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クリエイティビティを支える内部統制──ユーザベースの挑戦的な監査アプローチ

クリエイティビティを支える内部統制──ユーザベースの挑戦的な監査アプローチ

カーライル・グループによるTOBに伴い、2023年2月に株式の非公開化を発表したユーザベース。そこから3〜5年以内の再上場を目指し、事業改革を推進しています。そんなユーザベースの事業を支える「軸」となるのが、ユーザベースの内部監査を担当するAssurance & Consulting Divisionです。監査人の目線で見たユーザベースの「いま」と「これから」、業務のやりがいについて、DivisionリーダーのJinny CheongとTeamリーダーの永平真子に話を聞きました。

Jinny Cheong

Jinny CheongAssurance & Consulting Division リーダー

韓国ソウル生まれ育ち。大学時代に大阪とロンドンで語学研修をし、大学卒業後には当時韓国で話題のIT企業に入社し、その後中国での中国語研修を経て、同じ会社の日本子会社にて勤務。I...

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永平 真子

永平 真子MAKO NAGAHIRAAssurance & Consulting Teamリーダー

公認会計士。大学卒業後、EY新日本有限責任監査法人にて主に会計監査に従事。業界としては工作機械メーカー、ゼネコン、百貨店等を担当。その後、国内CRO企業にて内部監査に従事。2...

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目次

コンサルティング業務も対応範囲となる、ユーザベースの内部監査

はじめに、ユーザベースの内部監査がどんな仕事なのか、教えてください。

Jinny Cheong(以下「Jinny」):
企業が効果的に活動を進めるためには、まず「統制環境」を構築する必要があります。会社がルールやプロセスを決めることを整備、それらを適切に運用することを統制と呼んでいて、この整備と運用状況をチェックするのが内部監査です。
 
一般的な監査は整備と運用の結果を見ることがメインになりがちですが、私たちAssurance & Consulting Team(以下「AnC」)では整備について助言したり、運用をサポートしたりもしています。

永平 真子(以下「永平」):
AnCはユーザベースが従業員1,000名未満だった頃から、監査での発見事項をフォローアップするために、内部向けのコンサルティング業務を実施してきました。現在のユーザベース規模の会社で、内部監査がこういった業務にも力を入れているところはあまりないと思います。

監査法人がする外部監査と事業会社の内部監査は、具体的に何が違うんですか?

Jinny:
監査法人による外部監査の対象となるのは、一般的には上場会社です。投資家はその会社が公開した財務諸表等を参考に投資をするので、公開情報は正しいものでなければなりません。それを第三者が保証するために、外部監査を行います。
 
一方、内部監査は財務諸表以外の部分を含め、幅広く確認する必要があります。たとえば、業務プロセスの効率化やコスト削減ができないかなども監査の対象になります。

内部監査の対象となる内部統制は、要するにリスク統制であり、会社はあらゆる活動をプロセスに分けたときの潜在的・顕在的なリスクを想定して統制を構築する必要があります。こうした統制が有効に機能しているかを見るのが内部監査です。

Jinny

Jinnyは海外在住のため、オンラインで参加

「プレッシャーがエキサイティングに感じる」戦略的TOBを選んだ会社ならではのおもしろさ

永平さんは前職で監査法人にいたそうですが、なぜ事業会社の内部監査に転職したんですか?

永平:
前職の監査法人では会計監査がメインでしたが、同時に数社を担当するので、関与の深さに限界がありました。年数を重ねていくうちに、事業会社に入ってコーポレートの仕組みに深く関与したいという気持ちが強くなったんです。
 
そんなときにユーザベースに出会いました。私が転職した2021年時点ではすでにある程度規模が大きくなっており、上場もしていましたが、リスク観点での課題はまだまだあるように感じました。
 
いわゆる日本の大企業とはカルチャーの面からも大きく異なることと、内部監査でありながらコンサルティング業務も経験できるので、やりがいがありそうだという印象を持ちました。複数の海外子会社の監査業務を経験できるというのもポイントでしたね。

Jinnyさんはなぜユーザベースに関与しようと思ったんですか?

Jinny:
2020年にユーザベースに関与する前はシンガポールにある監査法人で働いていたんですが、そのとき担当したのがQuartz(※)でした。当時、ユーザベースの内部監査で責任者を務めていた方が日本の別の監査法人で同僚だったこともあって、その縁で業務委託として参画した形ですね。

Quartz:米国の経済メディア。2018年にユーザベースが買収し、2020年に撤退

監査法人での経験を持つ2人から見て、現在のユーザベースの再上場に向けたフェーズのおもしろさをどこに感じていますか?

永平:
IPOをする場合、上場基準を満たすために、網羅的に社内の仕組みを確認していく必要がありますが、今回のような戦略的TOBを経た再上場となると、すでに会社の規模は大きいし、ステークホルダーが増えている状態なので、よりエキサイティングに感じます。

そういったプレッシャーの中で上場を目指して社内一体となって進んでいくおもしろさは、今のフェーズならではだと思います。

永平真子

Jinny:
上場は監査人にとって、例えるならば試験みたいなもので、スピード感をもって取り組まないと間に合わないんですね。それをチャレンジング、エキサイティングだと思える人は、向いていると思います。

なるほど。今2人からエキサイティングという単語が出てきましたが、ユーザベースの内部監査の仕事のどんなところが一番エキサイティングに感じますか?

Jinny:
大手企業の多くは一度整えられた仕組みがそのまま敷かれ続けていて、運用するうえでの変化もほとんどありません。監査も問題なく終わるケースがほとんどです。
 
一方で、ユーザベースのように毎年すごいスピードで変化する企業では、その変化に合わせて仕組みをアップデートしていく必要があるし、それに伴い改善点もたくさん出てきます。そこを直してもらうためには、担当者になぜそれが問題なのかを説明し、理解を得る必要があります。

変化がない分、前者は気楽で、後者は大変なんですが、おもしろさで言えば後者ですね。やることはたくさんあるんですが、その分エキサイティングに感じられるんです。

走りながら整備する。ユーザベースだからこそのスピード感

ユーザベースでは内部監査が統制の整備・運用のサポートをしつつ、監査もして上場を目指しているという話でしたが、これは一般的にはあまりないことなんですか?

永平:
そうですね。ただ、ユーザベースもデータ分析等を通じて監査できる状態に持っていってIPOをするのが目指すところですし、あるべき姿ではあります。
 
Jinny:
先ほどの試験の例でいうと、試験日までに勉強を仕上げて試験に挑むか、勉強しながら試験当日を迎えるかの違いですね。
 
試験日が決まったらそこから逆算して、いつから整備をするか、最適な運用期間としてどれくらいの時間を確保するかを検討しながら統制環境を整えていかなければならないんです。
 
監査では統制が整ったあと、どれくらい安定的に運用されたのかを見ます。なぜかというと、仕組みが変わったりシステムを入れ替えたりすると、運用の初期段階ではエラーが出ることがあるからです。システムを使ってみてエラーが出たら改善する。そういう期間が必要なんですね。

ユーザベースの場合、以前上場していたわけですが、今回の再上場では何が変わるんですか?

永平:
前回の上場のタイミングで一度整備した項目は、ガバナンスとして今も必要な項目だと思います。ただ、目指す市場によって必要な統制のレベルがより厳格になる可能性があります。
 
Jinny:
会社が上場したらそこで終わりではなく、整備済みの統制の継続と運用が必要なんです。マザーズ(現グロース)に上場していたときに統制ポイントを一通りクリアしていたとしても、その後変化が起きていたら、それに合わせて整備と運用を更新する必要があります。非上場後にもしその更新が止まっていたら、そこを改めて整備し直さなければならないんですよ。

審査項目はほぼ同じだけれど、ユーザベースは変化が早いから、そもそもゼロからルールを決め直さなければいけなかったり、そのルールの審査基準自体が厳しくなったりしていると。

Jinny:
そうです。たとえばマザーズ(現 グロース市場)上場のとき組織図をつくったんですが、その後で組織も変わっているので、プライム上場で同じものは使えません。ただ、会社を運営する以上、普段から組織図はつくっておく必要がありますし、実態に合わせて継続的に更新する必要があるんですね。

組織図はあくまでも例示でもちろん毎月更新していますが、これ以外の項目でも、現在の会社の状況に応じたアップデートがされていないようなものがあれば、それを洗い出し、現状に合わせて更新することから取り組んでいくつもりです。
 
ユーザベースは昔に比べたら統制レベルは上がっていると思います。昔は規模が小さかったから、データのやり取りはスプレッドシートでもOKでした。でも規模が大きくなるとスプレッドシートでは大変になるのでシステムを入れ始めます。
 
会社の規模が大きくなって、マニュアル統制をシステム統制に転換していく。それがスケールアップなんです。そうなると、マザーズより大きな市場を目指せるようになるけど、その分宿題も増えていくというわけですね。

全社の情報を網羅的に把握、監査の目線でコンサルティングを行う

かなり大変そうなイメージを持ったんですが、日々の業務はどんなスケジュールで動いているのか、永平さんの例を教えてもらえますか?

永平:
AnCでは、テーマ監査として四半期ごとにOKRを決めていて、それをチーム内でスケジューリングし、必要に応じてデータ分析をしたり、各所にヒアリングしたりしています。ヒアリングする部署は、オペレーションチームや法務、IT部門、労務が多いですね。
 
Jinny:
監査委員会の事務局、リスク管理委員会の法務を手伝う事務局、経営会議、あとはコーポレートのあらゆる管理部門と定例会議を持っています。その定例会議を通してOKR(Objectives and Key Results/目標管理手法のひとつ)をピックアップしていきます。
 
たとえば、固定資産台帳、システム台帳等のあらゆる業務から、期ごとにレビュー対象をピックアップして見ているんですね。その結果としてプロセスの再整備等につながるため、これはコンサル業務の一部といえます。
 
監査は、J-SOX法に基づいて内部統制監査を行います。業務の内訳でいうと、会議が1〜2割、内部監査が3割、残りがコンサル関係の業務ですね。

会議が占める割合が1〜2割とのことですが、いま聞いただけでもすごく多い印象です。

永平:
定例会議の頻度に差はありますが、毎月いろいろと議題は集まってきますね。
 
監査人は情報へのアクセス権が広い分、全社の情報を網羅的に把握しておく必要があると思います。たとえば労務とITで連携しなければいけない部分で相談がきたときに、それぞれの部署をつなぐことが大事だと考えています。

何か相談されたときに、監査の目線からこういう項目・こういう部門との連携が必要ですよ、とコンサル的な話ができるようにしておく必要があるんですね。
永平

「事業を支える軸」として、ユーザベースの自由さとクリエイティビティを伸ばしたい

再上場に向けて、今後どんな監査体制を目指していますか?

永平:
ユーザベースの企業規模が拡大してきたのは、自由なカルチャーがあって、スピーダやNewsPicksといったプロダクトが斬新かつクリエイティブだったからこそ、ユーザーの皆様に受け入れられてきたのだと考えています。そうしたクリエイティブな部分を伸ばせる、「事業を支える軸」となるような盤石な組織体制を目指したいですね。
 
Jinny:
実はいま、私の後任の方を探しているんです。私は海外に住みながら業務委託で働いているんですが、上場を目指すには、信頼性の観点からも内部監査の責任者は近場にいる正社員であることが望ましくて。
 
内部統制においては、百年企業が取り入れているようなベストプラクティスがあるんですが、それをユーザベースが今すぐ導入するのは難易度が高いです。後任の方に求めるのは、ベストプラクティスをわかったうえで、ある程度の妥協点を探せる目線ですね。
 
あとは自由なカルチャーを裏から支えること、ユーザベースのポジティブさを客観的な根拠に基づいてサポートできること。

ユーザベースのカルチャーは性善説で、それはいいことですが、現実にはうまくいかないこともあります。リスクに関して保守的に、チェックすべきことはチェックする。監査人だからこそ、皆さんと違う目線を持つ必要があると思います。

Jinny

永平:
監査人としてマネジメント層のやりたいことを理解することも必要ですが、監査人ならではの視点でリスクを見ていく必要があるのかなと思います。
 
Jinny:
ユーザベースの自由なカルチャーを支え、盤石な体制で再上場するために、コンサルできる部分はまだたくさんありますし、今後より精緻な内部統制をしていく必要があります。そのために、日々相談を受けたり、ヒアリングを行ったりしています。
 
しっかりとモニタリングできる体制があるからこそ、皆さんが安心して自由さやクリエイティビティを発揮できる。ユーザベースの事業を支える軸となってくださる方に、ぜひ入社いただきたいですね。

編集後記

普段あまり絡むことがないAnCの2人へのインタビュー。業務の解像度があまりない私に、試験を例にしながら丁寧に説明してもらい、だいぶ理解が深まりました!

それにしても、会議の数がめちゃくちゃ多いことにビックリ! 驚く私に2人は「そうですか?」と涼し気な顔(笑)。Jinnyさんがユーザベースを離れることは淋しいですが、後任の方にはぜひこのエキサイティングな環境を楽しんでいただきたいです。

執筆:宮原 智子 / 撮影・編集:筒井 智子
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