サポートデスクの仕事は「答えがない問題に寄り添う」こと
サポートデスク組織は、まず担当するプロダクトによってふたつに分かれています。私が担当しているプロダクトは、スピーダ 経済情報リサーチ(旧SPEEDA)・スピーダ スタートアップ情報リサーチ(旧INITIAL)・スピーダ R&D分析の3つ。もうひとつは、スピーダ 顧客企業分析とスピーダ 営業リサーチ(いずれも旧FORCAS)を担当する組織です。
私が所属する組織は、さらにサポートデスクチームとプレミアムサポートチーム、エフォートレスエクスペリエンスチームに分かれています。エフォートレスエクスペリエンスチームは、スピーダのFAQやサポートデスクへの動線づくり、ユーザーが問いを自己解決できるようなコンテンツづくりをするチームです。
プレミアムサポートチームはメンバーが3名。もともとは、全員サポートデスクチームにいて、そこから枝分かれした形です。
顧客に向き合うという点は共通しています。そのなかで、サポートデスクとCSの違いは「顧客の属性」、サポートデスクとプレミアムサポートの違いは「顧客とのかかわり方」ですね。
サポートデスクやプレミアムサポートが向き合うのはスピーダのユーザーですが、CSが向き合うのはスピーダ導入の意思決定者の方が中心です。
また、サポートデスクがチャットやzoomでのスポット型の問題解決を試みるのに対し、プレミアムサポートは平均3ヵ月程度のプロジェクトを組成して、中長期的に問題解決を行います。
サポートデスクとプレミアムサポートの共通点は、ユーザー自身が能動的に情報収集できる状況を目指して、調査活動の内製化支援を目的としている点です。調査活動を外務委託するサービスではない点が、他社におけるコンサルティングサービスとの違いですね。
CSとは連携しているので、もしもCSに問い合わせがあったとしてもサポートデスクに回してもらったり、CSから「次回からサポートデスクへ直接お問合せください」と伝えてもらったりして動線を整理することはあります。
CSは1対多のレクチャーになるので、ユーザー個々のニーズに合わせることがどうしても難しいことが多いんです。スピーダにはたくさんの機能がありますが、オンボーディングの1時間でお伝えできるのはほんの一部。例えるなら、デパートのなかにいくつフロアがあって、どんなお店が入っているかを把握できる程度なんですね。
サポートデスクの仕事は「そのお店で何を買えばいいか」を伝えること。資料をどうつくればいいのか、他社がつくる資料と比べて自社の資料はどれくらいのレベル感なのか、1対多のレクチャーでは聞きづらいことを質問いただくシーンが多いですね。

生成AIの浸透によって、近い将来、人が担う範囲は「問題設定」や「解決の方針立て」「品質レビュー」が中心になっていくと言われています。情報の収集と成果物の作成は、いずれテクノロジーに移行していくかもしれません。
実際に、現状テクノロジーを使った解決はエフォートレスエクスペリエンスチームが担っています。たとえば、ユーザーがスピーダの画面上で操作に迷ったタイミングをキャッチして、FAQを表示させるといったシステム化を進めています。
これまでユーザーに評価されてきた「早く確実に届ける」ことはAIが代替するようになるはずです。
我々としても、ユーザーの悩みは「速く確実に情報を得たい」以外にもあると考えています。たとえば、「そもそも何がわからないか、わからない」というユーザーも一定いるんですよね。そうしたユーザーの中には、サポートデスクへの問い合わせボタンをクリックするのも躊躇してしまう方もいらっしゃいます。
また、問い合わせしたとしても、こちらが的確な質問をしてユーザーの「わからないこと」を紐解くことができなければ、ユーザーが抱える問題点の本質を捉えられず、解決につながらない。ひいてはスピーダの利用時間低下や解約率の増加につながってしまいかねません。
サポートデスクを利用した方のアンケートに「スピーダ内に情報はなかったけれど、そもそもないことがわかってよかった」「自分がどのような悩みを抱えているかが整理された」という回答をいただいたことがあります。これはつまり、スピーダの機能による解決策の提供だけが、顧客満足度を高める手段ではないということですよね。
問題解決にあたって必要なステップを指し示すことに意義があるのであって、「答えがない問題に寄り添う」ことがポイントになるのではないかと思っています。
求められるのは「問題解決型」の支援
ユーザーは目の前の困りごとが解決するかどうか、不安な感情で問い合わせをしてくださっています。
自分に置き換えてみても、病気の原因がわからない状態や、PCが故障してその原因がわからない状態はとても不安ですよね。問題が解決しなかったとしても、病名がついたり、故障原因がわかったりと、解決の方針が見えるだけで人は安心できます。
サポートデスクメンバーの職業としての競争優位性は、さまざまな企業のリサーチ業務における問題解決事例をたくさん知っていること。どのような経営課題を抱え、どう解決したかを蓄積し、ユーザーにそれらの事例を提供することで、不安の解消につなげています。
たとえば肌荒れができて皮膚科に行ったとき、あまり問診をされずに「この薬を1日10回塗っておけば大丈夫だから」といって薬を出してもらっても、納得感は薄いですよね。なぜ肌荒れになったのかの原因は人それぞれなので、その背景を丁寧にヒアリングすることが大切だと思っています。原因が異なれば、解決策は変わりますから。
サポートデスクのしごとはそれと似ていて、我々もユーザーの問い合わせに回答をする際は、スピーダの機能説明に終始しないようにしています。
もしもユーザーが本当に求めているものでなければ、問題の根本的な解決にはならない。そうなると、最終的には解約につながりかねません。

我々がいま追いかけている主な指標は解約率なんですが、利用時間が長いユーザーは解約しにくいという仮説があって。利用時間が長いユーザーは自分が知りたいことに対して、適切な機能を使いこなし、閲覧しているページも明確なことが多いんです。
自分の業務に対するスピーダの「使いどころ」がわかっていて、会議などでそれを活かせる。「○○さんがつくる資料は役に立つ」という社内評価が得られていることも多い。サポ―トデスクとしては、こうしたサイクルが回るようサポートする必要があると考えています。
そうなると、「A社の営業利益の見方が知りたい」と問い合わせしてくださった方は、もしかしたら「A社が営業利益を堅調に計上できている理由」を知りたがっているのかもしれない。そうであった場合、「どのセグメントが最も営業利益に貢献しているか」や、「競争優位の源泉となる研究者や特許の保有状況はどうか」といった内容を提案することも有用かもしれません。
いただいたリクエストにはもちろん回答するのですが、同時に「なぜその問い合わせをしたか」と尋ねるようにする。「この回答は本当にあなたの役に立つのかどうか」を確認するようにします。
そのユーザーが所属する部署や業務のミッションについて丁寧にヒアリングするようにしています。そうした情報を把握することで、どんな情報を伝えればユーザーのニーズに答えられるかが見えるようになりますね。
「なぜそれが必要か」を丁寧に聞くのと同じで、「どんな情報が必要そうか」を解像度を上げて聞いています。
段階を追って、何が問題で、どんな状態が理想で現状との差分は何かを丁寧に紐解いていく。問題解決型の支援ですね。
問い合わせ内容に対して、速く正確に回答する技術ですね。たとえば金融業界のユーザーはスピーダを使い慣れている方が多く、問い合わせ内容が明確。なので、いかに速く正確に回答できるかを念頭に置いています。スピードが求められる回答がテックに置き換えられるのであれば、人の軸足は問題解決型に移っていくはずです。
人だからこそできる支援を
そうですね。エキスパートリサーチと我々のチームは連携することも多いんです。お互いにどんなお問合せがあるかを学ぶ機会として、チーム留学のような感じでサポートデスクのメンバーがエキスパートリサーチチームにいたこともあって。
エキスパートリサーチを使い慣れているユーザーは、すでに与件整理をしたうえでほしい情報を得にくる。だから与件にドンピシャのエキスパートを、いかに速くアサインできるかの世界なんです。
でも使い慣れていない方は、そもそもエキスパートリサーチを使うことに対するハードルを感じていることも多くて。だから与件整理をしてそのハードルを下げる必要があるんですね。
今後ユーザベースがより成長するためには、事業会社のユーザーを増やす必要があるし、エンタープライズだけでなく中小企業にも広げていかなければいけません。そのなかで、与件整理から伴走する、問題解決型の手厚いサービスは重要になってくると思っています。
我々サポートデスクが介入することで、ユーザー企業の中で与件整理を内製化できるようになれば、その企業の生産性が上がることにもつながると考えているんです。

ありますね。特に問題解決のステップなどは、もっと学ぶ余地があると思っています。悩んでいる人の思考プロセスを可視化したり、一律に対応したりするには、まだまだ解像度が粗い。
同じ企業の中でも部署が違えば、また、同じ部署の中でも勤続年数が違えば、求めるものは異なります。でもその「何が異なるか」は、自分にはまだ言語化しきれていません。
だから、ユーザーの問題解決に役立つものをどう届けるかという観点では、聴く力、ファシリテートする力をもっと身につける必要があると思います。
具体的な施策展開はこれからですね。
エフォートレスエクスペリエンスチームができて以降、我々のチームでは、「人」が対応するからこそできることの輪郭が見えつつあります。
言語化されていないユーザーの悩みを、我々人の力でいかに支援していくか。既存の接点や対応内容を見直し、問題解決のファシリテーション技術やコミュニケーションの技術を組み入れて、対応内容の改善を進めていく必要があると考えています。
ユーザーのための「お買い物コンシェルジュ」の立ち位置を目指す
大きな方針としては、問題解決のためのファシリテーションをするスキルを高めること。人によってスキルに差分があるため、どのメンバーが対応するかによってユーザーへの提供価値に差ができてしまう。その差分を埋めていきたいですね。
所属会社やスピーダの習熟度で期待値も携わり方も、回答の渡し方も違う。たとえば、スピーダを頻繁に使ってくださっている方には初めに解決策を提示する、あまり活用できていない方にはいきなり解決策を提示するのではなく会話を挟むなど、ユーザー個別に対応を変化させていく余地はあると思います。
そうですね。テックの力を活用すれば、「どんなページを見て問い合わせをしてきたか」だけでなく、問い合わせに至るクリックの回数で、「イライラした状態かもしれない」「落ち着いている」といった感情の動きまでわかるんです。
なので、たとえば「イライラしているかもしれない」という通知があったら、電話の口調をゆっくりにするなど、こちらもそれにあわせて対応できますよね。
とはいえ、相手の置かれている状況はAIでは読み取れないハイコンテキストなものになるので、それを適切に把握できるマインドセット、スキルセットを持ちたいですね。
そうですね。なので、いま経営企画や新規事業に携わっている方々は、そもそもキャリアのなかで情報収集に関して学ぶ機会はなかったのではないかと思うんです。
だから、プレミアムサポートチームのリーダーである捧くん(捧 友亮/執行役員 スピーダ事業 カスタマーサポート統括)は、「プレミアムサポートのゴールは継続してもらうことではなく、使われなくなることなんだ」とよく言っています。そうした意味では我々も単なる「作業代行」にならないように気をつけていますね。魚を釣って渡すのではなく、釣り竿の使い方を教えるんだと。

そのために我々は、NewJoiner(中途入社のメンバー)が入社した場合、立ち上がりのために「品質問題集」のようなプログラムを用意しています。
サポートデスクに寄せられるお問合せは傾向がひとつに定まっていなくて、1日の半分以上は決まった答えのない問いに向き合っています。
そうすると、必ず「このユーザーにとって何が役に立つのか」をロジックで考える場面に当たります。そこで「いまあなたがどんな状況にあるか、一緒に整理しましょう」という会話ができる力と、その心構えを、いま以上に研ぎ澄ませる必要があると思っています。
スピーダにアクセスする方は、知りたいことがあるからスピーダを覗きます。でもたとえば洋服が好きな人は、明確な目的がなくてもふらっと洋服屋に立ち寄りますよね。スピーダもそんなふうに、実務上の目的がなくてもウインドウショッピングのように「何かいいものないかな」と期待して寄ってもらえる場所でありたいですね。
ユーザベースが「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」というパーパスを掲げているなかで、サポートデスクがその第一歩になれたらと。
スピーダをデパートにたとえるなら、我々サポートデスクはお買い物コンシェルジュに近い。コンシェルジュを使った方々はその体験を通してデパートのファンになったりしますよね。我々もそうした存在意義を生み出していければと思います。
そして、対面にいるユーザーが目の前の会議を乗り越えるためだけではなく、全社の意思決定を見据えてかかわっていけるような支援を行い、情報収集に携わるプロフェッショナルとして精進していきたいですね。

編集後記
前回サポートデスク組織にインタビューしたのは約4年前でした。そこから新たなチームも誕生し、さらに進化していて驚きました。サポートデスクの話をするとき、いつもとびきりの笑顔を見せてくれる長永は、本当にこの仕事が大好きなんだろうなと思います。今後の進化も楽しみです!



