誰よりも強いプロダクト愛と当事者意識「NewsPicks CEOはこの人以外にいない」
文字 拓郎(以下「文字」):
2024年10月末頃、稲垣さん(稲垣 裕介/ユーザベースCEO)から、僕と池田さんに取締役会に出てほしいと言われたんです。その場で「NewsPicksのCEOを変えてはどうか」という提案があり、「次期CEOは文字さんに」という話になりました。
あまりに急な話だったので、一旦考えさせてくださいと。それで、池田さんと多摩川沿いを散歩しながら相談しました。その際、NewsPicksはメディア事業なので、メディア出身で経験豊富な池田さんのような人のほうが適任ではないか、もしくは僕と池田さんで共同CEO体制にしてはどうかと伝えました。
最終的にはCEOは僕が単独で務め、池田さんはコンテンツに集中するチーム経営の体制がいいのではないか、という結論に落ち着きました。
池田 光史(以下「池田」):
文字さんとは、このとき腹を割ってじっくり話したんですよ。人生において「CEO」になるチャンスなんてめったにない。5〜10%は自分にだってやってみたい気持ちはあると。でも僕はそもそも、「死ぬまでおもしろいコンテンツをつくりたい」という思いでNewsPicksに入ったんです。
自分の気持ちに正直に考えたし、単独CEOのほうがスピードが上がるだろうなと考えました。
そもそも、NewsPicks内の複数の事業をすべて自分事として見て、組織課題にもどんどん介入していく文字さんの課題解決能力は、ずば抜けているんですよ。誰よりも当事者意識を持っている文字さんこそ、CEOにふさわしい。
NewsPicksのプロダクトの責任者として、本当に隅々までアンテナを見ているんです。たとえば障害が起きると、いまだに真っ先に現場に現れます。アンテナの張り巡らせ方がすごいし、プロダクトに関してはあらゆることを知り尽くしている。
しかも「NewsPicks 法人プラン」など、NewsPicksの次の成長をつくっていく部分でもトップを走ってきた。NewsPicksがリリースされてからの10年の歴史を知っているし、誰よりもNewsPicksを愛していると思いますね。
全役員の事業解像度を上げ、強い経営チームをつくる
文字:
たとえば広告事業についてです。当時感じていた課題は大きくふたつありました。
ひとつは、組織が縦割りだったことです。NewsPicksは、それぞれの事業に思いがある人を信じる文化が強い反面、任せすぎてしまう傾向があるんですよね。その結果、僕を含め各役員はNewsPicksにとって大きな収益源である広告事業に対する解像度が低かった。「もっとサポートすれば大きくできるはずだ」と思いつつ、議論になるほどの事業理解ができていなかったんです。
もうひとつは、広告事業のリーダー陣の大半が兼務だったこと。広告事業をさらに成長させていくには、兼務を解消してコミットしたほうがいいというのが僕の考えでした。
これらの課題について、経営会議も含めて変えていくべきだと提案しました。
池田:
NewsPicksは、媒体としては特殊なPL(Profit and Loss Statement:損益計算書)になっているんですよ。一般的なメディアだと、広告売り上げと有料会員売り上げを分けて見ることはしません。でもNewsPicksでは、それぞれをグロースさせるためにPLを分けて見ているので、広告事業に組織課題があるのか、そもそも何が課題なのか僕も解像度が低かった。
そこで文字さんは、広告事業担当に限らず、NewsPicksの執行役員とほぼ毎日会話を重ね、役員全員の各事業の解像度を引き上げるチャレンジを始めました。NewsPicks全体で、役員全員が同じ強度で一緒に課題を解消していくチーム経営を目指して、スピード感を持って走り始めています。
文字:
新体制への移行が決まってから、とにかく会話量が増えましたね。体制が決まってすぐ、2回に分けて経営合宿(長時間のオフサイトミーティング)をして、来期予算や広告事業の解像度を揃え、来期の大まかな方向性を決めました。初回の合宿の最初に「いま感じている課題感はなんですか?」というアンケートを取ってみたんです。そうしたら、「組織の縦割りが気になっていた」という意見が一致して。
池田:
新体制の全役員が、自分の担当以外の事業の解像度を上げていくというコンセプトで取り組んでいるがゆえに、「組織横断でこんなことができそうだね」という話が出てきていますよね。
文字:
僕自身、当初は事業部が縦割りになっていることに違和感を覚えながら、いつしかその状況に慣れてしまっていたんですよね。
この2年ほど、いろいろ取り組んできてはいたんですが、新体制になってNewsPicks全体を見たとき、まず変えなければならないのはこの縦割り構造だと思ったし、合宿でみんな同じ感覚を持っているんだなと認識することができました。
もちろん、事業部制にすることのメリットも意味も当時はあったと思います。ただ、今の状況では過去の経緯にとらわれずにアップデートする必要があると考えました。
池田:
文字さんがメタ認知できているのは、お互いに何でも言い合える「コトに向かう」チームをつくってきたからだと感じています。言いにくいことも言い合うからこそ、自己認知をアップデートできるんだと思いますね。ユーザベースが大切にしている「オープンコミュニケーション」が体現されている感覚です。
あと僕から見ると、文字さんは権限委譲が苦手な人だったと思うんです。なぜなら、法人事業の担当役員になってからも、CTOはそのまま続けていたから。
でも、売上という数字責任を負ったことで、CTOとして見ていた景色とは違うアングルで事業が見えてきたのではないかと想像するんですよね。文字さん、どうですか?
文字:
CTOを続けていた理由はあるのですが(笑)、たしかに事業責任者になったことで見える景色は変わりましたね。そもそも考え方も、メンバーのモチベーションも全然違う。
CTOやプロダクトチームは、組織としては事業部を横断しています。事業部に対してコミットするプロダクトチームをつくるぞという気持ちは常に持っていたし、各事業にコミットしているつもりではあったんですが、当事者として事業を運営するのと、外から関わるのはやはり違う。いざ事業側に回ってみると、それまでとは違う景色もたくさんあった。事業側の知識を得たうえで全体を見たことで、考え方が変わりました。
メディアプラットフォームとしての価値を高め、スピーダとのシナジーを生み出したい
文字:
今後スピーダはさらに「AI化」が進んでいくと考えています。いまスピーダが持っているデータのほとんどが定量データです。NewsPicksはそこに信頼性の高い定性データを提供して、スピーダの価値をより高められると思っています。
定性データとは、たとえばNewsPicksの記事やコメント、トピックスの記事かもしれません。スピーダのエキスパートリサーチと連携して、NewsPicksの記事に対するコメントをエキスパートの方々に書いていただくことで、逆にNewsPicksの価値を高めることもできるはずです。
そこで得た定性の価値をスピーダに提供して、エキスパートリサーチの価値をより高めるというサイクルを回すこともできます。
こうした動きを加速するために、NewsPicksとエキスパートリサーチ事業を担うMIMIRのメリットを一致させるスキームを、経営レベルでつくっていく必要があります。この点については川口さん(川口 荘史/上席執行役員 エキスパート事業統括)とも話し合ったんですが、一定の手応えを感じていますし、ワクワクしています。
池田:
今の話は、NewsPicksが極めて高品質な定性的情報を発信するサービスであることが前提ですね。
今後スピーダとのシナジーを高めることで事業成長を目指していくのであれば、一層情報の品質向上に集中できる。僕のCMOとしての管掌範囲に集中して、オリジナルコンテンツやコメント、トピックス、パートナーシップなど、より品質の高い情報を集めていきたい。
池田:
そういう意味でいうと、NewsPicksの役員陣は自分の出自以外の事業部も経験している人が多いんですよね。僕も文字さんもそう。NewsPicks編集長の佐藤留美さんも、以前はコミュニティを管掌していました。もともと雑誌の編集長が長かった金泉俊輔さんも、未経験の領域だった動画を扱うNewsPicks StudiosのCEOにチャレンジしています。みんなそれをポジティブに捉えて、かつ成長していく環境があるんですよね。
一方で、メンバーひとりひとりには、創業以来ジョブ型の採用で、事業をまたぐ異動はとても少なかった。でも今後はもう少し組織を横断して、幅広くいろいろな仕事を経験してもらえると、より視野が広がると思います。それこそ、CTOをやりつつ事業を見ることで考え方が変わった文字さんのように。
たとえば最近だと、NewsPicks編集部から編成に異動したメンバーがいるんですが、編集部にいるときに編成の仕事を知っていたら、もっといい仕事ができたかもしれない、と話していました。
僕自身も昨年は、文字さんから引き継いでプロダクトの意思決定をしていますが、死ぬ気でキャッチアップしているからこそ見えてくるものがある。「どんなコンテンツがあれば、よりうまくサービスを設計できるか」と逆算した発想を持てるようにもなった。本当に、誰もが視座を上げる経験をすることができる。
異なる経験を積むことで、メディアというサービスを複眼で見られる人が増えていくのは企業としての競争力にもつながります。NewsPicksは特に、あらゆる職種がフラットだし、他のメディア企業に比べて複眼的思考が身につきやすい環境だと思います。
池田:
2023年に文字さん、当時のCo-CEOの佐久間さん(佐久間 衡)と3人で「新しい視点を集めて、経済の未来をひらく」というNewsPicksの新しいカンパニー・ミッションを策定しました。そのとき考えていたのは、NewsPicksは「経済を、もっとおもしろく」するものであると同時に、「未来をつくるため」に存在しているサービスであるということです。
そうした意味では、2024年は未来に向けて、いい兆しが見えた年でした。
創業した頃のNewsPicksが、当時まだ経済の主役ではなかったテスラやUberを早くから“一面トップ”で特集を組んで取り上げてきたのは、こうした企業がいずれ未来をつくっていくだろうと思ったからです。そしていま、これらのプレイヤーはすでに世界の主役になった。
TVや新聞といった伝統メディアがスポットを当ててこなかったプレイヤーがこうしてスケールしている現実や、2024年に行われた日米の国政選挙をYouTubeやポッドキャストなどのパーソナルメディアが動かしたことを考えると、僕らにしかできない、本当の主役に光を当てていくことの大切さを、改めて問われていると感じます。
実際に、NewsPicksでしか見られないオリジナルのコンテンツが、きちんと数字でも結果を出している。自分の足で稼いだ一次情報をもとに、「本当はこれがおもしろいんじゃないか」と光を当てていくこと。僕たちは引き続き自信をもって、こうした自分たちの得意な領域に集中していきたい。
文字:
メディアは50年、100年と長く続けないと世の中を大きく変えられないと思っています。これまでNewsPicksがしてきたことはとても価値があることだと思っていますが、「それを続けていく」ことも、とても重要。新しい視点を提示し、挑戦し続けるサービスでありたい。
持続的にサービスとして発展し続けるには、時代に合わせたアップデートが必要です。これに関してミッションに紐づけて言うと、NewsPicksを未来のきっかけを生み出す「共助の空間」として進化させていきたいと考えています。
SNSをはじめとする情報空間にどんどんノイズが入り、昨今は真偽がわからない情報があふれています。ニュースは重い、苦しいと感じる人も増えて、世の中の変化を真っ直ぐ見つめるのはつらい時代になりつつある。僕が思うに、今後どこかのタイミングで改めて「信頼できる情報」の価値が高まる時期がくる。
そのとき、信頼できる人が信頼できる情報をやり取りし、助け合う「知的共助の空間」をプラットフォームとして提供できれば、NewsPicksはこの時代にとても意義あるものになると思っています。
編集後記
NewsPicksの新経営体制の話を聞いて、すごくワクワクしました。CTO出身の文字がNewsPicks事業CEOになるのもユーザベースらしいなと感じます(ユーザベース代表の稲垣もエンジニア出身)。スピーダとのシナジー創出は以前から話題に上がっていたので、いよいよ始まるんだなと感慨深いです。インタビューで実際にどんな構想があるのかを聞いて、さらに楽しみになりました!