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スピーダ R&D分析で知財・研究開発領域の成長を後押しし、日本のものづくり復活の礎に

スピーダ R&D分析で知財・研究開発領域の成長を後押しし、日本のものづくり復活の礎に

2021年にリリースされた「スピーダ R&D分析」(旧「SPEEDA R&D」)。知財部門が抱える課題を解決することを目的に、スピーダに技術分野の情報を融合させたプロダクトです。「スピーダ R&D分析は、経営層と知財・研究開発部門の橋渡しとなるプロダクト。日本経済再成長のカギにしたい」。そう語るのは、知財・研究開発支援組織でカスタマーサクセス(CS)チームのリーダーを務める佐藤純平です。スピーダ R&D分析が実現しようとしている世界とは何か、じっくり話を聞きました。

佐藤 純平

佐藤 純平JUMPEI SATOスピーダ事業 知財・研究開発支援 市場開拓Division カスタマーサクセスチーム リーダー

大学卒業後、2011年より鉄鋼メーカーにて営業および営業企画としてキャリアを積む。営業としては国内・海外の総合電機業界や自動車業界を担当。営業企画としては、中期事業計画策定、...

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目次

知財・研究開発領域と経営の橋渡しとなる「スピーダ R&D分析」

はじめに、「スピーダ R&D分析」は、知財・研究開発領域のどんな課題を解決するサービスなのか教えてください。

スピーダ R&D分析は、知財部門が抱えていた課題を解決するサービスとしてリリースしました。知財の世界には「IPランドスケープ」といって、特許をはじめとした無形資産を経営に活用しようという概念があります。ですが、特許ばかり見ていても経営に資する提案や情報提供はなかなかできません。
 
国としても、特許だけでなく財務情報や経済情報も含めて総合的に分析し、企業の戦略に活かすことの重要性は認知しており、近年は政府主導でそうした動きも見られるようになりました。

こうした機運の高まりを受けて、スピーダとしても知財領域における経済情報活用を推進していこうというのが、スピーダ R&D分析が誕生した経緯です。

特許だけでなく経済情報も併せて捉えることが重要な理由はなんですか?

従来、研究開発の領域は「自分たちのコア技術はこれだから、この分野に注力して研究開発を進めていくんだ」と自社のコア技術を起点に強みを伸ばしていこうとしていました。
 
ですが、規制動向、社会動向、先進事例など世の中のトレンドを多角的に捉えたうえで「だからこの分野に注力するんだ」と説明できるほうが成功イメージがつかみやすいし、経営サイドも投資判断をしやすい。
 
ただ、技術者と経営サイドではそもそも使っている言語が異なります。技術者は知財・研究開発の文脈で話す方が多いですが、経営サイドはそれを理解することが難しいケースが少なくありません。

経済情報はビジネスにおける一般常識化している部分があり、テレビのニュースや新聞などでも「知っていて当たり前」のような感覚で取り上げられたりしますよね。一方で、特許や論文を読むことは一般的ではないので、経営サイドに「特許を読んでください」というのはなかなか難しい。
 
だから、まだ技術者側からのほうが経営サイドに歩み寄りやすいと思っていて、そのとき両者の言語ギャップを埋めるのがスピーダ R&D分析だというわけです。

とはいえ技術者の方が経済情報ニュースを見て、すぐに研究開発領域に結びつけられるものなんでしょうか。

難しいと思います。だからスピーダ R&D分析は技術を入り口にして、そこをつなごうとしているんです。たとえば、スピーダ R&D分析の機能のひとつに「特許動向」というものがあります。この機能を使えば、特許出願数の多い順に企業を並び替え、年次推移でヒートマップ化して、特定の技術領域に強い企業を可視化することができたりします。
 
こうしたヒートマップを見ると「こんな企業が出てくるんだ」という意外性に気づける。あとはその企業がどんな取り組みをしているか、ニュースの中から事例を集めたり、IR資料や有価証券報告書の中で、特定領域の研究がどんな位置づけにされているかをチェックできたりします。
 
そうすると、たとえばものすごい数の特許を出願しているのに、IR資料にはそれが一文字も出てこないような企業は、「出願は多いけれど、会社として目指している姿は別にあるんじゃないか」といったことが仮説として見えてきます。
 
このように技術を起点に経済情報に視点を誘導していくことで、気づいたら技術情報も経済情報も総合的に活用して意思決定をしている状態をつくるのが、スピーダ R&D分析の目指すところです。

「日本の製造業にはイノベーションが必要だ」

知財をはじめとする非財務情報の開示は政府も推進しています。佐藤さんはそうした動向を見て、知財・研究開発領域にどんな可能性を感じていますか?

そういう意味ではいま、歴史的転換点にいると思っています。私は前職で鉄鋼メーカーにいたんですが、もともと日本の基幹産業である製造業は、はじめは海外の真似をして、研究開発によってその性能を伸ばすという尖らせ方をしてきました。
 
かつ、製造技術を向上させてコストを下げ、しかも高い品質を維持することで「Japan is No.1」の状態をつくり上げてきたわけです。その製造プロセスは当然特許を取得していたんですが、20年が経過してその特許が切れてしまいました。
 
そうなると、今度は日本の技術が海外の製造業者から真似される立場になります。極限まで磨き上げた製造プロセスを海外に真似されて、かつ、より安い人件費で製造する分コストリダクションがかかり、日本は海外勢に勝てなくなっていく。こうした転換が起こった以上は、日本自身が新たにイノベーションを起こす必要があります。
 
昔はイノベーションといえば欧米から起きるものだったんですが、今度は先進国となった日本が起こさなけれならない。でもまだそこにたどり着けていないというのが、昨今の日本の立場なんです。

だからこの10年、20年、イノベーションを起こそうと言われ続けてきたんですね。それでもなかなかイノベーションが起こらないのはなぜなんでしょう。

さまざまな原因が言われていますよね。たとえば、イノベーションは既存の物事同士を組み合わせて新しい価値を生むものだと言われますが、日本は事業縦割り型の組織が多いので、事業の範囲内での研究開発しか進みにくい。オープンイノベーションでいろんな企業のシーズを組み合わせようと言われるのはそうした理由からですね。
 
あとは、本社と研究拠点の物理的距離ですね。日本は本社を東京に置きながら、研究拠点を関西など地方に置くケースがよくあります。経営と研究の物理的距離が遠いとコミュニケーションが生まれづらい、という問題がたびたび起きます。
 
経営側がたとえば新規事業を重視した戦略を掲げたとしても、研究側は自分たちがやりたい既存の技術領域を尖らせていて、新領域に関する研究は進まない。そんな物理的・心理的距離の問題を解決するサポートをするのがスピーダ R&D分析ですね。

オープンイノベーションの文脈で言うと、スピーダ R&D分析とスピーダ スタートアップ情報リサーチ(旧INITIAL)は一緒に語られることも多いですよね。

そうですね。両者に親和性があって、かつ技術のお客様にも価値があります。オープンイノベーションの文脈ではスピーダ スタートアップ情報リサーチが役立ちますね。
 
以前は10年、20年腰を据えて自社で研究成果を出せばよかったものが、世の中の回転が速まったいま、それでは他社にスピードで負けてしまいます。そこで、資金や設備をスタートアップに提供して、研究開発で出た成果を一緒に世の中にアウトプットしていこうという大企業が増えているんです。

草の根活動でスピーダ R&D分析の価値を伝え、裾野を広げる

IPRDには佐藤さんがリーダーを務める市場開拓の部門と、もうひとつ個社深耕の部門があります。それぞれどんな役割を担っているんでしょう。

個社深耕部門は基本的に、大企業の知財やR&D部門を対象にアップセルを行っていきます。担当する企業は大企業グループ総合支援組織(Large Enterprise Domain/LEND)とほぼ同じなので、連携することも多いですね。
 
一方、私が所属する市場開拓部門は、個社深耕部門が担当するお客様以外を広く担当しています。個社深耕部門が対象とするお客様と比較すると、経済情報の重要性をあまり意識されていないお客様も少なくないので、意識改革や啓蒙がより必要になってきます。

そうした中、CSとしてこれまでお客様の役に立てたと感じたエピソードがあれば教えてください。

技術者の皆さんが、経済情報に触れることへの抵抗感をなくしてほしいと思って活動をしています。

たとえば、最近こんなことがありました。担当しているお客様と一緒に、その企業の統合報告書を見ていた際、報告書に書かれている経営理念と、研究開発の注力領域が明らかにマッチしていないものがひとつあったんです。

それに対して私が、「皆さんがこの領域を研究開発の重点領域にして新規研究テーマにしたいのであれば、相当理論武装しないと経営側から却下される可能性が高いですよ」と伝えたところ、お客様から「おっしゃる通りです」と。

聞けば、統合報告書に載せるにあたって、自分たちが持つ技術を切り分けて分類をつくったものの、その切り分け方は悩んだ末の「苦肉の策」だったそう。「この統合報告書を見ただけでそこまで推測ができるんですね!」と言っていただけて、統合報告書を見る意味をわかっていただけたことが嬉しかったですね。

とても草の根的な活動をしているんですね。

そうですね。本当はセミナーなどで多くの方に啓蒙できればいいんですが、現在のフェーズはどんなお客様に、どんな訴求の仕方をすると響くかがようやく見えてきたところなんです。今後、勝ちパターンがもう少し明確になってきたら、セミナーなどでマスに広げることも可能になると思います。
 
私個人としてはこの状況を楽しんでいるんです。いまは、いわば高くそびえる崖にピッケルを打ち込んでいる状態。このルートで登れそうだとなったら、あとはひもを通してスルスルと登っていけるはずです。

勝ちパターンを探っている状態とのことですが、New Joiner(中途入社メンバー)のキャッチアップはどうしているんでしょうか。

まず、私たちのゴールは研究者や技術者と同じレベルで特許論文を理解したり、研究開発の内容について語ったりすることではありません。お客様が課題に感じていることや、よく使われるキーワードが理解できればいい。

なので、技術的なバックグラウンドがないと立ち上がりが難しいというわけではないですね。知財・研究開発にあまり明るくない方でも、キーワードを理解するハードルはそう高くはないかなと。ただ、急に専門的な用語が飛び出すので、技術領域に関する興味関心は絶対に必要です。
 
わからないことをスルーせず、どんな技術なのかをお客様や周りに聞いたり、あるいは自分で調べたりして、お客様が何をしたいのか耳を傾け、お客様の課題に向き合うことが大切です。

スピーダ R&D分析で日本のものづくりを再興したい

スピーダ R&D分析のユーザーが増えるとどんな未来が描けると思いますか?

失われた30年と言われますが、そうは言っても日本はまだまだ豊かですよね。中国や韓国との競争が激しくなったとはいえ、製造業は生き残っています。このポジションを維持できているのは、それだけでもすごいことだと思うんです。
 
さらに経営と技術が融合して、本当に必要な領域で研究開発が進んでいけば、新たな技術や事業が生まれるかもしれません。そんな世界ができれば、日本は本当にすごいことになる。ぜひその未来を見てみたいですね。
 
私は前職で鉄鋼メーカーの営業職をしていました。そこからスピーダ R&D分析の事業に参画したのですが、キャリアの軸は一貫して「日本のものづくりを再興したい」ということ。
 
大学時代、オーストラリアに留学をしていたんですが、日本人って海外に行くと自然と好かれるんですよ。授業でグループワークをしたとき、自己紹介で日本から来たことを言うと、「日本人すげえじゃん!」「かっけえ!」という反応があってびっくりしました。
 
なぜそう思うのか聞いたら、日本にはトヨタもホンダも日産もある。オーストラリアでも至るところで日本のメーカーの車が走っていると言うんです。パナソニックや日立もあるし、日本人はすごいものをつくる頭のいい集団なんだと。そう言われて、日本人としてとても誇らしくて。
 
そういう世界をもう一度つくりたい。そこにスピーダ R&D分析で貢献したいですね。

編集後記

2021年10月にリリースしたSPEEDA R&D。現在は今年7月のブランド統一によって、スピーダ R&D分析と名前が変わりましたが、この約3年でプロダクトも進化し、組織も大きくなった今の姿を取材できて、とても楽しかったです。

直近でもう1件、スピーダ R&D分析の取材をしたのですが、以下の関連記事に貼った事業責任者である伊藤の話と、本記事の佐藤やその取材を受けてくれたメンバーが、一貫して「日本企業が技術力でもビジネスでも勝てる世界をつくりたい」という想いを持ち続けているのが素晴らしいなと思いました(手前味噌ですが)。そのもう1件の取材記事も、近日公開予定です!

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執筆:宮原 智子 / 撮影・編集:筒井 智子
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