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自己開示から始まる心理的安全性。個の力を組織の力へ──NewsPicks Studios 川口あい

自己開示から始まる心理的安全性。個の力を組織の力へ──NewsPicks Studios 川口あい

ユーザベースの多様なリーダーに光を当てる企画、「Diversity Empowermentシリーズ」、今回はNewsPicks Studios クリエイティブチームのリーダー、川口あいです。今回は、2021年に女性活躍をテーマにした「NewsPicks for WE」というプロジェクトを立ち上げた川口に、自身のリーダー観やユーザベースにおけるDEIBの取り組みについて、じっくり話を聞きました。

川口 あい

川口 あいAI KAWAGUCHINewsPicks for WE編集長

昭和女子大学大学院文学研究科修士課程修了。小学館クリエイティブ、ハフポスト日本版等を経て現職。NewsPicks Studiosにて、動画を中心としたスポンサードコンテンツを...

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目次

ゼロからチームも業務ルールも構築

川口さんがはじめてリーダーを打診されたとき、どう思いましたか?

前職のハフポストでリーダーをしていたこともあり、NewsPicksに入社する際もリーダー職が前提での採用ではあったので、すんなりと受け入れました。
 
当時はNewsPicksの広告事業のチームに所属しており、その下のユニットとして20〜30人規模のクリエイティブチームがありました。そのなかのユニットリーダーに就任したのがユーザベースでのリーダー業務の始まりです。

NewsPicks for WE川口あい
ユーザベースで実際にリーダーをやってみて、いかがですか?

現在はNewsPicks Studiosのクリエイティブチームのリーダーをしているんですが、基本的にNewsPicks事業部のリーダーは大半がプレイングマネージャーです。プレイヤーとリーダー、それぞれのバランスを取るのがすごく難しいなと思いますね。
 
特に、2021年にNewsPicksの広告事業からNewsPicks Studiosに異動した当時は、セールスのメンバーを合わせても私を入れて4名ほどの小さな所帯で、チームそのものをゼロからつくっていかなければいけない状態だったんです。
 
そこからプロデューサーやエディターがジョインし、制作チームを組成して、NewsPicks Studiosの広告動画を制作する手順まで含め、自分たちでルールを構築していきました。すでにあるチームに入ってリーダーになるのとは異なり、自分たちでチームをつくる大変さがありましたね。

細い枝から「太い幹」へ。産休・育休がもたらしたマネジメントの変化

ゼロからチームを立ち上げて、チームリーダーとして忙しい日々を送るなか、産休・育休を取得しましたよね。

はい。この産休・育休前後で、周りから「変わったね」と言われることが増えました。特に、金泉さん(金泉 俊輔/NewsPicks Studios CEO)からは「復帰後のほうが迷いがなくなった感じがする」と。
 
私は割と小さなことが気になってしまう性格で、以前はトラブルを未然に防ぐために引き締めの強いマネジメントをしがちだったんですね。でも、産休・育休復帰後は信頼できる人に業務を任せて、チーム全体で調和を取ることを心がけるようになりました。
 
その様子を見た金泉さんに、「細かった幹がどんどん太くなっている」と言ってもらえて。「根を張る強さが感じられるから、そのまま成長していけばいいんじゃない?」と言われて、とても嬉しかったです。

NewsPicks for WE川口あい

確かに子どもが生まれてから、限られた時間のなかでクオリティを上げるためには、ひとりでは限界があることを痛感したし、周りへの頼り方も学びました。いまあるリソースで目標に対してどう進んでいくかを以前より考えるようになったことは、自分でも大きな変化だったと思っています。
 
ちなみに産休・育休に入る前、正社員から業務委託になって働いていた期間がありました。不妊治療をしていたこともあり仕事に対して迷いがあって、プレイングマネージャーの「マネージャー」の部分から一度距離を置きたいと思ったんです。
 
この期間、当時の業務を抜本から見直して、とにかく自分のやりたい仕事だけに振り切ったことで、働く女性を支援するプロジェクト「NewsPicks for WE」の立ち上げに成功したと思っているので、振り返ってみて業務委託として働いてみてよかったと思っています。
 
産休・育休から復帰したときも業務委託だったんですが、それだとどうしてもプロジェクトベースでの関わりになってしまいます。それよりも、チームで取り組むほうが大きな仕事ができるし、より高い目標に向かえると思うようになりました。かつ、いまのメンバーなら、もしも子どもに何かあって私が仕事を抜けることになっても安心して任せられるなと。
 
社員として復帰して、リーダーとしてチームを大きくしてNewsPicks Studiosの成長に貢献したい」と金泉さんに伝えたら、背中を押してくれました。

リーダーシップの格言で「早く行くなら一人で行け、遠くへ行くならみんなで行け」というものがあります。業務委託のときは、立ち上がったばかりのNewsPicks for WEで実績をひとつでも積み上げることにとにかく必死で、「早く行くなら一人で行け」という考え方でした。

でも、ライフステージも変わり、限られた時間のなかでより大きな成果を出すには、仲間にも頼りながら「遠くへ行くならみんなで行け」という考えが重要だと思うようになりました。

ワークライフバランスをどうとっていますか?

育児は夫と半々に分けています。自分が育児をしながら仕事にコミットしてパフォーマンスを出せているのは、夫が私と同じだけ家庭や育児を担ってくれているからですね。
 
リーダーには裁量があるので、たとえば子どもが発熱した場合などのミーティングのリスケは調整しやすいんですが、逆にメンバーのフォローで緊急で稼働しないといけないときもあるので、ワークライフバランスについては常に難しさを感じています。
 
時期的に忙しい時期や緊急のときはバランスが崩れることもありますが、夫やシッターさんにお願いしてなんとか乗り切っています。

「できない」「これが苦手」を共有できる組織づくり

リーダーとしてうまくいかないときはありましたか? そのときをどう乗り越えました?

ピープルマネジメントも合う・合わないがあるし、同じ職種でも理解度が違うので、うまくいかないことだらけです(笑)。そういうときはとにかく周りに頼りますね。同じチーム内のユニット リーダーに任せてみたり、他チームの人に相談したり。 
頼るときは、「これができない」「うまくいかない」と、足りていない部分を自己開示することを意識しています。

メンバーと対話するときに意識していることはありますか?

まず聞くこと、受け入れること。つい自分の話をしてしまいがちなので、言いたくなるのを一旦こらえ、メンバーの話すことを受け止めて、一緒に考えるようにしています。うまくいかないことも多いですが、やろうとはしてみています。
 
いまはチームメンバーが増えてきているので、定期的なメンバーとの1on1はユニットリーダーに任せつつ、私はユニットリーダーとの1on1で状況をキャッチアップするようにしています。
 
ユニットリーダーに対しては、メンバーと1on1するときは個々の業務内容や、カーブアウトを経て転籍してきたAlphaDriveのメンバーが、ちゃんとカルチャーフィットできているかを特に気にして見てもらっています。
 
とはいえ、私自身もできるだけメンバーと1on1する時間を持つようにしており、特に異動してきたメンバーや環境の変化が大きいメンバーは、しばらくは細かいペースで会話したり、時にはオフラインでも話す場を設けたりするようにしています。また、フィードバックやゴールセッティングの時期には、将来の話をする機会にしようと心がけています。1on1はどうしても目の前の業務の話になりがちなので、来年のこと、10年後のキャリアをどうしていきたいかを話すようにしたいな、と。
 
これからライフステージの変化を迎える世代のメンバーが多いので、今後のキャリアについて考えたり悩んだりする人もいて。そういう話をする機会を意識的につくっていければと思っています。

NewsPicks for WE川口あい
川口さんは、自身の10年後をどう描いていますか?

これまで目まぐるしく動いてきた人生だったので、5年後、10年後に向けての中長期の目標って立てたことがなかったんですよ。子どもが生まれたタイミングで、初めて中長期の目標を立てました。
 
私は比較的高齢出産だったので、子どもが中学1年生になる年に50歳になります。そのタイミングで2人でヨーロッパ1周旅行をしたいんです。いまはそれに向かって、お金を貯めて、英語を身につけて、あとはちゃんと歩けるように筋トレをしようと。
 
そのためにも、今は全力で仕事をがんばりたいですね。いろいろあったけど、今は迷いなく突き進んでいる感じがします。2030年頃まではこのまま走り切って、会社の成長に寄与したいと思っています。

多様性が生む事業成長。「異能は才能」はユーザベースの強み

ユーザベースのDEIBについてどう思いますか?

私がユーザベースのThe 7 Valuesの中で一番好きなのが「異能は才能(We need what you bring)」なんです。この言葉はすごくユーザベースらしいと思うんですよね。人と違うことをよしとするのが魅力であり、それが強みになって仕事につながっていく。この考え方こそ、私がユーザベースに対して帰属意識を抱く一番の要因です。
 
ユーザベースでの私自身のDEIBに関する活動でいうと、前述の通り、2021年から女性活躍をテーマにした「NewsPicks for WE」というプロジェクトを立ち上げました。女性のキャリア形成に寄り添いエンパワーすることを目的に、ゼミやイベント、Podcast、コンテンツ配信など、さまざまな活動を行っています。

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当時、2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げるという政府目標があったんですが、それが達成されず、いつのまにか「2023年までには達成する」と先送りされていたんです。
 
しかも、世界における日本のジェンダーギャップ指数が低く、G7で最下位。教育や健康分野では世界トップレベルなのに、政治・経済の部ではかなり低迷していました。それを考えたとき、経済情報を扱っているメディアとして、やらなければならないことがあるのではないかと思ったんですよね。
 
もうひとつ、私自身、30代前半で離婚をして、専業主婦から再びキャリアを構築するうえで、いろいろな困難を経験したという原体験があって。同じ思いをしている女性を減らしたいという思いもクロスして、for WEの活動を立ち上げるに至りました。
 
for WEでは、2025年3月5日に「WE Change Award」というアワードを初開催する予定です。別の媒体でもさまざまなアワードが開催されていますが、NewsPicks for WEでは「次世代の女性リーダー発掘」をテーマに置きました。

https://forwe.newspicks.com/

裏テーマは「Googleで検索しても出てこない人を探す」。すでに活躍する女性リーダーや企業ではなく、「次」に注目される女性リーダーを発掘して光を当てたいと思っています。
 
なぜなら、みなさん成功事例を求めているというよりは、「女性活躍に関してこんな活動を頑張っているよ」というリアルタイムの情報を欲しているように感じるからです。そういう人たちが横につながって、業界や会社の垣根を超えて一緒に女性活躍に取り組むことこそ、DE&I推進だなと思うんです。
 
エントリーは自薦・他薦で募っているんですが、女性リーダーからは自薦も多くいただいています。「自分が経験してきたことを次世代に伝えてエンパワーしたい」という方が多くて、未来は明るいなと感じています。

DEIBに取り組むメリットはなんだと思いますか?

同質性は意思決定を鈍らせますし、いろいろな意見があったほうがプロダクトもサービスも磨き込まれますよね。多様な力があってこそ、事業も組織も成長するし、スケールすると考えています。

たとえば、NewsPicks Studiosはユーザベースと電通の合弁会社なのですが、電通チームの人たちは会社の規模もカルチャーも違うのでときに意見が入れ違うこともあります。でも、お互いに結果だけを重視して率直に話し合うので、クロスボーダーな発想に繋がったり、より良いクリエイティブが生まれたりしています。

私は個人的にも、心理的安全性がある組織のほうが自分の能力を発揮しやすいと思うタイプなので、リーダーとしてそういう環境をつくるように心がけたいと思っています。

NewsPicks for WE川口あい

これからの日本は、子育てや介護、自分自身の病気など、みんなが何らかの事情を抱えながら働くことになると考えています。そうなると、「男性がフルコミットで働き続けること」を前提とした環境を変えていく必要がありますよね。
 
私はどちらかというと前のめり気味に働いてしまうタイプなんですが、それを推奨しているわけではないですし、持続可能ではないので自分自身でもやりすぎないように気をつけています。子どもの病気などで急に休むこともありますし、メンバーもさまざまな事情を抱えて働いていますから、パズルの組み合わせのように組織全体を運営していく必要があると思っています。
 
マッチョな働き方だけがよしとされていた世代を私たちで終わらせるためにも、自分がフィルターとなって下の世代に「渡すバトン・渡さないバトン」を決める。それをするのがいまの中間管理職のあり方ではないかと思うんです。
 
働き方を変えることは、もちろんストレスを伴います。私の場合、グチったり、おいしいお酒を飲んだり、子どもを愛でているうちに時間が解決してくれるかな。「よくないモードが続いているな」と思ったら無理にあがこうとせず、「こういうときもあるよね」と何とか乗り越えています。

私にとってのDEIB

『多様性の科学』(マシュー・サイド、2021年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本がすごくおもしろかったですね。

「CIAが9.11を防げなかったのは、当時CIAは職員の人種、民族性、性別などが画一化されていて、ビン・ラディンはじめ中東の人たちの考えが見抜けなかったからだ」とか、「あるパーティーがエベレストで遭難したのは、遭難の聞きを察知したメンバーがリーダーに進言できず重大なインシデントにつながった」という話がエビデンスベースで描かれています。
 
すべて組織の話として捉えられるものだと思い勉強になりました。
 
チームのメンバーを採用するときもダイバーシティは意識していて、まずはジェンダーバランスをベースに考えたいと思っています。職種的にもどうしても男性に偏りがちになるので、採用サイトの見せ方や文言をやわらかく表現したり、採用プールに女性を入れるようにしたりする努力は怠らずにやっていきたいと思っています。

NewsPicks for WE川口あい

編集後記

川口のインタビューは今回が3度目。最初は個人インタビュー(下記参照)、2回目は記事内にリンクを貼ったfor WEのインタビューです。彼女とは同期入社なので、普段からよく飲みに行くし、いろいろな話をたっくさんしてきたけど、今回のインタビューで改めて彼女のDEIBやfor WEにかける想いを知り、私も「もっとやるぞ!」とパワーをもらいました。3月のAWARDも楽しみです!

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執筆:宮原 智子 / 撮影:井上 秀兵 / 編集:筒井 智子
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