解約理由を記録として残していないケースが多々あったんですが、改善点の洗い出しなどに必要なことが分かってからは、ちゃんと入力されるようになりました。

また、顧客モニタリングについては、これまで契約更新半年前の顧客アプローチの中で、四半期毎に対象顧客を区切って集中的にアポイントを調整していました。本来は通年で顧客をモニタリングできる状況をつくり、全顧客の状況変化や年間スケジュールに合わせた接点を創出できるようになるのが理想です。今後に向けて、ひとつのシートでCS Divisionの全担当顧客の接点状況や、解約懸念度合いがモニタリングできる状態を、少しずつですが実現しようとしています。

大沢:
この辺りはINITIAL(現 スピーダ スタートアップ情報リサーチ)のほうが進んでいて、週次のメルマガの開封率やログインのタイミング、NewsPicksへの登録状況などが記録されたユーザー分析シートがあります。

それを見て、たとえば旧INITIALの活用率が高い人でNewsPicksへの登録が済んでいない人に、「NewsPicksに登録したほうがいいですよ」と案内することができる。 スピーダ 経済情報リサーチも早くそうした形に持っていきたいですね。

将来的には、「スピーダ 経済情報リサーチの活用状況はどうか」「一方のスピーダ スタートアップ情報リサーチはどうか」ではなく、たとえば大沢遼平という人がいて、その人がスピーダやNewsPicksをそれぞれどのように使っているか、全体が見られる形にしていきたいですね。

対談風景

顧客起点に転換することで「ユーザーの理想からはじめる」を実現

ここまで、実際に見えてきた成果や手応えはありますか?

大沢:
これまでCS Opsがアポイントの調整役をずっと担ってきた背景から、CS側から「アポ取り部隊」の印象が根付いていたので、これまでのCS担当との接点がどれくらいあるかによって、CSサイドで初回のアプローチから担当したほうがいいお客様と、CS Opsで対応したほうがいいお客様を切りわけています。

CSとの接点が取りづらく活用も進んでいないお客様はCS Opsで担当し、接点の数を増やすことにコミットするイメージですね。リレーションもあり、活用率も高いお客様はCSでアポイント調整からハイタッチに対応してもらっています。

とても地道で大変ではありますが、僕自身はこの取り組みをとてもいいものだと思っています。スピーダには数万人のユーザーがいて、これは国内のSaaSでも指折りの会員数です。しかも、僕らが支えているのは経営企画や経営戦略、事業開発、スタートアップ投資をする人たちです。

こうした人たちの行動は、これまで1つひとつヒアリングしなければわかりませんでした。それが、僕らが分析指標を整えていくことで、データに基づいてどんな行動をしているかが見えるようになっていきます。この過程はとてもエキサイティングですね。

行動が見えるようになれば、たとえばスピーダ 経済情報リサーチを使ってスタートアップを検索している人に対して、「スピーダ スタートアップ情報リサーチを使ってみてはどうですか?」と案内できるようにもなります。

顧客の行動によってコミュニケーションの取り方を変えるためには、ユーザベースのすべてのプロダクトを理解する必要があると思うんですが、プロダクト理解のためにどんなことをしているんでしょう。

大沢:
プロダクトそのものの理解よりは、お客様を理解することだと思っています。「お客様にとって、こういうことができるといいよね」であったり、「お客様がここにつまづいている」だったりをほかのメンバーに話すと、「それスピーダ スタートアップ情報リサーチなら解決できるよ」と教えてくれる。顧客のニーズを起点にインサイト的な視点も身につくものだと思っています。

対談風景
CS組織では既に顧客起点を意識して活動していた印象ですが、今回顧客起点組織に転換するという話を聞いたとき、どう思いましたか?

大沢:
「何が変わるんだろう?」と思いましたね。たとえば、スタートアップ投資をする人にはスピーダ スタートアップ情報リサーチを売るし、そうでない人には売らないんだから、そもそも顧客軸でプロダクトが分けられているわけで。

でも実際に組織転換を経て思ったのは、お客様のニーズに対してどのプロダクトを当ててもいいという発想自体、「自由」だなと思ったんです。

それまでスタートアップ投資をする人にスピーダ スタートアップ情報リサーチを提供することはしてきたものの、「どんな要素があれば、この人がスピーダ 経済情報リサーチを使ってくれるだろう?」とは考えていませんでした。

顧客起点組織になったことで、自分自身の発想の転換が起きた感じですね。ひとつのプロダクトに縛られず、今いるお客様に対してほかに何が提供できるのかを考えるようになりました。

河野:
私も顧客起点という発想にはすごく賛同しています。「ユーザーの理想からはじめる」という私たちのバリューの視点からもメリットがあると感じていて。

プロダクト軸で事業が分かれていた当時は、旧SPEEDAを使っているお客様に対し、旧FORCAS(現 スピーダ 顧客企業分析)からも営業が連絡をしてしまうこともありました。

こうした複数のプロダクトを使ってくださる可能性のあるお客様に対して、社内であらかじめコミュニケーションを取って、どのプロダクトを提案するのが最適か考えたうえで営業をすれば、お客様にご迷惑をおかけする場面も減っていくと思います。

未来への手応えは十分。データ分析で顧客体験を変えたい

今後どんなタイムラインで、どんな組織を目指しているか、教えてください。

大沢:
まず先ほど言った、「顧客Aさんがどんなサービスをどれくらい活用しているか」といった情報は、早く一元管理したいですね。2024年の年末に掛けて、まずはスピーダ 経済情報リサーチ、スピーダ スタートアップ情報リサーチ、その後はNewsPicksも、データを見える化していきたいです。

河野さんが言ったように、現状はデータが散在しているのですぐにデータ統合に動くことはできませんが、まずはオフラインイベントやオンラインセミナーなどを開催することで蓄積されたデータを活用していこうと考えています。

この点は、スピーダ スタートアップ情報リサーチで、INITIAL Circle(現 スピーダユーザーグループ勉強会)というイベントに何度も参加してくださる人は、プロダクト自体への愛も深まりロイヤリティが高まることが証明されています。実際に利用状況の改善にもつながっているので、同じことをスピーダ 経済情報リサーチでやれば、必ず結果が出てくるという手応えはあります。

未来への手応えを感じるなかで、その障壁になりそうなことは何ですか?

大沢:
繰り返しになってしまいますが、やはりデータ統合ですね。難易度が高いのと、全社的な話になるので、タイミングを見て進める必要があります。ただ、分析だけなら先ほど言った、イベントで蓄積されたデータだけでも活用していけます。それによって小さくてもいいので、早期に成功事例をつくれたらと思っています。

河野:
私はいいタイミングで組織融合ができたなと思っています。これまで顧客のヘルススコア(顧客の利用状況やエンゲージメントをスコアリングする仕組み)をつくってきましたが、セミナーやユーザー会の参加状況については、昨年まで開催頻度自体が少なかったことから各社であまり差がなく、結局は利用状況に偏ってしまうという課題がありました。

今後オンラインセミナーやユーザー会を増やして、きちんと参加状況を記録していけばデータも充実しますし、ヘルススコアとしても成り立つようになると思います。これまで接点の手段はアポイントしかなかったところが、ユーザー会やセミナーなどで補えるようになる点からも、Community DivisionやCS OpsがCSの1対1の伴走だけではカバーしきれない領域を補填できる組織になると思っています。

対談風景
最後に、今後に向けての意気込みを聞かせてください。

大沢:
いまのスピーダ事業には、今後も新しいことをやっていこうという雰囲気があるし、もう一度みんなで全事業に向き合おうというモメンタムが形成されています。そのなかで、もっともダイナミックに動いている組織のひとつがCS Opsです。

従来のカスタマーサクセスは、お客様のニーズを把握し、それに対してソリューションを当てていくのが主な業務でした。米国のカスタマーサクセス最前線では、それに加えてプレディクト(予想)するところまで来ています。

データログから、「この顧客はこんなデータがほしいのではないか」と予想したうえで提供をしていく。データドリブンでないとこんな動きはできないですよね。僕たちも今後まさにこれをやろうとしています。

長い道のりかもしれませんが、データ分析で顧客体験を変えるというおもしろい未来を描いていきたいですね。

河野:
実は7月から組織がまた少し変わり、CS OpsはCS Divisionに戻ります。背景はいろいろありますが、これまでCommunity Divisionとしてたくさんのチャレンジを重ね、セミナーの運営や解約分析、テックタッチの実装など顧客データの蓄積やコンテンツ拡充を進め、一定CS活動やユーザーに還元できる状態になってきたと思っています。

今後は開催するセミナーをユーザーに積極的に伝えナーチャリング活動に活かしたり、解約分析の振り返りで出たネクストアクションを顧客モニタリングの指標として取り入れたり、テックタッチの効果測定や改善でPDCAを回したり、よりCSと一体になって活動していくことにフォーカスして、本質的に顧客起点な組織になっていければいいなと思っています。

編集後記

CS Opsの前身であるCSISは、以前ナレッジシェアシリーズで記事化したことがありました。当時から2年経ち、さらに進化していて驚きました。ユーザベースでは組織変更も多いのですが、まさか取材後に所属組織が変わるとは(笑)。スピーダのリブランディングを経て、組織やオペレーションがものすごい勢いで変化していますが、引き続きユーザーの皆さまの経営のスピードを上げていきたいと改めて思いました。

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執筆:宮原 智子 / 撮影:落合 直哉 / 編集:筒井 智子
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